LOVE AND LATIN POP
[緊急ワイド]ラティーノ・ウルバーノの現在
アーバン・ミュージックと結び付いてどんどん広がるラテン・ポップの世界。暑い季節は過ぎてしまったとしても、この界隈の情熱烈風は年中無休なのだ!!
WISING WELL
レゲトン・シーンをサヴァイヴしてラテン・アーバン界のエースに成り上がったウィシンが、仲間たちを集めた2枚組の新作で改めて己の原点を世に問う!!
ラテン・グラミーなどのアウォードを眺めていればわかるように、ラテン・ポップの分野において定着している〈ラティーノ・ウルバーノ〉=〈ラテン・アーバン〉という呼称。〈アーバン〉といっても邦楽の文章でよく見る形容のことではなく、いわゆるR&B/ヒップホップなどの総称としての〈アーバン・ミュージック〉のことである。そして、ラテン・ポップの内側でその呼称が定着したのにはレゲトンの影響が大きかった。
2000年代半ばのブームがあまりにも急激に肥大化したこともあって日本では一過性の現象だったと捉えている人も多そうなレゲトンだが、ラテン版レゲエというよりはプエルトリカン・ヒップホップと考えたほうが近い(実際にラップ・チャートに入る曲も多い)この音楽は、伝統的な音楽やカルチャー、言語と欧米のアーバン・ミュージックが融和して生まれ、変化を繰り返しながら、いまではラティーノ・コミュニティーに根差すポップスとして普通に定着しているものだと言える。レゲトンが大きくなって以降、その要領でバチャータがR&Bやレゲエに接近したり、メレンゲやクンビアが機能性を高めてEDMなどにもリーチしているように、現行ラテン~トロピカル・ポップの多くはとっくに現在進行形な異文化の音楽と当然のように混じり合っているのだ。ダンス文化の広がりやフィットネスの流行などもあって、恐らく生真面目な音楽マニアの人が思っている以上に、そうしたラテン・アーバンの音楽やそこから派生したあれこれは無意識に親しまれているはずである。
……というのが前提として。そのようなデカい胃袋にさまざまなフィールドの音楽を放り込み、自身の表現を生み出しながらサヴァイヴし続けてきたレゲトン・アクトの筆頭こそ、ここで紹介するウィシンである。もともとウィシン&ヤンデルというコンビを組んで90年代から活動してきた彼は、ダディ・ヤンキーやドン・オマールらと並んで〈レゲトン・ブーム〉期にブレイクしたシーンの生え抜き。コンビでも積極的にシーン内外と垣根なく交流し、リッキー・マーティンやエンリケ・イグレシアス、ボーン・サグズン・ハーモニー、クリス・ブラウンやT・ペイン、ショーン・キングストンらと自在にリンクしてきた彼は、本稿で言うところのアーバナイズをラテン・ポップ内で推進してきた人とも言える。デュオの休止後はソロ活動に移行し、昨年春には10年ぶりのソロ・アルバム『El Regreso Del Sobreviviente』を発表。そこではダンス・トラックをEDM時代のモードにも合わせてアッパーに舵取りし、クリス・ブラウンやピットブルとの再合体も実現させている。特に先達のリッキー・マーティンとジェニファー・ロペスを迎えた“Adrenalina”は中南米諸国にも跨がる特大ヒットとなり、ウィシンはコンビ時代以上のワールドワイドなラテン・スターに一歩近づいたのだった。
それ以降の彼はディスクガイド(後日公開)で紹介しているようなレゲトン作品はもちろん、過日のピットブル“Baddest Girl In Town”をはじめ、ソフィア・レイエスやロス・キャデラックス、アナイ、バンダ・エル・レコド・デ・クルス・リサラガ(!)ら、ラテン音楽におけるさまざまなシーンで八面六臂の活躍を見せた。そして、今回リリースされた1年半ぶりのサード・アルバム『Los Vaqueros: La Trilogia』は、実に2枚組23曲に渡って、組みたい仲間をズラリと並べ、やりたいことをやってみせたような意欲作に仕上がっている。
表題にある〈vaquero〉はスペイン語で〈カウボーイ〉の意味だそうで、ノリとしてはサダトXの『Wild Cowboys』みたいな感じだろうか。まさに邦題の〈俺と仲間たち〉という感じそのままだが、それを体現するのがDisc-1の冒頭に置かれた、エル・パトロンことティト・エル・バンビーノやJ・アルヴァレス、ヴェテランのベイビー・ラスタ、若手のニェンゴ・フロウやファルーコ、プショら10名のラッパー/シンガーを迎えて怒濤のマイクリレーを繰り広げる表題曲だろう。まさにレゲトンのストリート的/ヒップホップ的な部分をそこで表現しつつ、先行カットの“Nota De Amor”ではバジェナートの大御所であるコロンビアのカルロス・ビベスとダディ・ヤンキーを招いてトラディショナルなトロピカル・ポップも聴かせてくれる。さらに最近好調のリッキー・マーティンとは強力なダンス・チューン“Que Se Sienta El Deseo”で大爆発。もちろん旧知のコスクリュエラやフランコ・エル・ゴリラら馴染みの連中とサシで絡む王道のレゲトン・ナンバーも盛りだくさんだ。
対するDisc-2ではさらにヴォーカリストを多めに起用してメロディアスな古今のラテン情緒を彩り豊かにトッピング。J・アルヴァレスやファルーコ、ロス・キャデラックスらと並んで、エレガントな“Tu Libertad”ではプリンス・ロイスと初顔合わせしたり、ゲスト個々の持ち味を引き出すキャッチーなもてなしにも余念がない。
つまり、冒頭に触れたようなジャンル論などどうでもよくなるのが、こういう音楽の良いところでもある。野心的なウィシンの試みを無条件で楽しんでほしい。