世代を代表する2人のファンク・マスターが、今秋立て続けに来日する。まず注目すべきは、ニュー・アルバム『Invite The Light』を先日リリースしたばかりのブギー先駆者、デイム・ファンク。11月17日(火)にBillboard-LIVE TOKYO、19日(木)にBillboard-LIVE OSAKAのステージに立つ。それより一足早く日本にやってくるのが、オハイオが誇る伝説的バンド、スレイヴのフロントマンとして活躍したスティーヴ・アーリントン。サンプリング・ネタの宝庫としても愛され、いまも衰えを知らぬレジェンドは今回がなんと初来日で、10月20日(火)と21日(水)にBillboard-LIVE TOKYOに登場する。
師弟関係にあり、世代を超えたコラボレーションでもファンを魅了してきた2人は、昨今のメインストリームにおけるブギー/ファンクの予見者ともいえる存在であり、この度の来日公演でもモダン・ファンクの最高峰が楽しめるはずだ。そこで今回は、「ヤング・アダルトU.S.A.」「文化系のためのヒップホップ入門」などの共著でも知られ、ブラック・ミュージック全般に造詣が深いライター/コラムニストの長谷川町蔵氏に、両者のソウルフルなキャリアと公演の見どころを解説してもらった。(Mikiki編集部)
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ここではないどこか。アフリカ系アメリカ人が創る音楽を愛するポップ・ファンなら、彼らが音楽を通じてそんな場所を求め続けてきたことを知っているはずだ。
最初、その場所は天国と呼ばれた。またある時、それは汽車の終着駅である大都会を指していた。そしていつからか、そこは〈宇宙〉になった。
宇宙は人智を超えた場所だ。だから宇宙を語るとき人は超人的な別人格を装う必要があるのかもしれない。たとえば1914年生まれのジャズ・ピアニスト、ハーマン・プール・ブラント。彼は50年代後半に自らの楽団を結成すると、土星生まれの宇宙人サン・ラを名乗り、79歳で地球を去るまで独自の哲学を発信し続けた。1941年生まれの元床屋、ジョージ・クリントンは「スター・ウォーズ」ブームで全米が沸き立つ70年代後半に、ファンクの伝道師ドクター・ファンケンクラインと宿敵サー・ノウズの二役を演じながら宇宙空間の戦いを描き続けた。1957年生まれのケヴィン・ドノヴァンはヒップホップの創始者のひとり、アフリカ・バンバータとなった。彼の代表曲のタイトルは〈Planet Rock(惑星ロック)〉という。
こうしたミュージシャンの宇宙への想いを、サウンド面で表現していたのがシンセサイザーやドラム・マシーンだった。当初、現代音楽の世界で細々と使われていたこの魔法の道具は、70年代にポップ・ミュージックの世界に流れ込むとシーンに革命をもたらした。なかでもR&Bやファンク ・ミュージックは革命の度合いが最も激しかった。それまで生楽器で奏でられていたのに、一斉にマシーン化したのだから。きっと彼らはこうした楽器から〈宇宙〉を感じ取ったのだろう。
ザップ、キャミオ、エムトゥーメイ、この時代に活躍した機械仕掛けのグルーヴの魔術師たちの名は数えきれないほどだ。あの天才プリンスやジャム&ルイスを輩出したミネアポリスのファンク・シーンも当初は革命勢力の一流派でしかなかった。そのサウンドは、宇宙旅行のシミュレーターであると同時に、自己と向き合う鏡であり、恋人たちをベッドルームに誘う媚薬でもあった。
こうしたサウンドにどっぷり浸かりながら多感な十代を過ごしたのが、71年にカリフォルニア州郊外のパサディナで生まれたデイモン・ギャレット・リディックだった。90年代に入ると黒人音楽のサウンドの主流は、サンプリングによる埃っぽいリアルなビートに移っていったものの、彼はスペイシーでエレガントなブギー/ファンクの白日夢を見続けたのである。
デイモンは成長してもその夢を追い求めた。シャラマーやレイクサイドのプロデューサーとして西海岸ファンクの第一人者とされていたレオン・シルヴァーズ三世のアシスタントとしてキャリアをスタートすると、Gファンク華やかなりし90年代西海岸ヒップホップ・シーンに身を投じ、アイス・キューブが結成したユニット、ウエスト・サイド・コネクションやMCエイトのアルバムでキーボードをプレイ。この時代の代表作は、ダーティー・サウスの大立者マスターPのサントラ『I Got The Hook Up』だという。しかし当時はそうしたセッションだけでは食べていけず、別の仕事も並行していたようだ。
状況が変化したのは、ゼロ年代にLAのクラブ・カーボンで〈Funkmosphere〉と名づけたDJイヴェントを始めて以降のことだ。トレンドに背を向け、自らが愛してやまないブギー/ファンクのレコードを中心としたマニアックな選曲は、やがてLAきってのヴィニール・ジャンキーとして知られるピーナッツ・バター・ウルフの目に留まるように。そして自宅で作っていたデモ・テープをバター・ウルフが聞いたことによって、デイモンが宇宙を語るチャンスが遂に訪れた。彼はデイム・ファンクとして、バター・ウルフが主宰するストーンズ・スロウとアーティスト契約を結んだのである。
2009年に彼が放ったデビュー・アルバム『Toeachizown』を聴いたときの驚きはいまでも忘れられない。ディスコなのにネット・カフェっぽい。つまりレトロなのに未来的。それはデイム・ファンクが単なる70〜80年代のノスタルジーに陥ることなく、ハウス〜テクノやGファンクを経過した21世紀のブギー/ファンクとして自身の音楽をクリエイトしていたからだ。
こうしてトレンドに背を向けていたはずの男は、シーンにトレンドをもたらすことになった。『Toeachizown』発表以降のメガ・ヒット曲を思い出してほしい。ダフト・パンク“Get Lucky”、同曲で歌っていたファレル・ウィリアムスがプロデュースしたロビン・シック“Blurred Lines”、そしてマーク・ロンソンとブルーノ・マーズの“Uptown Funk”。そう、ブギー/ファンク・リヴァイヴァルは米国の一大ブームになったのだ。
ブームを先駆けたことによって、デイム・ファンクの存在は単なるインディー・レーベルのアーティストの地位を超越している。2013年にはスヌープ・ドッグ(彼は2007年のヒット曲〈Sexual Eruption〉でデイム・ファンクと同種の音楽性に取り組んでいた)に声をかけられ、セブン・デイズ・オブ・ファンク(7 Days Of Funk)名義で共作アルバムを発表。ゲストにはドッグ・パウンドやブーツィー・コリンズも駆けつけるなど、華やかな仕上がりとなった。また今年の夏にはトッド・ラングレンの全米ツアーに参加、キーボードとDJを担当している。〈フジロック〉で物議を醸したトッドの来日公演には不参加だったものの、斬新なバックトラックには彼が関与した可能性大だ。
そして遂にこの秋、待望のセカンド・アルバム『Invite The Light』がリリースされた。この6年間でデイム・ファンクのシーンにおける存在感がどれだけ大きなものになったかが、錚々たるゲストを見てもわかる。オープニングとエンディングで語りを務めるのは、オハイオ・プレイヤーズ〜Pファンクと渡り歩いたファンク・レジェンド、ジュニー・モリソン。スヌープはもちろんQ・ティップがマイクを握り、アリエル・ピンクが歌い、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーがベースを弾いている。師匠のレオン・シルヴァーズ三世とその息子、シャラマーのジョディ・ワトリーといった西海岸の先輩たちを招いているところも泣かせる。
そんな豪華なゲストに囲まれながらも、聴きどころはあくまでもデイム・ファンク自身による目眩くようなサウンドだ。ビートはよりファットに、ウワモノはより繊細になった。ヴォーカリストとしての成長も著しい。ライブでは、イー・デイ(キーボード/ベース)とレジー・レッグ(ドラムス)というふたりのミュージシャンを伴ったトリオ編成になるようで、生ドラムを導入したデイム・ファンクがどんなサウンドをクリエイトするか楽しみだ。きっと観客はここではないどこかにトリップすることだろう。
奇しくもデイム・ファンクに先立って、彼が敬愛してやまない伝説的なミュージシャン、スティーヴ・アーリントンの来日も実現する。オハイオ生まれのアーリントンは、オハイオ・プレイヤーズの弟分として知られたファンク・バンド、スレイヴにドラマーとして加入。ヴォーカリストに転向すると、後にスヌープ・ドッグのデビュー・アルバム『Doggystyle』収録曲“Gin And Juice”のサビメロに引用されることになるグループの代表曲“Watching You”などに貢献。
スレイヴ脱退後は、自身のユニット、ホール・オブ・フェイムを結成して精力的な活動を展開した。ドクター・ドレーやアイス・キューブ、イージー・Eが在籍し、伝記映画『Straight Outta Compton』が全米で大ヒットを記録したヒップホップ・グループN.W.A.の代表曲のひとつ“Gangsta, Gangsta”はホール・オブ・フェイムの“Weak At The Knees”をサンプリングしたものだ。同曲収録のアルバムを聴けば、メロウなウワモノや柔らかいヴォーカルといった面において、デイム・ファンクがいかにアーリントンから影響を受けているかが分かるはずだ。
90年代以降はショウビジネスの世界を離れて教会で演奏していたというアーリントンを表舞台に呼び戻したのもデイム・ファンクである。アーリントンは直接ソーシャル・メディアでデイム・ファンクからコンタクトを受けると、2013年に共演アルバム『Higher』を製作、劇的な復活を果たしたのだ。この作品がきっかけとなって、アーリントンは活動を活発化。『Invite The Light』のほかにも、ファレルが後見人の双子プロデューサー・デュオ、クリスチャン・リッチのアルバムにゲスト参加している。今回は5人編成のバンドを従えての来日となるようで、スレイヴやホール・オブ・フェイムの名曲はもちろん、新曲も披露してくれるはずだ。
〈スティーヴ・アーリントン(formerly of スレイヴ)〉
日時/会場:10月20日(火)、21日(水) Billboard-Live TOKYO
1stステージ:開場17:30 開演19:00
2ndステージ:開場20:45 開演21:30
料金:サービスエリア/9,500円 カジュアルエリア/7,500円
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〈デイム・ファンク -Modern-Funk Live Band〉
【東京公演】
日時/会場:11月17日(火) Billboard-Live TOKYO
1stステージ:開場17:30 開演19:00
2ndステージ:開場20:45 開演21:30
料金:サービスエリア/8,500円 カジュアルエリア/6,500円
※公演詳細はこちら
【大阪公演】
日時/会場:11月19日(木) Billboard-Live OSAKA
1stステージ:開場17:30 開演18:30
2ndステージ:開場20:45 開演21:30
料金:サービスエリア/8,400円 カジュアルエリア/6,900円
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デイム・ファンク来日公演 1組2名さまご招待!※応募は終了しました
11月17日(火)にBillboard-Live TOKYOで開催される1stステージのチケットを、Mikiki読者1組2名さまにプレゼントします。応募締め切りは10月25日(日)。どうぞふるってご応募ください。応募方法は以下をチェック!
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