エマーソン北村、VIDEOTAPEMUSIC、TUCKER

 

VHSに封じ込められた過去の音と映像のサンプリングと生演奏を駆使して、現代に響くエキゾでラウンジーで踊れる場を作り出すアーティスト、VIDEOTAPEMUSIC。彼が9月末にリリースした待望の新作『世界各国の夜』のリリース・パーティーが渋谷WWWで10月24日(土)に行われる。当日、VIDEOTAPEMUSIC、思い出野郎Aチームと共にライヴに出演するのがエマーソン北村&TUCKER。ユニークな個性を持つキーボーディストであり、クラブからライヴハウスまで自在な活動を続け、幅広い層から愛されているこの2人。VIDEOTAPEMUSICにとって彼らは、長いキャリアを持つキーボード・プレイヤーとして尊敬すべき先輩であるのみならず、自分の音楽と場所、演奏家と観客との関係を新しく考えることをテーマにした表現者という意味では盟友とも言える。

この3人が久しぶりに同じ舞台に揃うというタイミングと、エマーソン北村の昨年のアルバム『遠近に』から7インチ・シングル3枚同時リリースというサプライズなニュース。その2つのトピックをきっかけに、キーボーディストとして3人が話す機会を設けてみた。お互いの出会い、音源や活動姿勢への興味から、キーボード観、ライヴ観に至るまで話しまくった、他にはないキーボーディスト鼎談!

【参考動画】VIDEOTAPEMUSICの2015年作『世界各国の夜』収録曲“Hong Kong Night View”のMV

    

最初はエマさんが怖くて話せませんでした(TUCKER)

――VIDEOTAPEMUSICのアルバム『世界各国の夜』リリース・パーティーが目前に迫っていて、すごく楽しみにしてます。今日お集まりいただいたエマーソン北村さんとTUCKERさんはその日、一緒に出演されるんですが、この3人の顔合わせは実は初めてじゃないんですよね。2013年の4月8日、下北沢の440で最初に実現してるんです。

 エマーソン北村「そうなんですよね」

――さらに、11月にはエマさんが昨年リリースされたソロ・アルバム『遠近に』から3枚の7インチ・シングルを同時リリースされる予定ということで、このタイミングで3人に集まってもらうのはおもしろいかなと思ったんです。話の振り出しは、やっぱりあの440の日になると思うんです。あの日は、もともとKAKUBARHYTHMからリリースしたエマさんとTUCKERさんのスプリット・シングル“SPECIAL PRESETS”のリリパでしたよね?

【参考動画】TUCKERとエマーソン北村の2013年作スプリット・7インチ・シングル“SPECIAL PRESETS”の予告編映像(directed by TUCKER)

 

TUCKER「そうだ。それでVIDEOくんに出てもらったんだよね」

VIDEOTAPEMUSIC「いや、実は僕もリリースのタイミングだったんですよ。ROSEから7インチ・シングル“Slumber Party Girl's Diary”をその年の2月に出して、そのB面でリミックスをTUCKERさんにやってもらったんです。だから、〈TUCKERさんを呼んでリリース・パーティーしたいね〉ってROSEとも話してたんですよ」

【参考動画】VIDEOTAPEMUSICの2013年作7インチ・シングル“Slumber Party Girl's Diary”トレイラー映像

 

――そうか。その2つのリリースが結局合体して、あの日のライヴになったんですね。それ以前にVIDEOくんとTUCKERさんの面識はあったんですか?

VIDEO「2012年に出したアルバム『7泊8日』では、リリパを2回やったんですよ。最初に渋谷の7th Floorでライヴハウス版をやって、その後、代官山のSALOONでやけのはらさんのミックスCDのリリース・パーティーも兼ねたクラブ版をやるという流れでした。やけさんと〈誰を呼びたいか〉って話になった際にTUCKERさんの名前が出て、それで出てもらったんです」

TUCKER「ああ、ありましたね」

VIDEO「TUCKERさんとあらぴー(荒内佑・cero)と僕の3人で“Slumber Party Girl's Diary”を一緒にやったんですけど、そのときのTUCKERさんに弾いてもらった感触がすごく良くって。シングルを出すときにはTUCKERさんにリミックスしてもらったらいいなと思って、実際にお願いしました」

――エマさんとTUCKERさんとの縁ということになると、お互いに結構なキャリアがあるし、どれくらいまで遡れるんですか?

TUCKER「僕とエマさんですか? それはKAKUBARHYTHMの7インチがやっぱり一番最初でした」

エマーソン「ちゃんと何かを一緒にやったのは初めてでしたね」

TUCKER「その前は、一緒に演奏したというのはないけど、同じイヴェントに出てるというのはありましたね」

エマーソン「それはかなり前からありましたね。西麻布のYellowとかでも一緒になってたよね。最初にTUCKERがエレクトーン鳴らしてる印象があるのはYellowだった」

TUCKER「その頃は僕はエマさんが怖くて話せませんでしたね(笑)」

エマーソン「怖くないでしょ。TUCKERだってエレクトーン燃やしてるわけだし(笑)」

TUCKER「でも、エマさんのイメージとして〈ちょっと怖い人なんじゃないかな〉っていうのはずっと思ってました」

――その怖さからいつどうやって打ち解けたんですか?

TUCKER「シングルをやる前に、僕からKAKUBARHYTHMを通してエマさんに〈ちょっと一緒にやりませんか?〉って打診してもらったんです」

エマーソン「会って話してたら、すごく自然に〈シングル一緒に作りましょうか〉って話になったよね」

――あのシングルは、それぞれのソロ曲が1曲ずつと、お互いに相手をフィーチャリングするという共演曲が1曲ずつという構成でした。

VIDEO「その制作を経て、あの440の日に初めて2人が一緒に演奏したんですよね」

TUCKER「ああ、そうでした!」

VIDEO「しかもあのときは440の窓側にキーボードを置いて2人で演奏しましたよね」

――普通なら客席や物販のスペースがあるところで演奏したんでしたね。あれは眺めとしてもすごかった。

TUCKER「ちょっと楽器屋っぽくしたいというコンセプトだったんですよ。普通はステージがあってお客さんに向かうんですけど、あのときエマさんと話して決めたコンセプトは、演奏してる人があえて通りに面してるほうにいることで歩いてる人にも姿が見えるようにしたかったんですよ」

エマーソン「結果的にステージにはVIDEOくんだけがいるという状況になったけど(笑)」

VIDEO「だから、あのときはステージ上にも客席組みましたから(笑)。僕だけステージでやるのも抵抗があって〈ステージも客席と混ぜちゃえ〉って、ステージ上にもテーブルと椅子を置いてお客さんに座ってもらいまいした。エマさんとTUCKERさんの演奏中は、演奏してる映像をステージ上のスクリーンに映したり。その場の思いつきだけでいろいろややこしいことやってたんです(笑)」

 

◎VIDEOTAPEMUSIC

映像ディレクター/ミュージシャンなど。VHSの映像とピアニカを使ってライヴをするほか、MV制作、VJ、DJ、イヴェントのオーガナイズなど活動は多岐に渡る。これまでにレコード、CD、CD‐Rなどのメディアでさまざまな作品を発表。CDでは『7泊8日』に続く新作『世界各国の夜』(KAKUBARHYTHM)をリリースしたばかり。これまでにMVやVJなど映像で関わってきたアーティストは、cero、サニーデイサービス、Gotch(ASIAN KUNG-FU GENARATION)、小島麻由美、片想い、KONCOS、やけのはら、Dorian、禁断の多数決、Alfred Beach Sandal、NRQ、odd eyes、Hi,how are you?など多数。

 

――あの日は、最後に3人のセッションもありましたね。VIDEOくんはあのセッションをきっかけにキーボード・プレイヤーとしての自覚が生まれたと言ってました。

VIDEO「それまで僕は映像とトラックを作るという意識で、ピアニカも家にあったもので気軽に始められたからやってたくらいで、キーボード・プレイヤーとしての自覚はそんなになかったんです。でも、あの日、お2人と並んでやることになったときに、〈この並びだと僕もキーボード・プレイヤーと思われてしまう!〉と思ったんです。そうなったからには、もうやるしかない。この楽器にちゃんと責任持たなきゃなという感覚が芽生えはじめたんです」

――あの日の共演以降、VIDEOくんがピアニカを吹く姿にすごく熱を感じるようになりましたけどね。

VIDEO「そうですね。結果的に一緒にセッションさせてもらったことで一個スイッチが入りました。自分の選んだピアニカという鍵盤のことをもう一回考えよう、みたいな」

――確かに、『7泊8日』と『世界各国の夜』を比べると、リード楽器としてのピアニカの存在感がずいぶん増したなと思います。

VIDEO「そうですね。そこをちょっと強調するようにはなりました」

 

この3人は曲の佇まいが共通している(VIDEOTAPEMUSIC)

VIDEOTAPEMUSIC 世界各国の夜 KAKUBARHYTHM(2015)

――エマさん、TUCKERさんは『世界各国の夜』をどう聴きました?

TUCKER「またさらにアップデートした感ありますよね。クォリティーが上がってるし、有機的な要素がかなり増えた」

VIDEO「鍵盤と向き合いはじめたというのが、有機的な要素なのかもしれないですね」

TUCKER「ライヴ向けのバンド編成の曲とかもあるしね」

エマーソン「ずいぶん生演奏でアレンジされてる比重がすごく大きくなったなと」

VIDEO「ですね。スティール・ギターやホーン、パーカッションを入れてライヴをする機会が増えたので、それをフィードバックしていったらああいう比重になったという面はあります」

エマーソン「今年の8月の頭に恵比寿LIQUIDROOM(〈LIQUIDROOM 11th ANNIVERSARY ~カクバリズムの夏祭り~ "Summer's Here"〉)で観たライヴの印象が大きくて。あれはバンドでやってて、すごく生演奏な感じだったので、すごく前進してるなっていう感じがありました」

【参考動画】VIDEOTAPEMUSICの2015年作『世界各国の夜』収録曲“Kung-Fu Mambo”の
〈LIQUIDROOM 11th ANNIVERSARY ~カクバリズムの夏祭り~ "Summer's Here"〉でのライヴ映像

 

――VIDEOくんはエマさんやTUCKERさんの作品はどういうふうに聴いてました?

VIDEO「鍵盤を扱う先輩として学ぶことも多いですし、2人とも楽器そのものへの愛着をすごく感じますね」

――VIDEOくんの新作、エマさんの『遠近に』、そしてTUCKERの『TUCKER Plays 19 Post Cards』もそうなんですけど、三者三様にエキゾ的な表現を自分なりに解釈しているというのは下敷きにありますよね。日常と知らない世界が繋がってるという感覚が通底してるというか。

VIDEO「そうですね」

TUCKER「例えば、エマさんはわりとレゲエ寄りのアプローチが多いじゃないですか。ぼくもレゲエは聴きますけど、日本の人に本場のレゲエを直訳されても困るなっていうのがあるんですよ。逆にエマさんみたいに自分なりの解釈で翻訳されてておもしろくなってると、僕は〈へえ、レゲエってこういう感じなんだ〉って逆にわかるんですよ」

VIDEO「それは2人ともありますよね。翻訳の仕方がおもしろい」

――直訳と翻訳の違いって表現はおもしろいですね。

TUCKER「あまりに直訳すぎると、日本でそれ聴いても本場とあまりに距離が遠すぎてわかんないというところがあるじゃないですか。でもエマさんの演奏を知って、エマさんなりに翻訳されてるレゲエを聴いて、それを入り口に昔のルーツ・レゲエを聴くようになったりする。そういう体験が結構おもしろいなと思ってて」

――扉を開けてくれる存在というか。

TUCKER「演奏してる人を見て初めて〈こういう楽しみ方なんだ〉ってことがわかったりしますしね」

 

◎エマーソン北村

62年5月17日生まれのキーボード・プレイヤー。80年代末に参加したJAGATARA、MUTE BEAT以降、幅広い知識とテクニックに基づいた〈音楽力〉で、シンガー・ソングライターからロック・バンド、クラブ・ミュージックなどさまざまなアーティストと共演。古いキーボードとリズム・ボックスだけで演奏するソロ活動(通称エマソロ)では、レゲエ/ロックステディを出発点に、さまざまな音楽のエッセンスを凝縮した独特の柔らかいグルーヴを奏でる。カヴァーを中心に90年より音源を発表。2014年7月、オリジナル中心の作品としては初となるソロ・アルバム『遠近(おちこち)に』(bubblingnotes)をリリース。2015年11月には、その『遠近に』からの3曲にダブ・ヴァージョンや新ミックス、未発表曲をカップリングして、7インチ・シングル3枚をリリース予定。

 

――エマさんはいまTUCKERさんが言ってたようなことって意識してきたんですか?

エマーソン「そうですね。いろんな道筋があると思うんですよ。基本的には、エキゾ、ラウンジ、イージー・リスニング……、いろんな呼び方はあると思うんですけど、そういうのが好きな人って濃い人が多いんですよ。イケイケな音楽が一方にあるなかでそういうのに着目する人って、なんかコアなものがある(笑)」

――つまり、エマさん自身がそういう性質の持ち主でもあった、と?

エマーソン「そうですね。いまTUCKERが言ってくれたことを自分なりに翻訳すると、レゲエやってる友達は多いし、好きな音楽もレゲエが多かったけれど、どうしても自分がその色になりきらないときに、〈やっぱなあ、結局子供のときにイージー・リスニングとかを聴いてきたから、レゲエ一色にならないんだろうなあ〉って思ったりはしてました(笑)」

VIDEO「もともとイージー・リスニングが好きだったんですか?」

エマーソン「まあ、世代的にはみんな普通に聴いてたんですよ。70年代まではTV、ラジオからもそういうのが流れてくるんで」

TUCKER「でもね、変なものやあんまり主流にならないものを並べて聴いて、うわべだけでキャッチして提示するっていうのは結構簡単なんですよ。でも、エマさんの演奏を聴くと、そういうんじゃないんですよね。もっと愛があって、もっと深い。余分なものが削ぎ落とされたシンプルさで出来てる」

VIDEO「音楽の核の中心まで見てる感じですよね」

【参考動画】エマーソン北村の2014年作『遠近に』の予告編

 

――両方からエマさん論が出てますが、ご本人としてはどうですか?

エマーソン「余分なものがないというのは、また別のファクターですよね。バンドを主にやってきてるからだと思うんですよ。バンドのキーボードという意識がどこかにあるので、音数が少なくなっているのかな」

TUCKER「リヴァーブとか全然ないですよね。〈素材、ドンドンドン!〉みたいな」

VIDEO「そうですよね。料理でいえば、素材の味のまま食べさせてくれる、みたいな」

――僕はエマさんがオルガンで細かいラインを弾くときの指の動き方が好きなんですよ。あれも包丁で素材を細かく刻むことが美味しさの素であることと通じてるように思えます。

TUCKER「作ってるまな板が目の前にある感ですよね。台所というか、音を作ってる現場がエマさん自身の近くにある感じ」

VIDEO「それ、わかります。あとこの3人は、曲の佇まいみたいなものは共通してるのかなと思いますね。ちょっとした小鉢みたいな料理をポンと出す感じというか」

TUCKER「なかなか小鉢には出会えないよね。自分が客席にいるときでも、小鉢が見たいなと思うんですよ」

エマーソン「わかる」

VIDEO「カレー、ラーメン、みたいなのが多い(笑)」

TUCKER「何にも主張してない音楽のほうが僕は気になるんですよ。アーティスト名が最初に来るんじゃなくて、音が最初に来て〈なんだこれ?〉って思う。そういうのってあんまりないから」

VIDEO「石柱のようにトンと存在しているような音楽ですよね」

TUCKER「のっぺらぼうみたいな音楽のほうがヴェールに包まれてる部分が多いので、僕は気になるんです」

 

◎TUCKER

エレクトーンを武器に即興性を掛け合わせ、リズム・ボックスやギター、ベースなどを一人で駆使するオリジナルなスタイルを持つパフォーマー。国内以外でも数多くの海外公演を行う。90年代からエレクトーン奏者として活動。これまでに3枚のソロ・アルバムとDVDを発表、2013年3月2日にKAKUBARHYTHMよりエマーソン北村とのスプリット7インチ・シングル“SPECIAL PREISETS”をリリース。

 

――正体不明で主張のない音楽のようでいて、聴き手に解釈させるイマジネーションの余地はとても大きくある。そこもこの3人には共通している要素だとも思いますけどね。

エマーソン「やっぱりそれは、3人とも鍵盤演奏だけでもないし、音源を作ることだけでもない、トータルで何を作るかということを意識しているからじゃないですか? だから、ライヴの空気感というのがすごく独特なものになる」

VIDEO「TUCKERさんにしても、エマさんにしても、自分の音楽と自分自身への空間への溶け込ませ方みたいなのが、すごいなと思いますね」

TUCKER「VIDEOくんもそういう方向性でしょ?」

VIDEO「僕もそういうことを考えるので、お二人のやってることを見て勉強させてもらってます。〈その空間の中で自分の音楽にとって一番ベストな感じはなんだろう?〉ってことはいつも考えますね。ただ〈ステージでライヴやって、お客さんが観て〉みたいなだけではない方法を常に探っていて」

TUCKER「自分の存在感を消すとかね」

VIDEO「そういうこと、やっぱり考えますか?」

TUCKER「結構難しいんですよ。いかに気にしないでいてもらうかというのは」

エマーソン「それについてTUCKERはいつも一番言いますよね」

TUCKER「恵比寿のTime Out Café & Dinerでやってるラウンジ・イヴェント〈TUCKER'S MUSIC LOUNGE〉のコンセプトは誰にも気にしないでもらうってことでしたからね。そのためにいろいろ工夫してます。お客さんのほうに僕が向いてること自体がプレッシャーかもしれないと思って、最近はもう壁に向かって演奏するっていうのを最近は試していて(笑)。お客さんが拍手しなくちゃいけないみたいなのもなくしたい。なんか、作品をメッセージとしてこっちから提示してなくても、音楽ってあっていいと思うんですよ」 

【参考動画】〈TUCKER'S MUSIC LOUNGE〉の予告編映像

 

――誰にも気にされない状況で、パッと見たらエレクトーンが燃えてるみたいな?

TUCKER「いや、そのときは燃えてちゃちょっとヤバいと思うけど(笑)」

VIDEO「どれが正解とかじゃなくて、いろんな聴かれ方があっていいんじゃないかってことですよね」

TUCKER「そうです。ライヴハウスとかに行くと〈もう逃げられない〉みたいな状況あるでしょ。〈おーい! 出てきたぞ! ライヴやるぜ!〉って出てきて、お客がライヴを聴く。そういう一個のパターンしかない。踊りと生活がちゃんと一緒になってる国の人たちって、みんな勝手に場を楽しんでるんですよね。勝手に踊ってるし、勝手に飯食ってる。演奏者としてはそういうほうが心地良かったりする場合もあったりするし。お祭りとか行くとホッとするのは、みんな勝手に飲んでて、おもしろければ拍手もする、そういうほんわかした感じがあるからなんですよ。そんな状況を僕はなんとか作ろうとして、難しいなって思ったりもしてて」

エマーソン「僕らはそういうことをいろいろぐっちゃぐちゃと考えるタイプなんだと思う(笑)」

TUCKERの2011年作『TUCKER Plays 19Post Cards』収録曲“yellow rice flower”のライヴ映像
 

 

同世代とぴったりはまらなかった歴史の結果がいまの自分(エマーソン北村)

エマーソン「そういえば、僕はVIDEOくんに新作のことで質問したいことがあるんですよ。最初の曲(“世界各国の夜”)のしゃべりとか、トークボックスの曲(“Tokyo Luv Story~東京狼少女”)とか、インストのアルバムで言葉が出てくる部分って、VIDEOくんの心情がはみ出してくるというか、切実感みたいなものがあると思うんですけど。言葉や自分の声を出す部分に対しての自分のポリシーはあるんですか?」

【参考動画】VIDEOTAPEMUSICの2015年作『世界各国の夜』のダイジェスト映像

 

VIDEO「1曲目の“世界各国の夜”は自分でナレーションしたんですけど、それも含めて素材として考えているというか。サンプリングしてきたセリフと近い扱いではあるんで、自分の声だけど、他の誰かの言葉を代弁しているようなイメージですね。だけど、インストのなかに急に言葉が入ってくるときの異物感みたいなものはすごくおもしろいと思ってるので、インストで風景を想像させつつ、わざとそこに異物感のある具体的な言葉を入れて混乱させたりとか、そこは意識的にやってはいます。でも、語りということならエマさんのアルバムの最後の曲でも朗読がありますよね」

――“知らない家”ですね。

VIDEO「あの曲にも、そこでハッとさせられる部分があります」

エマーソン「あれは計画が倒れて僕がやることになってしまったんですけどね」

――そうなんですか!

エマーソン「最初はECDに語りをやってもらいたかったんです。でも〈絶対に自分でやったほうがいい〉って言われて、それでやりました。〈自分の声が入るなんて無理!〉とそのときは思ってました(笑)」

TUCKER「そういう経緯があったのは知らなかったですね。でも、アルバムってその人のパーソナリティーが詰め込まれてるほうが僕は嬉しいんですよ。あそこでエマさんの声が出てくることで〈あー、なんかすごくエマさんのアルバムだ〉って思える感じが出てたんで、気合が入ってるなと思ってました」

エマーソン「気合で乗り切るしかなかった(笑)」

――その“知らない家”も含めて『遠近に』から3枚同時に7インチ・シングルをカットされる予定ですよね。アルバムのリリースからは1年半くらい経っていて、もちろん僕はいまだに愛聴していて賞味期限が全然来ない傑作なんですけど、なぜいまシングルを? 

エマーソン「普通にアナログ化はしようと思っていて、いつかはやるだろうと思ってたら時間が経ってしまったというのがまずあります。あと、やっぱり僕はレゲエの7インチとかを聴いてきてるので、あのアルバム全体を12インチの2枚組とかにする必要はないと思ってたんです。なので、形としては7インチで、あとはどの曲にするのか、何枚にするのか、アルバムに入ってないトラックもあるのでそれをどういうふうに入れるか、みたいなことを考えたんです」

――シングル3枚同時リリースというのは、レコード・リヴァイヴァルとか言われてる昨今でもあんまり聞かない話なので、〈エマさん、大胆だな〉と僕も思いました。

TUCKER「なんか異国っぽいですよね。いきなり3枚出ちゃうとか」

エマーソン「え? そうなんですか?」

VIDEO「やっぱりそこにはこだわりがあって3枚出すのかなって」

エマーソン「え? マジ(笑)?」

TUCKER「僕の勝手なイメージだと、すごくジャマイカっぽいなって思うんですよ。3枚一気にどどどって置かれてる感じ。普通だと、この3枚6曲を1枚の12インチとかもありだと思うんですけど、エマさんは〈やっぱりレゲエは7インチ3枚じゃないとダメ〉な人なんだというか」

――思想とか姿勢の表明を感じましたよね。僕も、あのニュースを聞いたときに単純に〈カッコイイ!〉と思いました。

エマーソン「いや、なにも考えてなかった……(笑)」

――“トロント・ロック”のダブ・ヴァージョンがあるのもジャマイカっぽいです。

エマーソン「もともとインストの曲にダブ・ヴァージョンって何だよ?って感じですけど(笑)」

TUCKER「インストのダブ・ヴァージョンって普通ないですもんね」

エマーソン「でも、ミックスを自分でやってるんで、曲が出来たときに〈遊びでダブ・ヴァージョンやろう〉って必ず作ってるのを録り貯めてはあるんです。ほぼどの曲もある。メインのキーボードのメロディーを取っちゃうんですけど」

――じゃあ『遠近に』のダブ・アルバムとかも作れるんですね。

エマーソン「メインのメロディーを取ると、もうリズム・ボックスの音だけだったりしますけど(笑)」

TUCKER「逆にそれって、僕的にはそれをおかずにご飯2、3杯はいけるなってレコードになりますよ(笑)」

エマーソン「いや僕もそういうタイプなんですけど、そういう人はたぶん、ここにいる3人くらいしかいないんじゃないかな(笑)」

――いやいや、もっといるはずですよ。この鼎談に掲載して反応を見ましょう。とにかく3枚いっぺんにエマさんのシングルがレコード・ショップに並ぶのは、超カッコイイと思います。

VIDEO「そういえば、『遠近に』のリリース・パーティーを観に行ったんですが、最後に出演者全員でのセッションがあって、そのソロ回ししたときに、エマさんが自分のソロでメロディーを弾かずにベース・ラインを弾いてたのがすごいカッコ良かったです」

TUCKER「あれは〈やられた……〉と思った(笑)。派手にソロへいきたいところで、あのモコモコしたベース・ライン。〈こんなやり方があるのか〉って思ったし、一緒にやっててすごく勉強になりました」

VIDEO「僕も、あそこにエマさんの美学を感じて興奮しました」

TUCKER「エマさんも僕もそうなんですけど、キーボード・プレイヤーって感じとはちょっと違うようなところにいる感覚なんですよ。前にエマさんとしゃべったときに〈あ、わかるな〉と思ったのは、〈エマさんはピアノ弾くんですか?〉って訊いたら、〈いや、黒くてでっかくて怖い〉って答えで(笑)。僕は〈そういうふうに思う人いるんだな〉って、ちょっと親近感を抱いたんですよ」

――そういう意味では、3人ともキーボードという楽器の可能性を別の意味で引き出してるプレイヤーだなと思います。

TUCKER「ああ、そうかもしれない! やっぱり一般のキーボード・プレイヤーって便利屋的というか、〈ストリングスの音、ちょっと出してください〉みたいな感じでお願いされるじゃないですか。ギターがギターの音しか出せないように、オルガンはオルガンの音しか出せない。そういうところで完結するキーボーディストという存在があってもいいのかなという意味で、エマさんはそこにフォーカスしてちゃんと演奏してるし、僕もそういうふうにしたいなと思うところがあるんです」

VIDEO「楽器の持つ質感にこだわりを感じます」

TUCKER「なによりやっぱりエマさんは常に現場にいるのがすごいと思ってます」

エマーソン「大変ですけどね(笑)」

TUCKER「長くやってると、わりと同世代で固まっていったりするんですけど、エマさんはそれもない」

――女性ラヴァーズ・シンガーのasuka andoさんともこの間一緒にやってらっしゃいましたよね。彼女とは結構古い付き合いなのかなと思ったらまだ知り合って1年くらいって聞いて。そういうフットワークの軽さも見習いたくなるところです。

TUCKER「僕もVIDEOくんもそうだけど、もっと下の世代とかもエマさんを聴いて〈すごい!〉って言ってますからね。妖精的というか、すごい存在になってるなと思います」

エマーソン「もともと僕はずばり同世代みたいな存在があんまりいないんですよ。80年代にJAGATARAやMUTE BEATでやってたときは、みんな僕の先輩だったし。そういうバンドがなくなったときには、僕と同世代の人たちはスカパラやWACK WACK RHYTHM BANDをすでに始めてたりしていて、僕が一緒にやる感じではなくなってたんですよ。なので、常に歳上か、歳下とやってるか、そのまんまでずっと来てる。同世代とぴったりはまらなかった歴史が結果的にこういうことになってるのかなと」

asuka andoの2015年作『mellowmood』のダイジェスト音源

 

――今は縦糸を繋ぐ存在がすごく重要に考えられている時代になってきてると思うんで、エマさんのような存在はすごく大事ですよ。

TUCKER「エマさんとNONCHELEEEが福岡で一緒にやったりとかね。NONCHELEEEはまだ20代で、彼もレゲエをちょっと違った見方から表現してるじゃないですか。そことそこが繋がっていくのも、すごくおもしろいし。あのくらいの世代の人が、エマさんの渋いところをちゃんとわかってるのもすごくいいなと思うんですよ」

エマーソン「渋いところというか、かつて自分が主流へのアンチというか、〈俺はこうなんだぜ〉みたいな感じでやってきたものが、若い子になるほどアンチの部分とか関係なく把握されてるというのはありますね。〈あ、もうこんなに理解してくれてるんですね〉みたいな」

【参考音源】 NONCHELEEEの2015年作カセット・テープ『PUMPIN'酢CAT Sound Clash』収録曲、
嫁入りランドをフィーチャーした“地球の歩き方”

 

――それこそ、今日ここにいる3人の関係性が、横の繋がりでもあり、縦の繋がりでもあるひとつの理想なのかもしれないですね。

TUCKER「そうですよね。ちょうど10歳くらいずつ違うし」

――そういう関係性も含めて、3人の音楽が広がっていくときっともっとおもしろくなりますよ。WWWでのリリース・パーティーも、7インチ・シングルも、そして今後の活動もすごく楽しみです!

 

『世界各国の夜』発売記念パーティー ~2015年、渋谷~
日時/会場:2015年10月24日(土)  東京・渋谷WWW
開場/開演:17:30/18:00
料金:2,800円(ドリンク代別)
出演:VIDEOTAPEMUSIC、思い出野郎Aチーム、エマーソン北村&TUCKER DJ:コンピューマ
・イープラス
・メール予約 ticket@kakubarhythm.com に参加イベント名、枚数、お名前、連絡先を明記の上、送信してください。
問い合わせ:渋谷WWW 03-5458-7685

エマーソン北村、7インチ・アナログ・リリース情報
“トロント・ロック c/w Toronto Dub”(KMVLS-006)
“知らない家 c/w 下北六月”(KMVLS-007)
“橋からの眺め c/w 新しい約束”(single version)”(KMVLS-008)

発売日:2015年11月予定
定価:各アイテムとも 1,296円
レーベル:bubblingnotes
フォーマット:7インチアナログ盤のみ