2012年の前作『Four』を最後にマット・トンとゴードン・モークスがバンドを脱退。その後にケリー・オケレケ(ヴォーカル/ギター)がソロ2作目『Trick』を2014年にリリースし、ラッセル・リサック(ギター)がアッシュのツアーにふたたび同行するなど個人活動を活発化させたことで、一時は新作の制作も暗礁に乗り上げたかに見えたブロック・パーティ。そんな彼らがジャスティン・ハリス(ベース)とルイーズ・バートル(ドラムス)を迎え、新たな4人体制でニュー・アルバム『Hymns』を完成させた。
長年不仲が囁かれていたオリジナル・メンバーが久々に集結して、4人ならではのパワフルなライヴ感を追究した前作『Four』に対して、本作はケリーとラッセルの2人だけで大部分の制作を進め、そこにジャスティンとルイーズが合流。イギリスでのマイノリティーの在り方を描き続ける作家ハニフ・クレイシのスピーチから着想を得た〈讃美歌(=Hymns)〉をテーマに繊細な音響美を加えて(このコンセプトには、アフリカ系移民の子孫であるケリーの出自や、ゲイという彼のセクシャリティーも若干関係しているかもしれない)、慣れ親しんできたポスト・パンク的な音作りからより開放された、新たなスタイルを手に入れている。
2000年代中盤のポスト・パンク・リヴァイヴァル絶頂期にデビューした彼らも、気付けば10年選手。同時期に活躍したバンドの多くがリタイアし、彼ら自身も度重なる活動休止やメンバー・チェンジなど、決して平坦な道を歩んできたわけではない。だからこその円熟と新たなアイデアを加えながら、同時にもう一度バンド前史=彼らのグラウンド・ゼロを見つめ直すかのような雰囲気もある新作について、ケリーとラッセルに訊いた。
――前作『Four』は、タイトル通り4人のオリジナル・メンバーが集まって、ライヴ感や演奏のエナジーを重視して作られたアルバムでした。一方で今回は、ふたたび楽曲本来の魅力に焦点が当てられていて、いつになく静謐でダークな楽曲も増えている印象です。
ケリー・オケレケ「うん、いままでのブロック・パーティのイメージって、〈エナジェティックで力強いサウンドのバンド〉、もしくは〈ライヴ感のあるサウンド〉というものだったと思うんだ。でも今回はまったく違う方向性を試すことで、勢いだけではない落ち着きやひとつひとつの音の雰囲気、もしくはその聴こえ方のようなものを表現したかった。これまでもずっとやろうとしていたけど、『Hymns』ではそこにより焦点を当てられたと思う」
――そうした方向性には、本作に際してバンド・メンバーが代わったことも影響を与えていると思いますか?
ケリー「そうだな……。単純に、〈これまでと違うものを作ろう〉と考えた時に向かった方向性がこれだった、ということなんだと思うよ。今回の作風が前のラインナップではできなかったことかというと、そうではないと思うし。マットやゴードンに関しては、彼らと自分たちの間にツアーなどに対する意見の違いがかなり出てきていたんだ」
ラッセル・リサック「結局、マットはツアーの途中で突然いなくなって、そのままバンドを去ってしまった※1。で、ゴードンはツアーが終わってから〈バンドを辞めたい〉と言ってきた※2。だから、僕らにとっては想定外のことだったんだ。10年以上も同じバンドにいたわけだから、2人が辞めた時、最初はすごく不安だった。でも、それも2013年の話で、僕らにとってはもう過去の出来事なんだよね。いまはジャスティンとルイーズが入って新しい体制になったことに、本当に興奮してるんだ」
※1 マットは『Four』のプロデューサーであるアレックス・ニューポートとレッド・ラヴを結成して活動中(試聴はこちら)
※2 ゴードンはヤング・レジョネアというバンドでベース・ヴォーカルを担当、現在はニュー・アルバムを完成させてPledgemusicで支援を募っている(試聴はこちら)
――マットとゴードンがバンドを去った時、2人だけで活動を続けるという選択肢もあったと思います。新メンバーを加えて4人編成でやろうと思ったのはなぜだったんでしょう。
ケリー「いや、ブロック・パーティを続けるなら、メンバーは絶対に4人必要だった。僕はこのバンドの個性は、〈別々のテイストを持った人間が、それぞれにユニークなものを持ち寄ること〉だと思っているから。だから(エレクトロニックな方法などを駆使して)2人で音楽を作ることが可能でも、それじゃダメで、また別のメンバーが必要だったんだよ。それでアルバム制作と並行する形で、新メンバーを探しはじめた。ジャスティンとは、ブロック・パーティが2009年にメノメナ※1と一緒にUSツアーを回った時に仲良くなったんだ。それで〈新しいベーシストが必要だ〉という話になった時に、僕が推薦してバンドに参加してもらった。彼はアメリカに住んでいたからメールでやりとりを始めたんだけど、しばらくしてロンドンに来てくれたんだ。ルイーズ※2の場合は僕らより歳は随分若いけど、知り合いから薦められてYouTubeで彼女の動画を観た時に〈テクニックと強靭なグルーヴを兼ね備えた、凄くいいプレイヤーだな〉と思った。実際に会ってみると人間性も素晴らしかったから、バンドに加わってもらうことにしたんだよ」
※1 デス・キャブ・フォー・キューティーらを輩出したバースークからの2007年作『Friend And Foe』が、当時のUSインディー・ロック旋風に乗って話題となったポートランドのバンド(試聴はこちら)
※2 ルイーズは、レディオヘッドのエド・オブライエンも卒業生として知られるロンドンの〈The Institute Of Contemporary Music Performance〉出身。セレーナ・ゴメスやイライザ・ドゥーリトルのバックを務めた経験があるほか、女優としてイギリスの人気ドラマ〈Skins〉のシリーズ6にも出演している
――新メンバーが加わって以降、作曲のプロセスやバンドのケミストリーについて何か変化を感じますか?
ケリー「プロセス自体はこれまでと変わっていなくて、『Hymns』も自分とラッセルが書いた曲に他のメンバーがアレンジを加えていく、という形だった。でもときどき、ドラム・ビートからアイデアを発展させていくようなこともあったな」
ラッセル「ただ、今回の作品がこういうものになったのは、ジャスティンとルイーズが入ったのがアルバム制作の途中からだったことが影響しているんじゃないかな。だから、これから音楽性はまた変わってくるかもしれない。まだ僕ら自身も全然予測はできないんだけど」
――今回のアルバムを作っていくうえで、新たに見つけた影響源のようなものがあれば教えてください。
ケリー「今回は最初に『Hymns』というタイトルが決まって、その雰囲気に合うような音楽に惹かれていったんだ。これまでよりエモーショナルな音楽や、スピリチュアルな音楽を意識して、讃美歌を聴いたり、ゴスペルを聴いたり……。そういう、自分が子供の頃に触れていた音楽にふたたびインスピレーションを受けた。あとはDJプレイを通して、エレクトロニック・ミュージックにも影響を受けたな。最初のプロセスからその2つのテーマがあったと思う」
ラッセル「そうだね。それに加えて、僕の場合はケリーから受けた影響もあるし。結果として、これまでよりもっとヴァラエティーが豊富な作品になったんだ」
――そのあたりについて、いくつか訊かせてください。まず、ゴスペル的なものというのはハニフ・クレイシのスピーチから影響を受けたものだったんですよね?
ケリー「うん、彼が自然やアートについて触れていたスピーチの一部に大きな影響を受けたんだ。そこから得たインスピレーションだね」
――それって、具体的にはどんな内容だったんでしょう。
ケリー「70年代や80年代の音楽についての話なんだけど、何百年も前の時代って、アートというと宗教に影響されたものがあたりまえの時代だったよね? でも、現代では宗教に影響されたものとそうではないものに分けられていて、宗教に影響されたアートには疑いや戸惑いを感じる人が多くなった。僕は別に信仰深い人間ではないから、それを聞いた時に〈おもしろい視点だな〉と思って。で、自分のこれまでの人生も振り返ってみたんだよ。すると、実は僕の最初の音楽体験は教会で讃美歌を歌ったことで、ある意味で宗教的な体験だったことに気付いて……。そうして始めた音楽は、僕の人生と言えるものになった。そんなふうに考えた時、いろんなことが繋がっていくのを感じたんだ。それで今回は、自分の小さい頃から現在までを繋ぐようなレコードになったんだよ。そして僕は、宗教に強い思い入れがあるわけではない〈自分たちにとっての讃美歌〉とは何かを考えていった。実はアートワークも、僕が小さい頃に持っていた讃美歌の本をイメージしたものなんだ。結果的に、今回はより自分という人間が反映された作品になったと思う」
――だからなのか、同じくエレクトロニックな音楽に影響を受けたアルバムでも、『Intimacy』の頃のギラギラしたサウンドとはまったく違う雰囲気になっているのはとてもおもしろいです。
ケリー「そうだね。『Intimacy』を作った時は、スタジオに入って、〈そのスタジオ自体を楽器として使う〉ということに興奮していたんだ。結果として、あのアルバムはエレクトロニック・ミュージックからの影響を、凄くアクセスしやすいサウンドに落とし込んだ作品になった。でも、それが果たして成功だったかどうか、自分たちではわからなくて。だから今回はそれを繰り返さずに、エレクトロニックな音楽からの影響を受けながらも、よりオーガニックな感じやバンドらしさのようなものを意識したんだよ」
――では実際に『Hymns』に影響を与えた、もしくは近い魅力を感じるエレクトロニック・ミュージックを挙げるとするなら?
ケリー「メロディーや曲の構成自体には直接関係ないんだけど、音のテクスチャーや雰囲気のようなものを採り入れたいと思っていたのは、1~2年前によく聴いていたジョン・ホプキンスだね」
ラッセル「楽器もプレイできるアーティストが作るエレクトロニック・ミュージックって、一般的なそれとはまた違う魅力を持っていると思うんだ。僕の言葉で言うと〈より音楽っぽい〉ということになるんだけど。そこに凄くインスピレーションを受けた。ちょうど今日(※取材日)、飛行機で東京に来る時も(ジョン・ホプキンスを)聴いていたんだ。1年ぶりぐらいかな? 久々に聴いて〈当時の自分はそういう魅力を感じていたんだな〉って思い出したところだった。例えば『Hymns』の2曲目“Only He Can Heal Me”や、ボーナス・トラックとして収録した“Eden”といった曲は、そういうテクスチャーを採り入れたくて作った曲だったんだよ」
――その後、プロデューサーを務めたティム・ブランやロイ・カーとスタジオでアルバムに発展させていく時に、ターニング・ポイントになった楽曲やアイデアのようなものはありましたか?
ケリー「僕は“Only He Can Heal Me”がターニング・ポイントだと思う。この曲は今回のアルバムで最初に出来上がった曲なんだ。この曲の完成によって全体の方向性が見えてきたし、〈バンドとしてこれまでに行ったことのない場所に行きたい〉とまた思えた瞬間だった。自分たちらしさを残しつつも、最後まで曲の起伏がない構成になっているよね。ここから〈やろうと思っていたことを形にできる〉という確信が持てるようになった。
ラッセル「僕の場合は“Living Lux”だね。これも制作初期に出来た曲なんだ。何かを形にする時に〈いろいろなことを試していたら、偶然新しいものが出来る〉みたいなことってあると思うんだけど、僕にとって“Living Lux”は、そういう時の鳥肌が立つような感覚を覚えた曲だった。自分でも驚くくらい新たな要素が加わることって、凄く大事だと思うんだ。この曲は、最初はもっとポップなトラックだったんだけど、そのアレンジにケリーも僕も満足していなくて、そこから最終的にゴスペルのような雰囲気を持った曲になった」
――確かに、本作の “Living Lux”や“Fortress”などはこれまでにない曲調になっていますが、同時に初期のポスト・パンク・リヴァイヴァルと言われていた頃の直情的なものとは別の形で、よりエモーショナルな方向に振り切れているような感覚もあります。
ラッセル「そうそう。“Living Lux”のような曲を〈エモーショナルだ〉と思ってもらうのは、僕にとってとても大切なことだった。これは過去のブロック・パーティの楽曲にもずっとあったエモーションと同じものを、まったく違う形式で表現した曲なんだ」
――今回のアルバムを作ってみて、ブロック・パーティにどんな可能性を感じていますか。また、これから新たな4人でどんなバンドになっていきたいと思っていますか。
ケリー「例えば、〈次のアルバムはどういうものになるか?〉と考えてみると、もちろん今回とは違うものを作ると思う。でもそれは〈全然違う領域に行く〉ということじゃないよね。今回『Hymns』を作ってみて、特に“Living Lux”や“Eden”のような曲が出来た時に、扉が開かれていくような雰囲気を感じたんだ。あのあたりの曲には、これまでにはなかった優しい雰囲気があって、僕らにとっては凄く新鮮だった。いまはそういうことができることへの広がりを感じていて、このバンド自体も居心地のいい場所になっている。これから何でもできるような気がするよ」
ラッセル「でも、いまはまだ変に方向性を定めたくないんだ。ジャスティンとルイーズが加わったブロック・パーティはまさに始まったばかりで、まだアーリー・デイズって感じだから。自然な流れのなかでどうなっていくか見ていくべきだと思う」
ケリー「結局、僕らの最大の個性はメンバー間のコラボレーションを大切にすることだからね。任せるところは任せて、それぞれユニークなものを持ち寄れるようになっていきたいな」
――また新たな関係を築いていくための、始まりのアルバムということですね。ブロック・パーティは当初、あなたたち2人が一緒に曲を作ることから始まったバンドでしたが、本作でのパーソナルで親密な音には、そこに一度戻ったような雰囲気も感じました。
ラッセル「確かに、僕らにとって今回のアルバムの楽曲を作っていく過程は、その最初期の頃のことを思い出すような体験だったんだ。僕たち2人が書いたものを他のメンバーに預けてコラボレーションしていくという、このバンドが始まった最初の頃のことをね。今回の作業を始めた時、僕は実際にそう感じていたよ」
ケリー「ああ。だからバンドが生まれ変わったような感覚でもありつつ、同時に僕ら2人にとっては、どこか昔に戻ったような感覚もある。今回のアルバムはそんな作品になったんじゃないかな」