
「GLOCAL BEATS」(共著)・「大韓ロック探訪記」(編集)・「ニッポン大音頭時代」(著)などの音楽書に携わり、文化放送のラジオ番組「MAU LISTEN TO THE EARTH」でパーソナリティーとしてアジア情報を発信するなど、世界の音楽とカルチャーをディープに掘り下げてきたライター/編集者/DJの大石始が、パワフルでオリジナルな活況を呈するアジア各地のローカル・シーンの現在進行形に迫るほぼ月イチ連載〈REAL Asian Music Report〉。第4回では、ここ数年韓国音楽に大ハマりしているという、ラフィン・ノーズのチャーミーを直撃! 氏の行きつけだという都内の某喫茶店にて、このたびリリースされる自身のプロデュース作『大韓不法集会』についてや、韓国インディーへの熱き想いを語ってもらった。 *Mikiki編集部

日本のハードコア・パンク史に燦然と輝く『ハードコア不法集会』(84年)というコンピレーション・アルバムがある。旗振り役のラフィン・ノーズを筆頭に、8組のハードコア・バンドによる名演を収めたこのアルバムは、日本におけるハードコア・シーンの転換期を象徴するものとして現在も語り継がれる名盤中の名盤だ。
その『ハードコア不法集会』のリリースから32年後となる2016年、『大韓不法集会』という1枚のコンピレーション・アルバムが世に出ることとなった。プロデュースは32年前と同じく、ラフィン・ノーズのチャーミー。だが、ここに収録されているのは何と韓国のインディー・シーンで活動する8組のアーティストたち。ウィーダンス、404、タンピョンソン・アンド・ザ・セイラーズ、ピギビッツ、ECE、ヤマガタ・ツイークスター、バムソム海賊団、クァン・プログラム。日本ではほぼ無名なアーティストも含まれるが、ハードコアからの影響を感じさせるバンドもいれば、フォーク系のシンガー・ソングライターもいて、ヴァリエーションは豊か。韓国インディー・シーンの熱さがダイレクトに伝わる内容となっている。
だが、そもそも日本を代表するパンク・ヴォーカリストはなぜ韓国インディーのコンピレーション・アルバムを作ることになったのだろうか? そこには80年代から何も変わらないチャーミーの熱い思いがあった――。
というわけで、ここからは韓国音楽への愛情が爆発するチャーミーのインタヴューをお届けしよう。近年韓国へ足繁く足を運ぶ彼による、最新韓国インディー事情。マニアックなアーティスト名が盛りだくさんだが、動画や注釈と共に読み進めていただければ幸いだ。
いままで聴いてきたものとはまったく別物だった
――チャーミーさんが韓国の音楽にハマったきっかけは何だったんですか?
「もともとは(漫画家の)根本敬先生が録り貯めていたビデオを10年前に手に入れたのがきっかけですね。そこには80年代の韓国のTV番組が入っていて、たまに思い返しては〈おもしろビデオ〉として観ていたんです。それが最近になって〈あれ? 音楽的におもしろいんじゃないか?〉って気付いて」
――そのビデオにはどういうアーティストが入ってたんですか。
「ユン・スイル※1やキム・スチョル※2、サヌリム※3、シナウィ※4、ソンゴルメ※5とかがズラッと入ってたんです。だけど、字幕は全部ハングルだから、出てる人がなんていう名前なのかもわからない。だから、黄色い服を着ていたキム・スチョルは〈黄色くん〉って呼んでたし、ソンゴルメは〈ヒゲさん〉、サヌリムは(ギター/ヴォーカルの)キム・チャンワンがサバを持ってるビデオ・クリップが入ってたから〈サバさん〉って呼んでた(笑)。最近になって画面に出てるハングルをiPhoneで撮って、それを自分のPCに送ったものをハングルで打ち直して、それをiTunes Storeで打ち込んで……ということをやったんです」
※1 ユン・スイル(윤수일):1955年生まれの歌手。70年代後半にデビューを飾り、80年代前半には高い人気を獲得。“アパート(어파트)”など数多くのヒット曲を持つ
※2 キム・スチョル(김수철):70年代末、ロック・バンド〈小さな巨人〉の一員としてデビュー。その後ソロ・アーティストとして活動したほか、映画俳優やプロデューサーとしても活躍している
※3 サヌリム(산울림):ギター&ヴォーカルのキム・チャンワンを長男とする3兄弟によって70年代末に結成された、韓国を代表する名ロック・バンド
※4 シナウィ(시나위):80年代の韓国における爆発的ハードロック・ブームを牽引したバンド
※5 ソンゴルメ(송골매):78年に結成された滑走路(ファルチュロ)を前身バンドとし、ヴォ―カル&ギターのペ・チョルスを中心に結成。多くの名曲を残した。
――涙ぐましい努力ですねえ(笑)。
「根本先生のビデオに入っていたものをそんなふうに解析して、そこから一気にハマってしまった。探せば探すほどすごい曲が出てきて……」
――70~80年代の大韓ロックのどのような部分に惹かれたんでしょうか。
「結構アクが強いから、最初は2時間も聴いてると毒抜きのためにブライアン・イーノとかストーンズを聴いてたんですよ(笑)。それがだんだん沁みてきて……もう、降参。最初は抵抗してて、〈ずっと聴いてたらヤバイわ〉と危険を感じてたんだけど、抗えなくなってしまった」
――それまで聴いてきたものとはまったく別物という感覚?
「うん、まったく別物っていう感じでしょうね。やってることは(欧米のものと)全然違うわけじゃないし、音楽のフォーマットとしてはロックだけど、何かが違う。ハングルの響きもあるだろうし、彼らの血もあるんだろうし。それで1年間、朝から晩まで延々大韓ロックばっかり聴いてたら、(ラフィン・ノーズのベーシストである)ポンに怒られたんですよ。〈自分の本分わかってんのか? お前はラフィン・ノーズだぞ?〉って(笑)」
――ハハハ!
「そんなこと言うもんだから、僕は〈ちょっと待ってくれ。決着つけないと先に行けないんだ〉って返して(笑)」
――では、そうやって大韓ロックに関心を持ったチャーミーさんが現在の韓国インディー・シーンに関心を持ったきっかけは何だったんでしょうか。
「まず、サヌリムとかソンゴルメみたいな大韓ロックの流れでチャン・ギハと顔たち※1を聴くようになったんですね。そうこうするうちに『大韓ロック探訪記』※2が出て衝撃を受けて……」
※1 ヴォーカルのチャン・ギハを中心にして2008年に結成。後に90年代から韓国で活動を続ける日本人ギタリスト、長谷川陽平がサポート・メンバーを経て正式加入。2012年には韓国大衆音楽賞の各賞を受賞するなど、現在の韓国を代表するロック・バンドに成長した
※2 チャン・ギハと顔たちのメンバー、長谷川陽平が90年代からの自身の体験を語った書籍。編著は大石始
――恐縮です……。
「そこから長谷川さんと出会って。長谷川さんからは〈チャーミーさん、(韓国から)呼ばれてますよ〉ってよく囁かれてたんです(笑)。で、長谷川さんがルック・アンド・リッスンという韓国のパンク・バンドをプロデュースして、『Very Best Of World Punk Hit』っていう世界のパンク・バンドの曲をカヴァーしたアルバムを作ることになったんですね。そこで僕らの“Get The Glory”をカヴァーすることになって、ソウルでレコ発をやると。それで長谷川さんが〈ソウルに遊びに来ませんか?〉と誘ってくれて、僕も1曲歌うことになった。もちろん〈正装〉で行きましたよ。髪の毛立てて、バリバリで」
――それが2014年の8月だったわけですが、その時のステージはどうでした?
「バキバキに盛り上がりましたよ。楽しかった。前乗りして2時間ぐらいスタジオで練習したのかな。その成果もあって、ばっちりキマった」
――ただ、その時の渡航ではまだ韓国インディー・シーンそのものには触れなかったわけですよね?
「そうそう。ある日、ムキムキマンマンス※1の“Andoromeda”っていう曲のビデオ・クリップを観て、自分のアンテナに引っ掛かるものがあったんです。サヌリムの音に感じる〈エゲつなさ〉っていまのソウルにはないんじゃないかと思ってたんですけど、ムキムキマンマンスは違うぞと。スリッツみたいなところがあって、〈こんなことやってるヤツら、おんねや!〉とびっくりして。そうしたら毎日韓国情報の交換をしていた(現・transceiver recordsスタッフの)ツネが〈こんなのもありますよ〉って404※2や、ウィーダンス※3のことを教えてくれたり……そういうバンドが全部金メダル級なんですよ(笑)。これは何か起きてるんじゃないか?と思って、ルック・アンド・リッスンのライヴの時に紹介してもらっていた(カメラマンの)スワンくんにいろんなバンドを教えてもらったんです」
※1 ムキムキマンマンス(무키무키만만수):ドラムのムキーとギターのマンスからなる女子2人組バンド
※2 〈サーコンサー〉と読む。チョン・セヒョン(ギター/ヴォーカル)とチョ・インチョル(ドラムス)からなる男性2人組ロック・バンド
※3 ウェヴォ(ヴォーカル)とウェギ(ギター)による2人組。近年たびたび来日公演を行っており、日本での人気も上昇中
――彼らのどこにそこまで惹きつけられたんでしょうか?
「ウィーダンスにしても404にしてもバムソム海賊団※1にしても、2人であの音をやっちゃうのが凄いなと思って。そこが僕的には新しかった。ロック・バンドをやるには最小でもギター/ヴォーカル、ベース、ドラムの3人は必要だと思ってたけど、ヤマガタ・ツイークスター※2なんか一人でやってる。今回のコンピに入るピギビッツ※3とかECE※4は通常のバンド編成だけど、ほかは大体1人とか2人だね。ウィーダンスのウィーヴォなんて本当にすごいパフォーマーだし、天才だと思う。それでラフィン・ノーズのツアー中、ほかのメンバーにウィーダンスの映像を見せまくってたんです。〈この子らすごいで、見てくれや!〉って(笑)」
※1 10代でブラック・メタルのソロ・プロジェクト、PYHAとして活動していたソンゴン(ヴォーカル&ギター)とドラムのヨンマンによるグラインドコア・デュオ
※2 アマチュア・アンプリファー(アマチュア増幅器)として活動していたバ・ハンのソロ・プロジェクト。奇妙な詩情に満ちた歌詞やユニークなライヴ・パフォーマンス、〈Groove Guruma〉と呼ばれるリアカーで自身のCDや本を売り歩くなど独自の活動でも知られる異才
※3 ピギビッツ(PIGIBIT5):男女混成メンバーによるノイズ・ポップ・バンド。しばしば日本のアニメをモチーフにした楽曲を作ることでも知られ、2011年の『Cherryboy Revolution』や2014年の『Mr. Munba』などのアルバムで注目を集める
※4 2014年のアルバム『Lift Me Glory (나를 번쩍) 』で注目を集めた4人組エクスペリメンタル・ロック・バンド。バンド名は〈Emergency Call Equipment〉の略