奇天烈でありながらスタイリッシュなヴィジュアルといい、アヴァンギャルドにもスタンダードにも、ポップにもハードにも振り切れる音楽性といい、〈8期〉となった現在もわが道を歩み続けているcali≠gariより、約1年ぶりの新作『憧憬、睡蓮と向日葵』が到着した。印象派の絵画を思わせるアートワークも爽やかな本作は、〈夏〉をテーマに掲げたコンセプト・ミニ・アルバム。瑞々しい若葉の季節をそのまま音像化したようなオープニング・ナンバーをはじめ、夏のワンシーンを6つのアングルから切り取った楽曲たちは、一枚の作品のなかで美しいグラデーションを描いている。

cali≠gari 憧憬、睡蓮と向日葵 密室ノイローゼ(2016)

 そんな本作を耳にしてまず気付くのは、ソングライターとしてのカラーはもちろんのこと、プレイヤーとしての各々の持ち味がこれまででもっともヴィヴィッドに表出しているという点。ともすればトゥーマッチになるほどの強いキャラクターを持つ3人だが、お互いの音/歌声を最大限に活かす絶妙なバランス感覚が全編に敷かれており、今作の〈ポップ・アルバム〉としての完成度は、彼らの作品のなかでも最高峰と言えるだろう。

 そこまでの道程を探るべく、今回bounceでは桜井青(ギター)と石井秀仁(ヴォーカル)の二人へそれぞれ話を訊くことに。まずは桜井のインタヴューからだが、どうやらまずは、今回の制作方法に一家言あるようで……。

 

血が通ってない

――今回のミニ・アルバム、編曲に白石元久さんや秦野猛行さんといったバンド周辺のエンジニア、鍵盤奏者の方もクレジットされているせいか、青さん担当の4曲はシンセやプログラミングの比率が増えてますね。

 「それはその~、ウチ(cali≠gari)って前からもう、作曲者がその曲の担当みたいなもので、石井さんと僕がそれぞれ各個人で仕上げてるようなイメージがあったじゃないですか。それでも良かったんですけど、今回はそれが時間的にものすごいことになっちゃって。僕的にはね、やっぱりプリプロとかをやって作りたいんですけど……どうです? 今回のミニ・アルバムを聴いてみて」

――最初に歌詞もクレジットも見ずに聴いてみたんですけど、青さんの曲、石井さんの曲、研次郎さん(村井研次郎、ベース)と石井さんの曲、作曲者が迷わずわかる感じでしたね。

 「ですよね。過去に何度も言ってると思うけど、自分は〈cali≠gariにこういう曲が入ってると安心する〉っていう感じのものを作る。で、石井さんと研次郎君が新しい風を吹かせてくれる。それでいいと思ってるし、今回もそうなってると思うけれど、それにしても今回は……変な言い方になっちゃうんですけどね、作品としては完成度の高いものだと思ってるんですよ? 何回もリピートして聴いてるぐらい、すごく良いと思ってるんです。でも今回のミニ・アルバム、なんていうか、まったく血が通ってないんですよ(笑)」

――血が通ってない?

 「メンバーと会って話したり、プリプロして意見交換したりとか、もちろんそんなものはこのバンドにいまさら必要ないんですよ。ないんだけれど、それでもこれまで最低限はやってたつもりなんです。それが、今回に関しては本当にまったくないんです(笑)! もうね、データのやり取りは完全にLINEだけ。例えば僕が〈ちょっとデモを作ったんで、聴いといてください〉って送ると、研次郎君からは〈弾いてみたので聴いてみてください、気になる点は弾き直します〉って、それだけしか返ってこない。石井さんとも、〈送りました〉〈了解です〉ぐらいの必要最低限のやり取りだけで、ああしてほしい、こうしてほしい、っていう制作に対する熱みたいなのがまったくないんですよ。会えばそういうことをいろいろやり取りしたんでしょうけど……ただ……悔しいことに……研次郎君にしても、石井さんにしても、戻ってくるものに関して特に何も言うことがないんです。もう驚愕の素晴らしさ(笑)」

――楽曲制作は別にしても、これまではレコーディングの場で顔を会わせてお互いにリクエストなりはありましたよね? 今回は、それが皆無でも阿吽の呼吸が取れていると?

 「〈阿吽〉とか言わないでください、気持ちが悪いから(笑)。でも、石井さんから送られてきた曲に自分が入れたギターも……自分的には、今回いろいろ良いプレイをしてると思うんですよね(笑)、結構」

――ああ、それはホントにそう思います。

 「石井さんの曲は〈好きにしてくれ〉って送られてきたから、 “陽だまり炎”はホントにノリ一発で、ひたすらカッティングを弾きちぎって。あと、ギター・ソロのガイドも、石井さんがデモになんとなく入れてくれてたんですけど、自分の解釈で弾きちぎってみたり。で、“蜃気楼とデジャヴ”のほうは、ひたすら隙間、隙間、隙間を縫っていくっていう。テレ~~~ンとしか弾かないよって。それと、どちらの曲もひとり、ポリリズムで遊んでみたり」

――それがもう、青さんのギターでしかないんですよね、特に今作は。研次郎さんのベースも石井さんのヴォーカルもそうですけど、だから、作曲者が誰であろうとcali≠gariの曲になっているっていうところはあると思います。

 「そう、〈cali≠gariってどんなバンド?〉って訊かれたら、自信を持ってこれをお渡しできますっていうぐらいに完成度が高いと思うんですよね。血は通ってないけど(笑)」

――ちなみに、青さんの曲に対して二人から返ってきたものは、〈こういうものがきたらいいな〉と思っていたもの、〈そこから外れてるけど良い〉っていうものと両方あるんでしょうか?

 「〈外れてるんだけど良いな〉っていうほうばっかりです。二人にあって僕にないものもあるし、二人になくて僕にあるものもあるわけじゃないですか。自分が作った曲に対して、二人は〈こうあったらいいな〉って思っていたものとは全然違う引き出しから出してきてくれるから、そこがやっぱり、いまのcali≠gariなんでしょっていう。まあ、スケジュール的な部分も大きかったんですけどね。石井さんがヤギ(別プロジェクトのGOATBED)の世話で凄まじいことになってたから。それで今回、僕の曲が4曲になってしまってるっていう」

2015年作『12』収録曲“紅麗死異愛羅武勇”

 

ラヴ&ピース

――青さんの4曲の他は、石井さんが1曲で、研次郎さんの曲を石井さんがアレンジして詞を乗せたものが1曲。今回の配分は、そういう理由からなんですか?

 「そうですよ。まず“アレガ☆パラダイス”が最初にあって。これ、本来はファンクラブの更新特典でプレゼントする音源だったんです。だから、去年の冬には作りはじめてて、1月ぐらいにはもう出来ていて。で、2月ぐらいには配布する予定だったんですけど、ちょっと雲行きが怪しくなってきたから……」

――石井さんの進行が。

 「そうそう。それで、ドラムを打ち込みから生で録り直して緊急避難的に入れたんですけど、これってもともとが、夏のツアーで〈イェーイ!〉ってみんなで楽しめるように作った、夏をイメージした曲なんですよ。だから不幸中の幸いで、コンセプトにはまったく合ってしまっていたという……」

――この、〈アレガ〉って何かなと思ってネットで検索してみたら、夏の大三角形の……。

 「それは皆さんそれぞれの解釈にお任せしたいって感じです」

――(笑)そうですか。音のほうは、BPM速めのシンセ・ポップで。

 「実はこれ、“淫美、まるでカオスな”(配布音源)とまったく同じテンポ、しかもキーも一緒なんですよ。客観的に見て、ウチのライヴでいま一番盛り上がるのが〈淫美〉なんですよね。4つ打ちで、自然に身体が動くあのテンポ感。ああなるほどねと思って、この曲は〈淫美〉と繋げていけるようにしてあるんです。あの、デッド・オア・アライヴの『Rip It Up』ってあったじゃないですか」

 デッド・オア・アライヴの87年作『Rip It Up』収録曲“You Spin Me Round (Like A Record)”
 

――はい。ノンストップのダンス・リミックス的なベスト盤ですね。

 「昔から、あれはやりたいなって思っているんです。難しいとは思うんですけれど、CD一枚がまるまる繋がってるのって、おもしろいじゃないですか。それはまあ、いつかやれるとして、まずはライヴ中だけでもクラブで踊っているときみたいに、身体が感じているリズムとか心拍数をそのまま持っていけたらいいな、っていう。曲を知らなくても、音だけ聴いてハッピーになれたらいいなって感じだけで作ったんですよ、これは」

――そんなハッピーな曲ですが、歌詞はその……。

 「ラヴ&ピースですよ」

――ずいぶん直接的だなあと思いまして(笑)。

 「僕はもう、“セックスと嘘”(2015年作『12』収録)から歌詞に〈愛〉とか使うようになったから、今回も別に使ったっていいでしょ? そこはかとなく、『吉原炎上』(87年公開の五社英雄監督作品)は入ってるんですけど(笑)。〈ここ噛んで〉がありますからね。こういう曲を書くときはもう、やっぱり西川峰子さんの〈ここ噛んで! ここ! ここ!〉っていうのは頭の中にどうしてもね……」

――あるんですか?

 「ラボ(桜井の別プロジェクト、LAB.THE BASEMENT)のほうでも使ってますよ。“コインロッカーベジタリアン”っていう曲があって、それで、〈ここ噛んで、ここ吸って、ここ、ここ〉っていう歌詞があるんですけど(笑)、やっぱり峰子イズムは外せないなって。まあこの曲は、エロティックで、ハッピーで、イメージ的には真夏の夜のリゾート地みたいなね。砂浜のコテージとかですかね(笑)。ほら、海外のディーヴァの方々だって、和訳したらビックリみたいな曲多いじゃないですか。カイリー(・ミノーグ)大先生なんてもう凄まじくて、大好き(笑)」

カイリー・ミノーグの2014年作『Kiss Me Once』収録曲“Into The Blue”

 

憧れから夏へ

――(笑)話が前後してしまいますけど、そもそも今作のコンセプトの〈夏〉はどういう発想からだったんですか?

 「最終的には〈夏〉がテーマになっちゃいましたけど、ホントは違ってたんです。元は『憧憬、睡蓮と向日葵』ってある通り、〈憧憬〉がテーマだったんです、僕のなかでは」

――〈睡蓮と向日葵〉よりは〈憧憬〉がメインだったんですね。

 「そう。次の春/夏のツアーの日程が出たとき、タイトルを決めなくちゃいけなくて、とりあえず夏の花の名前でいいや、と。パッと出たのが向日葵で、睡蓮も夏の花だと思って、そこから睡蓮は水際で、向日葵は太陽に向かってっていう、まあ真逆のイメージだなって考えてたら、オフコースが出てきたんですよ。〈夏は冬に憧れて 冬は夏に帰りたい〉っていう、“夏の終り”っていう曲ですね。憧れだ、憧憬だ、〈憧憬、睡蓮と向日葵〉だって出た瞬間に、自分のなかで、バーン!って作りたいもののイメージが一気に湧いたんですよ。ただ、石井さんにもこのテーマで書いてもらおうと相談したら、〈俺がそんなの書けるわけないじゃないですか〉って一蹴されまして(笑)。それで、書きやすそうなテーマで妥協を重ねたところで、一番手っ取り早いのは〈夏〉じゃない?ってことに」

――ちなみに、「睡蓮」と「向日葵」はモネゴッホの代表作ですが、印象派のようなイメージは……。

 「そういうのも入ってたんです、最初は。ゴッホって、ちょっとBL寄りのイメージがあるじゃないですか」

――ゴーギャンとの関係性でしょうか。

 「そう、だからわりと僕的には、〈睡蓮〉〈向日葵〉〈BL〉みたいなイメージがものすごくあったんですよね。ただ、そこは超個人的な内容になりそうなのでまあ置いといて、結果的に、僕もまったく違う〈夏〉を4種類出せたし、石井さんのも、石井さんと研次郎君のも全然違う夏でいいですよね。石井さんの歌詞の〈君と死にたい〉とかこれ、石井ギャ(ファン)はノックダウンじゃないですかね(笑)?」

 

過去を脱ぎ捨てて

――(笑)そうかもしれません。それでまあ、青さんの曲はあと3つあるわけですが、1曲目の“薫風、都会、行き行きて”は、疾走感があって、爽やかで、滑らかに展開していく楽曲ですよね。

 「曲は爽やかなんだけど、僕ね、これの歌詞書きながらゲロ吐きましたよ(苦笑)。書けなすぎて脳が完全にショートして(笑)。最初のデモの時点でついてたメロと、完成したメロが完全に別物なんです。最初のメロは歌詞を乗せることがどうやっても難しくって、言葉が乗るかどうか仮メロで歌って確認しながら書いてたら、もう脳が拒絶しちゃって(苦笑)」

――それで思い切ってメロから変えるっていう方向に。

 「そう。この曲、歌は難しいんですよ。石井さんの声って低音がすごく響くから、低音から高音までいい感じで出せるように意識して作るんです。で、この曲はそれがまんべんなく入ってる。そのうえで、ひたすら転調しまくる曲だからややこしい。映画音楽とか聴いてるとすごく大胆に転調したりするじゃないですか? そういうのは自分で作ったことないなと思って、今回やってみたんですけど。ただ、やってみたらまあ面倒臭い。この曲が出来たのは、完全に秦野さんのおかげですよ。理論がわかってないと破綻しちゃうようなことをやってるんで、もう、ちょっとした方程式みたい(笑)。大変だったけど、でも、これは作って良かったなって。〈薫風〉って初夏の風ですよね。夏の訪れを感じさせる空気を、この曲で出したかったわけですよ。歌詞も、なんてことないことを書こうと思って。季節が、景色が変わっていく、気持ち良いね、ぐらいのことを書こうと思ったら、全然そうならなくて。気が付いたら、ちゃんと書いてたみたいな(笑)」

――前に一歩を踏み出そうとする人の背中を押すような歌詞ですね。

 「良いメロなのに、いいことを言ってなかったら台なしになりますしね。ただ、〈季節が僕を変える〉ってところは悩んだかな? ここ数年、意図的に一人称は使わないようにしてたからどうしよう?って悩んだんですけど、メロディーに合っちゃったから、ま、いいやって。で、ここで書いてる風景ってちょうどあそこなんですよ。(新宿にある)損保ジャパンや野村ビル、コクーンタワーの前に、新都心歩道橋ってでっかい歩道橋があるじゃないですか」

――はい、はい。

 「大きいビルがバーッて並んでて、青梅街道が下にあって、後ろには中央線が走っていて、電車の音があって……あの歩道橋の上って、風が抜けるんですよ。すごく気持ちが良いんですよね。だから、何をするでもなく、たまにあそこにずっといたりするんですよ、ちょっと頭がおかしい人みたいですけど(笑)。で、まあ、〈風が吹いたからやる気になるの?〉って言われそうですけど、ああ気持ちが良い、がんばろうって気にはなりますよ、やっぱり。特に季節の変わり目の、〈ああ、夏だー〉っていう感じの風は。薫風が街を駆け抜けて、鮮やかな薫りを運ぶことで、その土地はそれまでの姿をバーッと脱ぎ捨てていくわけですよ。人も、過去の自分なんかに囚われていないで、そんなものさっさと脱ぎ捨てて前に進んでいきましょうよって。簡単なことだよ、って」

――そういう優しい発言、青さんにしては新しいです(笑)。

 「なんですか(笑)! そういえば、最初にデモを聴かせたときに、石井さんから〈どうしたんですか? 急にスウェディッシュ・ポップとか作っちゃって〉って言われましたよ。好きですけど、いまさらカーディガンズとかクランベリーズとかやりたいわけでもないから、必死で違うものに作り替えました」

カーディガンズの95年作『Life』収録曲“Carnival”

 

どうでもいい

――ははは。そんなポップなオープニングから一転して、2曲目の“ギラギラ”は……。

 「それはもう、まさにcali≠gariな曲ですよね」

――全体を引っ張るギラギラしたディストーション・ギターのリフが印象的です。

 「そのリフは、中西(祐二。ライヴのサポート・ドラマー)が作ったもので。今回、中西とはプリプロに入ってたんですけれど、そこで僕が作ったリフを聴いて〈青さんそれ、僕が作った昔の曲に似てます〉っていうから、〈どんなの?〉って訊いたら確かに近くて。〈じゃあそれにする?〉ってことに(笑)」

――そこに合わせた歌詞のモチーフは、カミュの「異邦人」ですね?

 「最初は僕、〈太陽が眩しかったから〉とか、それこそ〈異邦人〉ってタイトルにしようと思ってたんですよ。でも、なんか説明っぽいなと思って、もっと直感的に“ギラギラ”かなって。内容はね……あまり深く考えないでいいです(苦笑)。“君が咲く山”よりエグい内容なので……(苦笑)。で、その内容を『異邦人』という究極の不条理小説で紐解いてみたという。だから『異邦人』を読んでるとなんとなくわかってくれるかなって。まあ、すべては〈どうでもいい〉ってことですよ。『異邦人』はすごく好きなんで、これをきっかけにぜひ読んでいただきたいですね。とにかく和訳が秀逸ですから。一番有名なのは、冒頭が〈きょう、ママンが死んだ〉っていうやつですけど、ちゃんとそこはオマージュしてみました」

――確かに近い箇所が。

 「なんかね、Twitterとか見てるとすごいですよね、皆さん。正義を振りかざして。自分が何かされたわけでもないのに、ちょっと人の欠点を見つけては、そこに対してものすごい攻撃をして。それがなんか、むなしいなーと思って」

――SNSとか、ライトに発言できる場も増えましたからね。

 「僕もTwitterで言いたいことはホントにいろいろあるけれど、そういう攻撃的なことを言って、自分のことを好きな人たちを悲しませるのは嫌だし、面倒臭い輩に絡まれるのも嫌だし、まあ、僕は別に活動家ではないけれど、何か言いたいことがあったら、歌詞とか作品にさりげなくフィードバックさせていこうかなって。大衆意識とか、過熱しすぎると集団ヒステリーみたいなもので、もう凶器ですよね。全員が正しいと思ったらそれは正義になってしまうし、なんだか気持ち悪いですよ……これは、そういったことを言ってます(苦笑)。〈携帯で見たニュース〉だけが、皆さんの憩いの場なんですよ。〈バカンス〉なんです」

――安定のシニカルさですね。

「それをすべて、〈太陽が眩しかったから〉で片づけてみました」

 

思い出のスクラップブック

――そんな“ギラギラ”からふたたび一転して、ラストの“憧憬、睡蓮と向日葵”ですが……。

 「これは難しいと思いますよ、読み解くのが(笑)」

――ただ、歌詞は先ほどの印象派の話やタイトルから想像すると……。

 「これは純粋に、〈憧れの歌〉です。僕は君に憧れて、君は僕に憧れてるとか、そういう内容。どちらかというと〈THE! BL!〉です(笑)。なんだけど、〈じゃあその背景は?〉ってところで紐解いていくと非常に難しいことになるんで、それは各自のご想像にお任せしたいっていう。あと、この曲は歌詞だけの意味、曲だけの意味もあるんです。僕の思い出のスクラップブックで完成してる曲なので、さまざまな曲をそのまま使ってるんです、いままでの自分が愛した曲を。コード進行だったり、方法論だったり、そういうものを自分のフィルターを通して切り貼りして、それにメロをのせてく作業をしましたね」

――コード進行や方法論ということですと、リスナーにはなかなかわからないかも(笑)。

 「まあ、わからないですよね(笑)。でも、メロも結構遊んでるところがあるんですよ。冒頭はいきなり(ビートルズの)“Yesterday”なんで」

――ああ~、はい。

 「これが結構大変だったんです。〈タ~ララ~♪〉とくれば、次は〈タララララララ~ララ~♪〉って絶対きますよね? そこを違うメロディーに進もうとしても、偉大な曲すぎて、どうしても次が出てこないんです。発想を変えればきっと簡単にできることなのに、自分の頭が拒否するんですよ。そんなのとか、他にも元ネタは、BUCK-TICKの“(企業秘密)”とか、UP-BEATの“(企業秘密)”とか、PERSONZも、渡辺美里も、大江千里も入ってる、いろんな場所に(笑)」

――ああ、普段からファンを公言されてる方々ですね。

 「しかも、いちばん最初のデモは全部オルガンで作ってたから、もう牧歌的すぎちゃって(笑)。それも捨てがたかったんですけど、メイクをした石井さんがそのアレンジで歌うっていうのは、やはりこう……」

――だいぶシュールですよね。

 「そうなんですよ。秦野さんからも〈あまりにもフォーキーになるから、秀仁君が歌うのにそれは良くない〉って言われて、別の音色のアイデアを出してくれたんですけど、聴いてみたら〈大澤誉志幸じゃないですか、これ〉って(笑)。〈僕、途方に暮れちゃってますよね?〉って思ったんですけど、こっちでいきましょう、と。それで僕もギターをそっちの方向へ切り替えて、まあ、たいしたことはやってないんですけど、強いて言うんだったらこの曲もギター・ソロを超弾いたなっていう」

――泣きのギター・ソロですね。

 「あの、2月に地元の石岡市民会館であったムックのイヴェントに出させていただいたんですね。その2日目に急遽、L’Arc~en~CielKenさんがゲストでいらっしゃることになったんですけど、ホントに素晴らしい方で。僕が普段、好きなギタリストとして挙げてるのは、PERSONZの本田毅さんでしょ? それから今井寿さんでしょ? 布袋(寅泰)さんでしょ? あと、海外で言うんだったらフィックスジェイミー・ウェスト・オーラムとか……それと、辻剛さんとか、Rittz友森昭一さんとかなんですけど、実は僕、あんまり言ったことはないんですけど、ラルクのKenさんってものすごく好きなんですよ。スコアブック買うくらい(笑)。ギター・ソロとか、もうわけわかんないフレージングじゃないですか。ものすごい外し方をするんだけど、それがものすごくカッコイイんですよね。それが昔から謎で、そういう話をイヴェントの舞台監督にしたら、Kenさんに言われてしまって。そしたら次の日にKenさんから話しかけてきてくれて、1時間半ぐらいギター・スクールを(笑)。ピッキングの仕方とか、フレージングの構築の仕方とか、ホントにもう惜しげもなく披露してくださって。だから、そこで講義してもらったものはフィードバックしなくてはと思って、そういうところがあのソロには入ってるんです。僕のソロにしては珍しい感じがしませんか? 全体的に(笑)」

フィックスの2012年作『Beautiful Friction』収録曲“Anyone Else”

 

ドライだからこそ

――青さんのソロにしては、というよりソロがあること自体が珍しいなと(笑)。ただ、そのソロも含めて、この曲は映像的な歌詞とサウンドのリンクがとても密接だと思うんですよね。それはやはり、編曲にクレジットされている秦野さんや、その他の曲でも白石さんとか、あと中西さんもそうでしょうけど、作品制作に関わっているミュージシャンの方々との音作りのパートナーシップがより密になっているからなのかな、と。

 「そうですね。作曲とアレンジはちゃんと自分でやりますけど、サウンドの核みたいな部分はお任せして。餅は餅屋みたいな感じですよね。僕はいま、cali≠gariは3人だと思ってないので。前も言ったけど、いまの〈8期〉はプロジェクトとして動いている感覚が僕のなかにはあるので、それでいいかなって。だから、メンバー間の血は通ってないけれど、今回はホントに良い作品になりました。これがひとつのバンドの形なら、それは受け入れるべきだろうなっていう」

――私個人としては、そういうある種のドライさが、cali≠gariのサウンドや佇まいの……端的に言えば〈カッコ良さ〉に繋がってるのかなとも思うんですよね。

 「いま思い出したんだけど、ほら僕、PSY・Sも好きじゃないですか。PSY・Sの昔のインタヴューで、サウンド面を担う松浦雅也さんが言ってたんですけど、あのお二人は、ユニットの活動中にプライウェートで会ったのは一度だけだったそうなんです。〈作品として本当に素晴らしいものを作りたいから、音楽だけで関係を持ちたい〉と。だから、あくまでドライに、プライヴェートでは会わない。仕事だけの関係でいたいっていう。すごいなって思いましたね。それを見て、ウチも方法論としては間違ってないのかなと。復活してからは年を追うごとにそういう方向へどんどん突っ走っているけど、作品はホントに素晴らしいものが出来たと思っているし。僕が想定していたcali≠gariでは……〈こうしたい〉と思っていたベースとかヴォーカルではないけれど、さらに良いものを出してくれる二人がいる。そういう点では、いまの形がいいんじゃないかなっていう。僕的には90点以上あげたい作品です、今回のミニ・アルバムは」

――逆に、10点マイナスの理由はなんなんでしょう?

 「今回ね、このやり方でアルバムを作ってみてどうしようもない糞みたいな作品が出来上がったら、〈やっぱりプリプロしましょう!〉ってみんなに言おうと思ってたんです。でも、この出来じゃあ……言えない(苦笑)。それがなんだか癪に障るから、ですね(笑)」

 

★石井秀仁(ヴォーカル)のインタヴューはこちら