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ジャズメンだったら即興に使っている脳を、
J-Popは曲の構成やエフェクトに使っていておもしろい(井上)

――では、そろそろ『CLEANUP』の話に移りましょうか。銘くんにとって、石若くんはどういうバンマスだったの?

井上「僕は駿くんを尊敬しているんです。『CLEANUP』のレコーディングの時もそうだし、角田隆太小田朋美と一緒にやっているCRCK/LCKS でもそうだけど、僕がギター・パートで何を弾いていいかわからない時は、駿くんに訊くんですよ。そうすると、いつも新鮮なアイデアを出してくれる。常に客観的になって意見してくれるんです」

石若「僕はギターがすごく好きなんですよ。ドラマーじゃなかったらギタリストになりたいくらい。ドラムなどのリズム楽器は世界各地の民族音楽に、メタルやファンク、ジャズ、ブラジリアン、クラシックなど、ジャンル的にもスタイル的にも、その時にやる音楽によってカメレオンみたいに変化させたりしますが、ギターも似ている気がするんですよね。例えばテレキャスター、ストラト、レスポールなど、それぞれの楽器が得意とするサウンドや見た目の特徴とかがあるじゃないですか。フライングVがステージに出てきたら、〈ディストーション系の音を出すのかなー、この人は〉みたいな感じで」

――うんうん。

石若「ドラムで言うと、ハード・ロックをやるならバスドラを24とか26インチにしたり、シンバルをギンギンなサウンドにしたり――まあ、そう考えたらどの楽器も一緒ですけど(笑)。要するに、hideがめちゃくちゃ好きだったという話です(笑)」

――ハハハ(笑)。でも確かに、『CLEANUP』には石若くんがギターが好きな感じが出ているよね。基本的にはストレートアヘッドなジャズをやっているアルバムなんだけど、ギターが入っている曲ではギタリストにいろんな演奏をさせていて、それがアルバムをおもしろくしている。石若くんはギタリストに対するアイデアがたくさんある人なんだと思いました。銘くんにはどういうリクエストをしていたの?

石若「いやもう、〈自由にやって〉と。僕の曲はコード・チェンジがエグイし、演奏するのが難しいんですよ。それで、銘くんはコードの上でがんばるよりも、その上を狙ってやってくれたからすごく良かった。音色もそうだし」

※『CLEANUP』試聴はこちら

――なるほど。“The Way To Nikolaschka”はエフェクトも巧みに使っていて、サイケデリックでインディー・ロックっぽいところもある曲だよね。

石若「あのエフェクトは、銘くんのアイデアなんですよ」

井上「曲のメロディーではエフェクターは使ってなくて、ソロから使ってるんだよね。このアルバムはすごく勉強になったんですよ。駿くんが良い意味で、ギリギリ(のタイミング)で注文をしてくるから。自分のレコーディングだと練りに練って、1年くらいかけて曲を書くし、リハもしっかりやって、弾くことも完璧に決まっている状態でスタジオに入るんですけど、今回はギリギリで〈こんなのない?〉って駿くんが言うから、その場で一生懸命考えてチャレンジした。それがおもしろかったね」

石若「普段の銘くんではあり得ないような演奏が、たくさん聴けるアルバムになったよね」

――“The Way To Nikolaschka”ではどういうリクエストを出したの?

石若「ここも銘くんのことだから、なんかしてくれるだろうなと思って任せました。〈どうしたらいい?〉って訊かれても、〈自由にやって〉と」

――エフェクターは何を使っているの?

井上「音が遅れて聴こえるヤツは、〈アウト・ヴォリューム・エコー〉というディレイの一種です。普通にかけると減衰しないで音が伸びていくんですよ。それをめちゃくちゃ短くかけると、ピッキングのアタックが消えたような音になる。笛を吹いているみたいな気分になるというか、こういうエフェクターを使うと出てくるアイデアが変わってくるからおもしろいですね」

――そもそも、以前に出した自分のリーダー作は〈コンテンポラリー・ジャズの正統派〉という感じだったし、そういうエフェクターを使うイメージもあまりなかったから、意外だったんだよね。ライヴでは使っていたの?

井上「いろんな音色を使って変なことをしてほしいとか、そういうリクエストが多くて、それに応えているうちに自分のものになっていってる感じがしますね。自分がリーダーの時は意外と真面目に弾いているかもしれない。他人のアルバムだと挑戦できるというのはありますね(笑)」

――最近だとマシュー・スティーヴンスヤコブ・ブロベン・モンダーみたいに、フレーズやラインというよりは、〈色付け〉みたいなことがジャズ・ギタリストに求められるケースも多いから、きっと銘くんもそうなんだよね。

井上「現代のジャズ・シーンで僕みたいなギタリストに求められるのは、そのへんかもしれないですよね。実際、いまはギタリストにエフェクティヴなサウンドを求められることが多いですよ」

マシュー・スティーヴンスの2015年作『Woodwork』収録曲“Ashes”のライヴ映像

 

井上銘と織原良次(ベース)のライヴ映像

 

――そういう状況のなかで、最近はどういうギタリストを聴いてますか?

井上「いま一番聴いているのは、長岡亮介さん。ペトロールズのフロントマンで、(浮雲として)東京事変にもギターで参加していて、あの人ばっかり聴いちゃうんですよね。最近はタワレコに行ってもJ-Popがおもしろいなと。ジャズメンだったら即興の部分に使っている脳を曲の構成に使っていたり、すごくこだわって作っていて、そういうバンドの努力が音から聴こえてきますよね。そういう耳で聴くと、楽しくてしょうがない」

――へー! 最近聴いたJ-Popのアルバムは?

井上「この前、買ったのはKIRINJI星野源とか。今日は(取材が終わったら)tofubeatsを買って帰ろうかな。YouTubeで観て一気に好きになったんですよ。カッコイイんだよね」

ペトロールズの2015年のライヴ映像

 

――そういう思考回路でやっているジャズ・ミュージシャンも最近は多くなってるよね。これまではインプロやバッキングに比重を割いていたけど、そのへんは銘くんならできるだろうから、次は作曲や編曲とか、他のところを拡大したいって感じだよね。

井上「ポップスやロックのバンドの人たちは、エフェクターの使い方がジャズ専業のギタリストよりも上手いですよね。よく研究しているし、〈こんなアイデアもあるんだ〉ってすごく勉強になる」

――そういうふうに、演奏すること以外にも強く意識が向くようになったのはどうして?

井上「前にヴォーカル、ギター、キーボード、ベース、ドラムという編成でバンドを作ったんですよね、いまはもうやってないんですけど、(ジャズではなく)ポップな曲をやるバンドを初めてやってみた時に、すごく必要性を感じて。そこからですね、聴くものが変わってきたのは」

石若「移動で銘くんの車に乗せてもらったら、ホセ・ジェイムズがかかっていて。あれはびっくりしたな。〈あ、ホセとか聴くんだ〉みたいな。そういう思考になりはじめた頃かな」

――確かに、銘くんは〈ずっとギターを聴いてる人〉みたいなイメージがあったから意外かも。現代のジャズ・ギタリストだと誰に興味あります? 例えばジュリアン・ラージは歳も近いんじゃない?

井上「ジュリアン・ラージはすごすぎて、なるべく(YouTubeを)観ないようにしています(笑)。3年くらい前まではかなり好きだったんですけど、すごすぎて、現実味がないんですよ。フレッド・ハーシュとのデュオも観たけど、あれもすごく良かった」

ジュリアン・ラージとフレッド・ハーシュのライヴ映像

 

――他にも気になってる人はいる?

井上ニア・フェルダーにレッスンしてもらったことがありますよ。NYにいた頃に彼のライヴに通っていて、当時もレッスンしてもらいたかったけど、なかなかスケジュールが合わなくてできなかったんです。でもこの前、来日した時についにレッスンしてもらいました」

――ニア・フェルダーは格好良いよね。インディー・ロックっぽいフィーリングが、ジャズのソロやバッキングともスムースに繋がっているというか。

井上「僕も一番好きかな。歌のないロック・バンドみたいなサウンドで、CDを聴いているとヴォーカルが欲しくなりますよね(笑)。ニアは自分のバンドでは見せないですけど、55バー(NYのジャズ・ハウス)とかで誰かのバンドに参加している時のファンキーなプレイもカッコイイんですよ。カッティングの感じとかも素晴らしくて」

ニア・フェルダーの2015年のライヴ映像

 

――ニアのレッスンはどうでした?

井上「めちゃくちゃシンプルなアイデアをいろいろ教えてくれました。井上淑彦さんの“Fireworks” というすごく好きな曲があるんですけど、ニアに初見で弾いてもらいたくてリクエストしたら、やってくれたんです。個人的にはコード・チェンジが課題になる曲で、ニアの演奏は格好良かった。その次に、僕が(同じ曲の)ソロを弾きはじめたら20秒くらいで止められたんです。〈ディミニッシュ・スケールをちゃんとやってこなかっただろう?〉って。〈よくわかりましたね……〉みたいな感じで」

――ハハハハ(笑)。

井上「そしたら、ディミニッシュだけでBPM300台くらいの超速いフレーズを3分くらいひたすら弾きはじめたんですよ。どうやったらそんなのできるんだろうって(笑)。あれはすごかった」