異能の打楽器奏者、ASA-CHANGが提示する新たな2作品

 東京スカパラダイスオーケストラの創始者であり、MISIAやCharaなど数多くのシンガーのサポートを務めてきた職人気質の打楽器奏者であり、マニアックなサウンドメイクで支持を得るサウンド・プロデューサーであり、98年から活動を続けるASA-CHANG&巡礼のリーダーでもある異才の人、ASA-CHANG。ASA-CHANG&巡礼としては2001年に発表した代表曲“花”のリアレンジ・ヴァージョンがTVアニメ「惡の華」(2013年)のエンディング・テーマに起用されたことでふたたび注目を集めたほか、Eテレの人気番組「ムジカ・ピッコリーノ」に出演して子供たちからの人気まで獲得した。今回そんなASA-CHANGが関わる2作品がリリースされたということで、広大で唯一無二な彼の音楽世界を改めて読み解いてみたい。

ASA-CHANG & 巡礼 事件 AIRPLANE(2020)

ASA-CHANG,エマーソン北村 エロス AIRPLANE(2020)

 

伝統音楽から自己の世界へ

 85年、ASA-CHANGはたったひとりで東京スカパラダイスオーケストラを結成。93年に脱退すると、打楽器奏者として先述のふたりのほかにも小泉今日子やUAら数多くのシンガーの作品、及びライヴへ参加することになった。ASA-CHANGは当時のことをこう回想する。

 「すごい現場にもたくさん立ち会わせてもらってきたわけだし、サポートさせてもらったミュージシャンの方々には本当に敬意しかないですね。でも、その一方では〈音楽をやる前はヘアメイクだった自分が何でここにいるんだろう?〉という座りの悪さもありました。そもそもミュージシャンをめざしていたわけでもなかったのに、凄腕のミュージシャンと肩を並べていることの不思議さというか。だいたいね、僕は音楽家としてどこか歪なんだと思う。音楽に込めるものが、他のミュージシャンとは少し違うんじゃないかな」(ASA-CHANG:以下同)。

 では、ASA-CHANGは音楽を通して何を表現しようとしているのだろうか。

 「僕は、自作の音楽には心地良さをあまり求めていないんです。音楽のなかの〈楽=JOY〉を求めていないというか。各地の民族音楽がそうであるように、そこには鎮魂歌もあるし、呪い節もあれば、数日間うなされてしまうような邪悪さだって音楽の一部なんですね。今回エマーソン北村さんと作った『エロス』というアルバムのなかでカヴァーしたトルコ軍楽隊の曲(“ジェッディンデデン”)も僕にとってはそういうモノなんです」。

 言うなれば、子供時代のトラウマも刻み込まれた音楽。確かにASA-CHANG&巡礼の音楽には、幼少時代の遠い悪夢まで呼び覚ましてしまうような怖さがある。たとえば、代表曲である“花”。ストリングスの流麗なメロディーの上でフルカワミキ(当時SUPERCAR)やYOSHIMI(BOREDOMS)らによるポエトリー・リーディングが切り刻まれ、U-zhaanによるタブラが疾走する。言葉とメロディーが解体され、ASA-CHANGならではのやり方でふたたび繋ぎ合わされるこの曲は、息を呑むような美しさがあると同時に、音楽に対する既成概念を覆してしまうような先鋭性も併せ持っている。

 「当初あったのはインドの古典音楽やアジアの民族音楽からの影響ですね。ただ、どうしても僕の気質として、特定の伝統をマスターしたいという気持ちを持てないんです。僕の好きなホルガー・シューカイにしてもマーティン・デニーにしてもそうかもしれないけど、伝統音楽にどっぷり入れ込まないで、そのエッセンスで自分の世界を構築していく。そういう人が好きなんです。あと子供時代に目にしたTV番組から流れてくるCM音楽や、僕の地元である福島県いわき市に伝わる供養の行事〈じゃんがら念仏踊り〉からの影響もあるかもしれない。僕が子供の頃、短波放送で世界各地のラジオ放送を聞くことが流行ったんですけど、僕もエクアドルやオーストラリアの放送を聞いてラジオ局に手紙を送るというブームがありました。どこにあるのかわからない国から流れてくる音に、ものすごくエキゾチックなものを感じていたんですよ。わからないからこそのエキゾ感というか」。

 そうした多種多様な要素が接続され、ASA-CHANG&巡礼だけの〈ポップ・ミュージック〉が生み出されてきたわけだ。2010年には長らく活動を共にしてきたU-zhaanと浦山秀彦(プログラマー/ギター)が脱退。その後、サックスの後関好宏(WUJA BIN BINほか)とヴァイオリンの須原杏が加入した。また、ASA-CHANG&巡礼のライヴでは巡礼トロニクスと呼ばれる謎のオリジナル・サウンドシステムが大活躍するが、こちらも現在使われているもので三代目。ASA-CHANGいわく「機材というよりライヴ・メンバーのひとりという感覚なんですよ」という巡礼トロニクスも進化を続けているわけだ。