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NAIAGARA AS A HIT MAKER
ほとんどがヒット曲――作家としても眩いスポットを浴びた〈ロンバケ〉以降の大滝詠一

 70年代にも沢田研二やかまやつひろしなどさまざまなアーティストに楽曲を提供していた大滝詠一だが、ソングライターとして頭角をメキメキ現していくのは〈ロンバケ〉という大ホームランをかっ飛ばして以降のこと。邦楽シーンではあまり見られない分厚くてゴージャスな音像、いわゆるロンバケ的な色彩感覚を持った楽曲は極めて個性的なものだったが、うまく時代にフィットして軒並みヒットを記録。ナイアガラ・ブランドを広く知らしめる役割を担うのである。

 『DEBUT AGAIN』の柱になっているのは、そんな多大な影響力を誇った売れっ子ソングライター期の楽曲で、ブルー・スカイによく溶けそうなグッド・サウンドを持つ名曲が揃っている。それらには、いずれもナイアガラらしく多彩な音楽的要素を盛り込んだ多重構造的な作りという点で共通項が。例えば当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった松田聖子の通算7枚目となったシングル“風立ちぬ”。フランキー・アヴァロン“Venus”やジミー・クラントン“Venus In Blue Jeans”などアメリカン・ポップス黄金期に活躍したティーンエイジ・アイドルのエッセンスを随所に散りばめたこの曲の高度な音楽性を英「レコード・ミラー」誌が賞賛したことは有名な話。薬師丸ひろ子の“探偵物語”や“すこしだけやさしく”も、井上鑑の華麗なるストリングス・アレンジを含めて凡百のアイドル・ポップスと一線を画す格調高さがある。一方、男性歌手への提供曲には、大滝特有のダンディズムが滲み出るケースが多々あり、森進一“冬のリヴィエラ”やラッツ&スター“Tシャツに口紅”、そして小林旭“熱き心に”など哀愁を背負ったカッコイイ大人の歌謡曲を残している。

 またこの時期はニューミュージック系シンガーへの提供曲も少なくなく、太田裕美“恋のハーフムーン”や稲垣潤一“バチェラー・ガール”が有名どころだが、ガラリと異なる傾向を示すのもナイアガラ的で、70年代からの流れに沿ってうなずきトリオや山田邦子などのコミック・ソングも多々登場した。その路線の最高傑作とも言える金沢明子“イエロー・サブマリン音頭”(言わずと知れたビートルズの音頭カヴァー)が出現するのもちょうどこの頃だ。80年代の半ばを過ぎたあたりから作家活動がメインとなっていく大滝。何年かに一度のペースで、小泉今日子“快盗ルビイ”や渡辺満里奈“うれしい予感”といったガール・ポップの逸品が届けられ、ナイアガラーたちの心を潤わせてくれたのだった。 *桑原吏朗