京都を拠点に活動する3人組、THE FULL TEENZがファースト・アルバム『ハローとグッバイのマーチ』をリリースした。メンバーが運営するレーベル、生き埋めレコーズから発表した初のミニ作『魔法はとけた』(2014年)がパンク・リスナーを中心に話題を集め、以降はI HATE SMOKEよりカセットテープ作『swim! swim! ep』(2014年)、SECOND ROYALよりNOT WONKとのスプリット・7インチ『Split』(2015年)とリリースを重ねつつ、昨年は〈FUJI ROCK FESTIVAL '15〉のROOKIE A GO-GOにも出演。インディー・シーンのなかで存在感を高めてきた。

『ハローとグッバイのマーチ』は、〈生き埋め〉からでなくSECOND ROYALからのリリース。その理由についてはインタヴュー本文で確認してほしいが、30~90秒のショート・チューンを連発していた『魔法はとけた』での瑞々しい疾走感はそのままに、艶のあるメロウ・チューンや白昼夢的なサイケ感を醸したミッドテンポの楽曲などサウンド面で多彩さを増した今作は、これまで以上に幅広いリスナーにリーチするだろう。この春に大学を卒業し社会人となったフロントマン・伊藤祐樹の境遇を映し出すかの如く〈青春の終わり〉が色濃く滲んだ、THE FULL TEENZ〈青の時代〉の集大成的初作について、伊藤に訊いた。

THE FULL TEENZ ハローとグッバイのマーチ SECOND ROYAL(2016)

 

普遍的なもの、どんな受け取り方でも成立するような作品をめざした

――先日伊藤さんとNOT WONKの加藤(修平)さん、CAR10川田(晋也)さんに登場いただいた鼎談の反響がすごかったです。伊藤さんはあの記事を読んで、改めて印象に残ったところはありますか?

「3人とも地元をレペゼンしたいわけじゃないというところが、いちばんの肝だったような気がします。あの記事が公開されたあとに、加藤くんが〈勘違いされたくないのが、地元の事大嫌いでしょうがないってことじゃないです〉とツイートしていて。僕もそこを強調しきれていなかったなとも思った。本当に地元が嫌いだったら、むしろ東京に行くと思うし、なんやかんや言いながら、ここにいるというのは、それぞれが活動している土地が好きだからだと思う」

――そうですね。ただ、そこはご心配なくというか、客観的に読んでも、地元にいながらバンド活動を拡げていくことは特別なことじゃなく、いまはナチュラルにそれができるということが伝わる記事になっているように感じます。

「本当にその通りだと思います」

――では、新作の話をしましょう。今回が初のフル・アルバムということで、ミニ・アルバム『魔法はとけた』や、カセットテープ作『swim! swim! ep』と比較して、どんな作品にしようとレコーディングに臨みましたか?

「それら2枚の作品の流れを汲みつつ、もっと根源的なところに返ろうと思っていました。メンバーがいまの3人に固まったのは2年前なんですけど、このバンド自体は僕が中学生の頃からやっているんですよ。15歳のときから自分のメロディー・センスとかは変わってないし、今作にも高校生の頃からやっている曲も収録しています。今回は、自分のルーツをこれまでより解放したうえで、普遍的なものを作りたかった。ジャケットやアーティスト写真を見ただけでどんな音楽かわかってしまうものではなくて、どんな受け取り方でも成立するような作品をめざしたんです」

――なるほど。その根源的なところというのを掘り下げていきたいんですが、結成当初である中学生の頃のTHE FULL TEENZはどんなバンドだったんですか?

「最初は中学の学祭に出たくて銀杏BOYZHi-STANDARDのコピーをやっていたんですけど、結成して半年くらい経つとオリジナルをやったほうが楽しいんじゃないかと思って、自分で曲を作りはじめたんです」

――伊藤さんが最初コピーしていたようなパンクは周囲でも流行っていたんですか?

「いや、いかんせん中学ですから、周りには全然いませんでした。だから僕はタワレコとかで店員さんにいっぱい質問して、情報を得ていましたね。特に日本のインディーズのバンドを熱心に掘っていましたよ。ASPARAGUSや京都のbed、昔だとSHORT CIRCUITあたりがいたレーベル、3P3Bをすごく好きになってリアルタイムじゃないものも遡ってCDを買って。十三のファンダンゴとかにも中学校の頃から出入りしていました」

SHORT CIRCUITの2001年のシングル“The Letter”
bedの2016年作『via nowhere』収録曲“YOU”
 

――ファンダンゴのように比較的小さなライヴハウスだと、中学生は目立ちませんでした?

「ライヴハウスに行くと話しかけられたりするじゃないですか? そのときに中学生と言うのが恥ずかしくて、高校生だと偽っていましたね(笑)。でも、高校生でも珍しかったと思います。若いパンク・バンドのライヴだと高校生もたくさんいたと思うんですけど、僕は3P3BやPIZZA OF DEATHのライヴにちょっと背伸びして行っていたし、お客さんも10代より上の年齢層だった」

――じゃあ、伊藤さんは曲作りの面でも、そのあたりのバンドの影響がいちばん大きい?

「特にメロディーに関しては、そうかもしれないですね。僕の根源にあるのはASPARAGUSの渡邊忍さんなんですよ。忍さんの曲はメロコアには珍しくパワー・コードをほとんど使わなくて、コードがむちゃくちゃ難解。本当に耳コピが不可能なくらい何をやっているかわからないギターを弾いている。彼の作るメロディーやコード感、機材に影響を受けていますし、いちばん好きなミュージシャンかもしれません。いまだにフォロワーだと思います。bedの山口(将司)さんにも〈THE FULL TEENZの曲は忍さんの作る曲みたいだね〉と言われるくらいなんで」

ASPARAGUSの2007年作『MONT BLANC』収録曲“SILLY THING”
 

――『魔法はとけた』の頃は、30秒~90秒くらいのショート・チューンがメインで、アンダーグラウンド・パンク色が強かったですよね。そういったサウンドと出会ったのはいつ頃ですか?

「中学校から高校生にかけてのTHE FULL TEENZは、コピー・バンドの延長のようなバンドだったんですけど、17歳のときにI HATE SMOKEのイヴェントに行ったんです。そこに出てたのが、SEVENTEEN AGAiNTHE SENSATIONSフジロッ久(仮)、いまはBALLOND'ORとして活動しているApricotで、その4組を観たときの衝撃がヤバすぎた。こんなパンク・シーンがあるのか!とクラってしまって。そこで彼らみたいなバンドになりたいと思った。I HATE SMOKEは毎年、年末にサンプラーを出しているんですけど、そこに参加しているバンドはすべて調べましたね(笑)。自分たちでもそういうサウンドをやりはじめると、I HATE SMOKEを好きな人が話しかけてくれるようになって、東京で〈MATSURI〉や〈BREAK A SCHOOL〉というイヴェントをやっているHiROさんと出会った。彼のイヴェントに出させてもらったりするなかで、I HATE SMOKEのバンドとも繋がっていけて」

SEVENTEEN AGAiNの2012年作『FUCK FOREVER』収録曲“スイート マス メディア”
 

――それまでに伊藤さんが観てきたパンク・バンドとI HATE SMOKE周辺の面々とではどんなところが違ったんですか?

「まず全然ちゃんとしてないんですよ。本当に無茶苦茶だった。最初にライヴを観た4組なんて、その日誰もちゃんとステージ上にいなくて(笑)。フロアに降りるは、バーカウンターに上がるは、めちゃめちゃな人の集まりだった。それが当時メロコアばっかり聴いていた僕からすると衝撃的で。メロコアはパンクでありつつもすごく理路整然とした音楽で、綺麗に整理されているんです。だから、ジャンクなパンクに初めて触れたのがその日だったんだと思います」

――伊藤さんは生き埋めレコーズを運営されていますが、立ち上げるにあたってI HATE SMOKEもモデルの1つでしたか?

「I HATE SMOKEのコンピは年に1枚出ていて、毎年30バンド近くが参加しているんですけど、毎回ほとんどバンドに被りがないんです。しかも収録されたバンド全部がI HATE SMOKEっぽくて、それが本当にすごい。主宰の大澤さん(OSAWA17)の情報キャッチ力というか、日本中の格好良いバンドを見つける嗅覚がハンパないです。そういう面ではすごく影響を受けていますね。僕らも最初のコンピ『生き埋めVA』(2014年)を作るにあたって、I HATE SMOKEのコンピと同様に、リスナーが〈なんだこれは!?〉となる地方のバンドを集めたいと思っていたので」

OSAWA17がフロントマンを務めるTHE SENSATIONSの2013作『TWISTIN' IN THE SHITS GROOVIN'』収録曲“STAY YOUNG”
 

――THE FULL TEENZもI HATE SMOKEの2014年度のサンプラー『Journey To The My Way』に“サーティワン”が収録されましたね。やはり達成感はありましたか?

「そうですね。コンピの収録と同時に『swim! swim! sp』を出せることが決まった。大学の講義の最中にオファーのメールが来たんですけど、もう震えましたよ(笑)」

2014年のEP『swim! swim! sp』収録曲“swim! swim!”
 

1人でも多くの人に果てしなく届いてほしい

――今回のアルバムは〈生き埋め〉からではなく、SECOND ROYALからのリリースになりました。

「単純に僕たちより広い間口を持っているところから出したかった。どうしてかと言うと、生き埋めレコーズというのはTHE FULL TEENZの音源を出すためのレーベルではない。それよりも他のバンドの音源を出すほうが楽しいから、そっちに尽力したいんです。自分のバンドのリリースは、そのときどきでベストな場所から出せたら良い。例えばRAZORS EDGEは自分たちの作品をPIZZA OF DEATHからリリースしつつ、一方でTHRASH ON LIFEというレーベルを運営してmanchester school≡などをリリースしている――その考え方に近いのかなと思います」

manchester school≡の2016年作『Lovers, Rubbers』収録曲“アルツ&ハイマー”
 

――SECOND ROYALに決めたうえで、決定打になったポイントは?

「いまの自分たちの可能性をいちばん引き出してもらえるレーベルだと思ったんです。2015年にフジロックに出たあとからは、次はアルバムをちゃんと流通に乗せて出さないと、という意識があって、そこで考えたときにいちばんよく会って相談に乗ってもらっているのが(SECOND ROYALの)小山内(信介)さんだった。SECOND ROYALというレーベルのカラーと僕らはちょっと違っていたし、動き的にもおもしろいだろうなというのもあり」

――間口を拡げたい、普遍的なものを作りたいと思ったきっかけは?

「これまでは、自分たちで企画をやって好きなバンドやお客さんと遊んで、僕たちの世界は完結していたんですけど、ツアーを回ったりフジロックに出たりすることで、自分自身の楽しさの間口も拡がっていったんです。自分が楽しいのがいちばん、というのはいまも同じなんですけど、そのハードルが高くなったというか。スタジオ・ライヴでわかる人にだけわかればいいという楽しさだけじゃなく、大きなところでライヴをする楽しさもわかった。せっかく曲を作っているんだから1人でも多くの人に果てしなく届いてほしいし、それはどんな伝わり方でもいい。このアルバムをものすごくポップだと思う人もいれば、サウンドの面では凝った作品だと思う人もいる気がするけど、受け取り方はどっちでも良くて。いまの自分はインディーだとかパンクだとかポップだとか、まったく考えてないんです。それが僕らのオリジナリティーだと思うし、そういう存在になりたい。サニーデイ・サービスシャムキャッツはそうじゃないですか。スピッツカーネーションも」

――今作では3~4分程度のいわゆるショート・チューンじゃない楽曲が増えていますが、いま言ってくれた意識の変化も関係していますか?

「高校生くらいまでは3~4分の曲もやっていたんです。ただI HATE SMOKEや〈感染ライヴ〉に出会ったことで、そういうものをやるのはダサイと考えていた時期があった。でも、アルバムを作るにあたって自分がいちばん好きな音楽はなんだろうと考えたときに、とにかくメロディーが良いものが好きだと再確認して。ポップになったというよりは、自分のなかの変なしがらみがなくなったように思う。だから昔に回帰した感じなんですよね」

※京都のMETROで開催されている、パンクを中心としたフロアライヴのイヴェント

2014年のミニ作『魔法はとけた』収録曲“Sea Breeze”
 

――今作のミックスはKiliKiliVilla主宰の安孫子(真哉)さんが手掛けられています。彼に頼んだ理由は?

「安孫子さんがこれまでミックスしてきた音源は、すべて1音目からとんでもないパンチがある。CAR10のセカンドの『RUSH TO THE FUNSPOT』もそうですし、僕らとのスプリットに収録されたNOT WONKの“水彩画”もそうだし、銀杏BOYZの『BEACH』(2014年)でも信じられない音が鳴っていた。THE FULL TEENZは曲がポップなので、音像では違和感を残したかったというのが大きな理由ですかね」

CAR10の2015年作『RUSH TO THE FUNSPOT』収録曲“Bustard Blues”
 

―― KiliKiliVillaで言えば、今回“水彩画”には〈Idea Of Lyric〉としてNOT WONKの加藤さんの名前がクレジットされていますね。

「スプリットでお互いの曲を1曲ずつカヴァーしたときに、NOT WONKは“水彩画”を採り上げてくれて。彼らのカヴァー・ヴァージョンの最後のカオス・パートで、加藤くんが弾き語りをしているんですけど、その歌詞は僕が作ったものと全然違う言葉だったんです。加藤くんが勝手に付け加えてくれたものなんですけど、それがすごく良かった。僕らが今回のアルバムで“水彩画”を再録するにあたって、その歌詞を使いたいと思って、加藤くんに許可をもらいました。〈夜風に沿って街を出る 大体はずっと君の横〉と、2回目のサビの〈忘れないように閉まっておこう 水彩画に〉という箇所は加藤くん作ですね」

――へえ! 良いエピソードですね。

「良いですよね(笑)。僕らがスプリットでカヴァーした“Give Me Blow”も僕が勝手に日本語詞を加えたんですよ。まったく打ち合わせもせずに2バンドともオリジナルな歌詞を作っていて、お互いに〈お!〉となりましたね」

NOT WONKの2016年のシングル『Going Back To Our Ordinary』のトレイラー映像。“Give Me Blow”が使用されている
 

鬱屈したモラトリアムがパッと解けてしまう瞬間を歌った

――その“水彩画”では〈ひたすらに追い続け〉と、“ビートハプニング”では〈焦がれた景色に向かうマーチは続く〉と歌われていて。伊藤さんの歌詞は、絶対に届かないとわかっていながら、それでも手を伸ばさずにはいられない、といったモチーフが多いように思います。

「達成する瞬間を歌うのは、僕はあんまり好きじゃない。どうしようもないとか、やるせないとか、そういった感覚のほうが好きなんです。微妙なニュアンスの感情が好きで、音楽以外でも、そういった言葉に表せない感情を表現したものにこそ魅力を感じる。喜怒哀楽の間にある感情というか」

――そうした感情を表現している作家で、特に好きな存在は?

山本直樹さんですね。特に『YOUNG & FINE』という漫画が僕のバイブルで、あの作品がいちばん僕の歌詞の世界観に近いような気がする。音楽では……似ていると言うといろんな人の反感を買う気がするんですけど(笑)、bloodthirsty butchers吉村(秀樹)さんは、言葉にできない感情を歌う名人だと思います。日本一なんじゃないかな。吉村さんもみじめで暗い気分を歌う歌詞が多くて、“7月”の歌詞とかすごいし、大好きですね」

bloodthirst butchersの96年作『Kocorono』収録曲“7月”のライヴ映像
 

――1曲目“PERFECT BLUE”の〈言葉にならない言葉を 遠く飛ばすよ〉という歌詞には、いま言ってくれた伊藤さんの歌詞観がはっきり出てていますね。この曲はミュージック・ビデオにもなって、今作のリード曲的なポジションですが、いまのバンドを象徴しているのでしょうか?

「まさにそうですね。“PERFECT BLUE”は、この曲を聴いただけでTHE FULL TEENZというバンドがわかってもらえるものだと思う。これまでの2作では、スピード感のある曲と展開のある歌ものを、完全に分けて考えていたんですよ。それを同居させられたら良いなと思っていたけど、なかなかできなかった。それをようやくやりきれたのが、この曲でした。THE FULL TEENZの8年間の音楽性――中学~高校で育んだメロディーやパンクのスピード感、『魔法はとけた』以降のインディー的なリヴァーブやコーラス、それらすべてがこの曲には入っている。どの時期のTHE FULL TEENZを知っている人にも刺さるんじゃないかと思ったんです」

――“PERFECT BLUE”のMVでの男子生徒役は、〈感染ライヴ〉など京都のパンクのライヴによく遊びに来ている男の子ですよね。

「そうですね。彼は現役の高校生なんですけど、僕らの企画に中学生の頃から来ていたんですよ。なので自分と重なる感じもあって、好きだったのでMVに誘いました。彼はいまキーマカリーズとチチワシネマというバンドをやっていますね」

キーマカリーズとチチワシネマの2016年のライヴ映像
 

――それを知ったうえでMVを観るといっそうグッときます。あと5曲目の“City Lights”に新鮮さを感じました。『魔法はとけた』に収録されていた“夏の思い出”の発展型のようでもありつつ、こういうブルーアイド・ソウル的な曲は初めてですよね。

「僕はセヴンスのコードを使うのがめっちゃ好きで、これも忍さんの影響なんですけど、コード進行がお洒落な曲に惹かれるんです。昔のシティー・ポップや自分がずっと大好きなかせきさいだぁもそうですよね。実は、この曲のギター・リフは鈴木雅之の“渋谷で5時”のオマージュで。80年代の日本のライトメロウ歌謡みたいな音楽――中古レコード屋で100円とかで売られているものが好きでよく買っているんですけど、そうしたサウンドが下敷きになった気がします」

2014年のミニ作『魔法はとけた』収録曲夏の思い出
 
かせきさいだぁの96年のライヴ映像
 

――また、“IHATONG POO”のファニーなポップさは、伊藤さんが以前好きだと言っていたWiennersを思い出しました。

「これは高3の終わりに作った曲なんです。卒業のタイミングで当時のメンバーが僕以外抜けちゃったときに」

――なるほど。だから歌詞のテーマが〈別れ〉なんですね。〈僕らはずっと歌ってるよ 寂しくなったら帰っといで〉と歌われていて、今作でもっともパーソナルな楽曲に感じました。

「そんなタイミングで作った曲なので、まさにそういう歌詞になっているというか。聴き返してみると、私的でありつつも、さまざまなシチュエーションを投影できる曲になっていると感じたので、歌詞をまったく変えずに収録しました。抜けた奴らはいまMariana in our Headsというバンドをやっているんですけど、そのメンバーの香川俊にシンセを弾いてもらっています(笑)」

Mariana in our Headsの2015年の楽曲“Flash Shot”

 

――最終曲の“ビートハプニング”では〈自分が誰かに影響するなんて 思ってもみなかったでしょ?〉と歌われています。これはどんな経験から出てきた言葉なんですか?

「実は、先述した山本直樹の漫画『YOUNG & FINE』の最後のシーンのセリフなんです。モラトリアムにまみれて鬱屈した青春は誰しも経験があると思うんですけど、このセリフはそれがパッと解ける瞬間を表している気がする。青春時代は〈僕が僕が〉で自分のことしか気にしてなくても、実は自分というのは自分だけじゃなくて誰かに影響を及ぼしている存在じゃないですか……というのを一度意識すると、そこにはもう戻れなくなる。サンタさんは来なくなり、ネヴァーランドには行けなくなる。この言葉はモラトリアムが崩壊する瞬間のセリフだと思うんです」

――モラトリアムが終わる感覚は『ハローとグッバイのマーチ』の通奏低音になっている気がします。“swim! swim!”の歌詞にも〈残酷なスピードで今日も日が暮れてしまう(僕を残して!)〉とあって。大都会が手掛けたアートワークもそういう解釈ができるように思いました。

「なるほど。アートワークのイラストは、アルバムのタイトルとすごくシンクロしていると思ったんです。ハローもグッバイもマーチも、この絵にすべて入っている。ここで撮る予定じゃなかったんですけど、ロケハンしているときに偶然見つけて」

『ハローとグッバイのマーチ』のジャケット
 

――え! 真っ白なコンクリートの写真に上からイラストを被せているかと思ったんですけど、この絵は実在するんですか?

「そうなんですよ。これはすごいですよね(笑)」

――ミラクルですね(笑)。今日話を訊いて、『ハローとグッバイのマーチ』は、サウンド、歌詞、アートワーク、すべての面で伊藤さんの青春の集大成かつ終わりを刻み込んだ作品だと感じました。

「その感覚はめちゃありますね。ただ、あらかじめテーマとしてあったわけじゃなくて、13曲集まったらそういうムードが染み出てしまったんだと思います。僕はメッセージ性の強いことは言えないんですよ。〈がんばろう〉とか、そういう気持ちにさせることはできないし、なんならしたくもない。僕の歌詞を読んで〈こういう感覚ってあるよね〉とか〈こういう瞬間は私だけじゃないんや〉みたいなことを、ふわっと感じてもらえたら良いなと思います」

 


THE FULL TEENZ pre.「ハローとグッバイのマーチ 東京」
日時・会場:6月5日(日)東京・下北沢SHELTER
LIVE:THE FULL TEENZ/松本素生GOING UNDER GROUND)/SEVENTEEN AGAiN/ラッキーオールドサン
DJ:yuyanakamula田中亮太
開場/開演:18:30/19:00
料金:2,300円(ドリンク代別)

BREAK A SCHOOL TOUR 2016
日時・会場:6月11日(土)大阪・松屋町地下一階
LIVE:THE FULL TEENZ/manchester school≡/aapsSuueat.slugger machine /and more

THE FULL TEENZ pre.「ハローとグッバイのマーチ 大阪」
日時・会場:7月31日(日)大阪・十三ファンダンゴ
LIVE:THE FULL TEENZ/and more

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