空っぽな気持ちを抱えた人魚姫が体現するのは、〈毒〉そして〈女〉。ポップに弾ける普段の表情とは対照的に、激しく吐き出される情念と官能性……これも彼女の一部!

 コンセプトは〈毒〉そして〈女〉。LiSAの9枚目のシングル“Empty MERMAiD”は、彼女のエッジーな感性が強く反映された作品となった。ヘヴィー・ロックのテイストを採り入れたモダンなサウンドメイク、挑みかかるようにアグレッシヴなヴォーカル、女性のなかにある情念、官能、激しさを感じさせるリリック。ポップに弾けるLiSAが彼女のパブリック・イメージだとは思うが、ロック・サイドを強調した本作もまた、彼女のアーティスト性に欠かせない要素だ。

 「(アニメーションなどの)タイアップがあるときは、その作品の物語から何をやるかを探すんですけど、今回は何もない状態から〈いま、LiSAがやって意味のあることって何だろう?〉と考えました。そこで辿り着いたテーマが〈毒〉。これまでハッピーな部分をたくさん出してきたからこそ、その裏側にある毒を包み隠さず出しても誤解なく伝わるだろうなと。それともうひとつ、〈女〉を表現したいという気持ちもありました。男の人の女々しさでもいいんですが、今回は、女性のなかにあるダークな感情を歌にしてみたいなって」。

LiSA Empty MERMAiD アニプレックス(2015)

 “Empty MERMAiD”の作曲は、LiSAがアマチュア時代に対バンしたことがあり、「私のなかでは、いちばんカッコイイ女性ヴォーカルのバンド」というUPLIFT SPICEのギタリスト、YOOKEY。そこにLiSAのロック・サイドを支えてきたakkinが編曲で参加したこのナンバーは、MAHSiM)とコラボレーションした“L.Miranic”に続くラウド・ロック・チューンに仕上がっている。また、「人魚姫」をモチーフに〈愛されたい、認められたい〉という渇望を描いたLiSAの歌詞には、彼女自身のリアルな想いも重ねられているようだ。

 「UPLIFT SPICEは私が対バンさせてもらたっときから何も変わってないし、ブレてない。いまはラウド・ロックも人気になってますが〈このバンド、ずっと前からこういうことやってたから!〉って言いたい気持ちもありました(笑)。歌詞のテーマは〈人魚姫〉。声と引き換えに足をもらって王子様を助けるんだけど、王子様は他の女性と結ばれて、人魚姫は泡になって消えてしまう。その姿に自分の空っぽな気持ちを重ねられるんじゃないかなって。自分のなかの承認欲求は……〈ない〉と言えば嘘になります。好きな人にはずっと愛してほしいし、ファンの人ともずっと一緒にいたいし。そうなれるように、私ができることはすべてやるしかないですね」。

 2曲目の“リスキー”の作曲は、今回が初の楽曲提供となる小南泰葉。揺れる感情とリンクするような起伏の激しいメロディーと、緻密にしてドラマティックなバンド・サウンド(アレンジは、いきものがかりポルノグラフィティなどを手掛ける江口亮)がひとつになったこの曲は、シンガーとしてのLiSAの新しい表情を引き出している。

 「私はたぶん、刺々しい部分、尖ったところがある方じゃないと一緒に作れないんだと思います。小南さんの音楽はもともと大好きだし、少なからず影響を受けているので、この曲もすごく自然に歌えました。歌詞のテーマは〈執着〉。恋愛だったり、自分の子供に対してだったり、誰かに夢中になっている女性は魅力的だと思うんですよ。私自身は執着するタイプではないんですけど、そういう気持ちがないわけではないので」。

 加えて、“DOCTOR”“蜜”でもタッグを組んだカヨコの作曲による“虚無”も収録。「カヨコさんの楽曲によって、〈私にも女性らしいメロディーが歌えるんだ〉と知りました」というLiSAは、この曲でも憂いと妖艶さを帯びたヴォーカルを披露している。

 「いい意味で場末感のあるメロディーだし、また新しい自分の見せ方ができたなって。歌詞もメロディーに引っ張られているところがあるんですよ。〈恨んでも 恨んでも〉なんて、演歌の世界ですから(笑)。カヨコさんのせいにして、こういう歌詞が書けるのも楽しいですね」。