エマーソン北村、VIDEOTAPEMUSIC、TUCKER

 

VHSに封じ込められた過去の音と映像のサンプリングと生演奏を駆使して、現代に響くエキゾでラウンジーで踊れる場を作り出すアーティスト、VIDEOTAPEMUSIC。彼が9月末にリリースした待望の新作『世界各国の夜』のリリース・パーティーが渋谷WWWで10月24日(土)に行われる。当日、VIDEOTAPEMUSIC、思い出野郎Aチームと共にライヴに出演するのがエマーソン北村TUCKER。ユニークな個性を持つキーボーディストであり、クラブからライヴハウスまで自在な活動を続け、幅広い層から愛されているこの2人。VIDEOTAPEMUSICにとって彼らは、長いキャリアを持つキーボード・プレイヤーとして尊敬すべき先輩であるのみならず、自分の音楽と場所、演奏家と観客との関係を新しく考えることをテーマにした表現者という意味では盟友とも言える。

この3人が久しぶりに同じ舞台に揃うというタイミングと、エマーソン北村の昨年のアルバム『遠近に』から7インチ・シングル3枚同時リリースというサプライズなニュース。その2つのトピックをきっかけに、キーボーディストとして3人が話す機会を設けてみた。お互いの出会い、音源や活動姿勢への興味から、キーボード観、ライヴ観に至るまで話しまくった、他にはないキーボーディスト鼎談!

【参考動画】VIDEOTAPEMUSICの2015年作『世界各国の夜』収録曲“Hong Kong Night View”のMV

    

最初はエマさんが怖くて話せませんでした(TUCKER)

――VIDEOTAPEMUSICのアルバム『世界各国の夜』リリース・パーティーが目前に迫っていて、すごく楽しみにしてます。今日お集まりいただいたエマーソン北村さんとTUCKERさんはその日、一緒に出演されるんですが、この3人の顔合わせは実は初めてじゃないんですよね。2013年の4月8日、下北沢の440で最初に実現してるんです。

 エマーソン北村「そうなんですよね」

――さらに、11月にはエマさんが昨年リリースされたソロ・アルバム『遠近に』から3枚の7インチ・シングルを同時リリースされる予定ということで、このタイミングで3人に集まってもらうのはおもしろいかなと思ったんです。話の振り出しは、やっぱりあの440の日になると思うんです。あの日は、もともとKAKUBARHYTHMからリリースしたエマさんとTUCKERさんのスプリット・シングル“SPECIAL PRESETS”のリリパでしたよね?

【参考動画】TUCKERとエマーソン北村の2013年作スプリット・7インチ・シングル“SPECIAL PRESETS”の予告編映像(directed by TUCKER)

 

TUCKER「そうだ。それでVIDEOくんに出てもらったんだよね」

VIDEOTAPEMUSIC「いや、実は僕もリリースのタイミングだったんですよ。ROSEから7インチ・シングル“Slumber Party Girl's Diary”をその年の2月に出して、そのB面でリミックスをTUCKERさんにやってもらったんです。だから、〈TUCKERさんを呼んでリリース・パーティーしたいね〉ってROSEとも話してたんですよ」

【参考動画】VIDEOTAPEMUSICの2013年作7インチ・シングル“Slumber Party Girl's Diary”トレイラー映像

 

――そうか。その2つのリリースが結局合体して、あの日のライヴになったんですね。それ以前にVIDEOくんとTUCKERさんの面識はあったんですか?

VIDEO「2012年に出したアルバム『7泊8日』では、リリパを2回やったんですよ。最初に渋谷の7th Floorでライヴハウス版をやって、その後、代官山のSALOONでやけのはらさんのミックスCDのリリース・パーティーも兼ねたクラブ版をやるという流れでした。やけさんと〈誰を呼びたいか〉って話になった際にTUCKERさんの名前が出て、それで出てもらったんです」

TUCKER「ああ、ありましたね」

VIDEO「TUCKERさんとあらぴー(荒内佑cero)と僕の3人で“Slumber Party Girl's Diary”を一緒にやったんですけど、そのときのTUCKERさんに弾いてもらった感触がすごく良くって。シングルを出すときにはTUCKERさんにリミックスしてもらったらいいなと思って、実際にお願いしました」

――エマさんとTUCKERさんとの縁ということになると、お互いに結構なキャリアがあるし、どれくらいまで遡れるんですか?

TUCKER「僕とエマさんですか? それはKAKUBARHYTHMの7インチがやっぱり一番最初でした」

エマーソン「ちゃんと何かを一緒にやったのは初めてでしたね」

TUCKER「その前は、一緒に演奏したというのはないけど、同じイヴェントに出てるというのはありましたね」

エマーソン「それはかなり前からありましたね。西麻布のYellowとかでも一緒になってたよね。最初にTUCKERがエレクトーン鳴らしてる印象があるのはYellowだった」

TUCKER「その頃は僕はエマさんが怖くて話せませんでしたね(笑)」

エマーソン「怖くないでしょ。TUCKERだってエレクトーン燃やしてるわけだし(笑)」

TUCKER「でも、エマさんのイメージとして〈ちょっと怖い人なんじゃないかな〉っていうのはずっと思ってました」

――その怖さからいつどうやって打ち解けたんですか?

TUCKER「シングルをやる前に、僕からKAKUBARHYTHMを通してエマさんに〈ちょっと一緒にやりませんか?〉って打診してもらったんです」

エマーソン「会って話してたら、すごく自然に〈シングル一緒に作りましょうか〉って話になったよね」

――あのシングルは、それぞれのソロ曲が1曲ずつと、お互いに相手をフィーチャリングするという共演曲が1曲ずつという構成でした。

VIDEO「その制作を経て、あの440の日に初めて2人が一緒に演奏したんですよね」

TUCKER「ああ、そうでした!」

VIDEO「しかもあのときは440の窓側にキーボードを置いて2人で演奏しましたよね」

――普通なら客席や物販のスペースがあるところで演奏したんでしたね。あれは眺めとしてもすごかった。

TUCKER「ちょっと楽器屋っぽくしたいというコンセプトだったんですよ。普通はステージがあってお客さんに向かうんですけど、あのときエマさんと話して決めたコンセプトは、演奏してる人があえて通りに面してるほうにいることで歩いてる人にも姿が見えるようにしたかったんですよ」

エマーソン「結果的にステージにはVIDEOくんだけがいるという状況になったけど(笑)」

VIDEO「だから、あのときはステージ上にも客席組みましたから(笑)。僕だけステージでやるのも抵抗があって〈ステージも客席と混ぜちゃえ〉って、ステージ上にもテーブルと椅子を置いてお客さんに座ってもらいまいした。エマさんとTUCKERさんの演奏中は、演奏してる映像をステージ上のスクリーンに映したり。その場の思いつきだけでいろいろややこしいことやってたんです(笑)」

 

VIDEOTAPEMUSIC

映像ディレクター/ミュージシャンなど。VHSの映像とピアニカを使ってライヴをするほか、MV制作、VJDJ、イヴェントのオーガナイズなど活動は多岐に渡る。これまでにレコード、CDCD‐Rなどのメディアでさまざまな作品を発表。CDでは『78日』に続く新作『世界各国の夜』(KAKUBARHYTHM)をリリースしたばかり。これまでにMVVJなど映像で関わってきたアーティストは、ceroサニーデイサービスGotchASIAN KUNG-FU GENARATION小島麻由美片想いKONCOS、やけのはら、Dorian禁断の多数決Alfred Beach SandalNRQodd eyesHi,how are you?など多数。

 

――あの日は、最後に3人のセッションもありましたね。VIDEOくんはあのセッションをきっかけにキーボード・プレイヤーとしての自覚が生まれたと言ってました。

VIDEO「それまで僕は映像とトラックを作るという意識で、ピアニカも家にあったもので気軽に始められたからやってたくらいで、キーボード・プレイヤーとしての自覚はそんなになかったんです。でも、あの日、お2人と並んでやることになったときに、〈この並びだと僕もキーボード・プレイヤーと思われてしまう!〉と思ったんです。そうなったからには、もうやるしかない。この楽器にちゃんと責任持たなきゃなという感覚が芽生えはじめたんです」

――あの日の共演以降、VIDEOくんがピアニカを吹く姿にすごく熱を感じるようになりましたけどね。

VIDEO「そうですね。結果的に一緒にセッションさせてもらったことで一個スイッチが入りました。自分の選んだピアニカという鍵盤のことをもう一回考えよう、みたいな」

――確かに、『7泊8日』と『世界各国の夜』を比べると、リード楽器としてのピアニカの存在感がずいぶん増したなと思います。

VIDEO「そうですね。そこをちょっと強調するようにはなりました」