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「GLOCAL BEATS」(共著)、「大韓ロック探訪記」(編集)、「ニッポン大音頭時代」(著)などの音楽書に携わり、文化放送のラジオ番組「MAU LISTEN TO THE EARTH」でパーソナリティーとしてアジア情報を発信するなど、世界の音楽とカルチャーをディープに掘り下げてきたライター/編集者/DJの大石始が、パワフルでオリジナルな活況を呈するアジア各地のローカル・シーンの現在進行形に迫る連載「REAL Asian Music Report」。第2回のテーマは台湾インディー。日本でも注目を集めるシーンの現状を、当地でライヴハウスを構えて(!)見守っている〈台北月見ル君想フ〉の店主にして、バンド〈泰山に遊ぶ〉のリーダーでもある寺尾ブッタ氏に語ってもらった。 *Mikiki編集部
2015年11月、シンガー・ソングライターの青葉市子が初のアジア・ツアーを行い、大きな成功を収めた。彼女が回ったのは台北(台湾)、香港、クアラルンプール(マレーシア)、シンガポール、バンコク(タイ)の5都市。その成功を支えたのは、各都市で活動するインディー系アーティストやオーガナイザーであり、企画から制作、アテンドまでをこなした本稿の主役、寺尾ブッタさんだった。
寺尾さんはまさに、アジア・インディー・シーンのキーパーソンのひとりと言える。もともとは東京・青山のライヴハウス〈月見ル君想フ〉のスタッフだったが、同店の店長に就任後、もともと強い関心のあったアジア各国のアーティストをブッキング。2013年には親会社から〈月見ル君想フ〉を独立させる形で経営者に就任し、2014年12月には台湾の台北にて〈月見ル君想フ 台北店〉を開店した。
1か月の2/3は台北にいるという寺尾さんは、台湾と東京を慌ただしく行き来しながら、新しいアジア・インディー・シーンの形を模索している。そんな彼に台湾インディー・シーンの最新動向や先日の青葉市子アジア・ツアーのことなど、幅広くお話を伺った。
――2014年12月に〈月見ル君想フ〉の台北店がオープンしたわけですが、そもそもどういう経緯で台湾に支店を出すことになったんですか。
「東京の〈月見ル君想フ〉で台湾のバンドを呼ぶなかで、徐々に台湾にどっぷりになっちゃって。台北にも足繁く通うようになって、2013年の10月には初めて台北で〈月見ル君想フ〉主催のイヴェントをやりました。そのとき出演したのは、初の台湾ライヴとなるクラムボンと、現地のガールズ&ロボッツ、ステイ・クールという3バンドで、会場は台北の〈WALL〉でした。海外公演はそのとき初めてやったんですけど、可能性を感じる一方で反省点もあって。まずはやりたいことをやれる場所の必要性を感じましたし、台北でそういう場所があれば、東京と2か所で何かができるんじゃないかと思ったんですね」
――日本のライヴハウスが台北に支店を作るというケースは前例があるんですか?
「いや、ないと思います。だから現地の関係者にとってはちょっとした衝撃があったと思うんですよ。〈こいつら、何をするつもりなんだ?〉っていう。ただ、スタンディングで150人、座りで100人いかないぐらいの規模のライヴハウスで、なおかつアコースティック系が中心なので、それほど派手にオープンしたつもりはないんですけどね」
――オープンまでにはいろいろな苦労があったと思うんですが。
「細かいことですけど、内装にしても水道にしても業者との意思疎通が大変でしたね。日本と全然違うんですよ。要はマイペースで(笑)。それぞれの業者が好きなようにイジってるから、元がどんな場所だったのか把握できない。お店をやってる他の日本人の方に訊いても同じことを言いますね。日本から業者を連れていったほうが結果的に安くて早いんじゃないかという話もあるぐらいで」
――お店はどういうエリアにあるんですか?
「わかりやすく言うと、台北駅近くのビジネス街と、台湾大学とか師範大学がある学生街の間ぐらい。永康街っていう賑やかな通りがあって、そこから一本外れた通りにあるんです。日本統治時代の古い日本家屋が結構残っているエリアで、リノヴェーションしてカフェになってるところもありますね。出店するにあたっていろんなエリアを見たんですけど、永康街周辺は大学も近いので、ライヴハウスも結構あって。環境的にもいいんですよ」