好評を博した松井玲奈主演のTVドラマ「神奈川県厚木市 ランドリー茅ヶ崎」。その主題歌“シャボン”はチャールストン風の哀愁ポップスで、不可思議な曲展開も含めて妙に心に引っかかった。歌っているのは誰かと思ったら、〈松井玲奈とチャラン・ポ・ランタン〉とあるではないか。松井が、小春(アコーディオン)&もも(ヴォーカル)の姉妹ユニットであるチャラン・ポ・ランタンの大ファンで親交があるのは知ってたけど、まさかコラボが実現するとは。
「小春さんの曲とももちゃんの声に自分の歌が混ざるなんて生涯あり得ないだろうと思っていたので感動でした」という松井の発言は、そのままこちらの意見でもある。と、彼女がどれほど感激したか語る横では「あなたの作る曲は息継ぎとか大変なのよ」と姉・小春に食ってかかる妹・ももの姿が。
松井がSKE48を卒業して初めて発表する“シャボン”。とにかくグッとくる良い曲なのだ。彼女のコメディエンヌとしての資質を巧みに引き出すサウンドもグー。でもって彼女の低音が魅力のカップリング曲“珈琲とケーキ”もいい。あるのはアコーディオンと露わになった彼女の歌声だけだ。レコーディングはどんなふうに進めたの?
もも「初めてヴォーカル・ディレクションをさせてもらったんですけど、漠然と伝えたい思いを言葉にしていくことで自分も多くの発見があっておもしろかったね」
小春「胡散臭いディレクターみたいでしたけどね」
もも「〈玲奈、いいねぇ~、次いっちゃおう〉みたいな(笑)。歌を聴いて強く感じたのは演者感。あぁ、やっぱり女優だなと」
松井「グループの頃は、こういうふうに歌うべき、といった基本的なスタイルがなく、常に聴いたものを聴いたままに出すという作業しかやってこなかったんです。でも曲を作った人が間近にいて、歌詞の意味や曲のニュアンスを汲み取りながら歌うと、自分の身体から出てくる音がこうも違うものかってわかった。〈身体は楽器〉っていうけど本当にその通りだなって」
小春「洗脳ですな(笑)。でも歌を始めたときのもももそんな感じだったよ。私も別段歌のことがわかるわけでもないのに〈ここは巻き舌だ!〉とか雑な命令をしまくって(笑)。だから玲奈たんも経験を積めば素晴らしい演者になれると思う。とにかくさまざまなタイプの曲を書いてみたくなるヴォーカリストだと思いました」
また、両者の醸し出す〈哀愁〉が相まって強力な磁場を生んでいるのが本作の最大の聴きどころ。とりわけ松井が作詞に初挑戦した“カラス座”の大きな哀愁の渦は素晴らしく、明るめのメロディーが彼女の作り出す影を鮮明に浮かび上がらせていく。
もも「〈ブラックホール〉ってワードもなかなか出てこないでしょう。〈哀愁〉という感性を持って生まれてきてしまったというほかない(笑)」
松井「SKEのときもソロ曲は不幸な女の子の曲ばかりだったので、私には明るい歌が歌えないのかと思ってました(笑)」
小春「この3曲で、まだ誰も見ていない松井玲奈を引き出すことができたし、感情のヴァラエティーに富んだ女性だとわかるはず。ただ、〈このジャンルは何?〉って余計わけわかんなくなるかも」
確かに。これはまさにブラックホールへの抜け穴を現出させるエキゾな大爆弾だ。さて愉快な3人の大冒険、この先どこへ行く?
もも「まずは温泉に行こっか」
松井「そこから(笑)?」
小春「ひょっとしたら新しいノリが出てくるかも」
裸になってお互いを知ることは確かに大事。“珈琲とケーキ”の続編で〈温泉と卵〉なんて曲が生まれたりして。
もも「〈卵! 卵!〉とか連呼しちゃったりしてね」