〈J-Rock〉に魅せられたUSの4人組が、海を越えて念願の日本デビュー!

 サンフランシスコ在住の4人組ロック・バンド、PHOENIX ASHにとって、〈日本〉という国、そして〈日本の音楽〉はとても重要だ。

 「僕ら全員SIAM SHADEが大好きなんだ。ライヴを観に日本まで来たこともあるんだよ。日本のロックにはかなり影響を受けているね」(アーロン、ドラムス)。

 「彼らを知ったきっかけは『るろうに剣心』のアニメだったんだけど、曲のスタイルが好きなんだ。表面上はポップで明るく感じるんだけど、よく聴くと、ものすごくテクニカルなことをしている。それなのにお互いが邪魔をしていない。その方法論を彼らから学んだんだ」(キャメロン、ギター)。

 アーロン、キャメロン、ロウ(ベース)のオリジナル・メンバーは、2005年の結成当時からそういった〈J-Rock〉の要素を取り入れようとトライしていたものの、ヴォーカルのテイストが合わず苦戦していたという。そんななか、2013年に現在のヴォーカリストであるショーンが加入し、自分たちの思い描く理想の音楽を生み出すことができた。

 「自分たちのスタイルを日本のオーディエンスに聴かせたいっていう夢がついに叶ったんだ! やっと〈海を越える〉ことができたよ」(アーロン)。

PHOENIX ASH Cross the Blue PLUG RECORDS USA(2016)

 そんな長年の想いをタイトルに掲げた日本デビュー作『Cross the Blue』は、「自分たちの〈J-Rockサイド〉が強く出ている曲」(アーロン)を中心にセレクトしたそうだ。確かに“Your Legacy”で轟く泣きのギターや、“Any More With Me”でのエネルギッシュなドラミングなど、彼らのサウンドは日本人が思い描くアメリカン・ハード・ロックという印象で親しみがある。特に、どこまでも広がる地平線が目に浮かんでくるドラマティックな“A New Journey”のメロディーは、日本人のツボを押さえている印象。SIAM SHADEの影響を色濃く感じさせる部分もある。

 「僕がこのバンドに入る時のオーディション曲が“A New Journey”だったんですよ」(ショーン)。

 「この曲はバンドにとっての新しい始まりの曲だったんだけど、今回は日本デビューというまた新たなスタートだったから、絶対に入れたかったんだ」(アーロン)。

 「歌詞の1行1行が、自分の大きなモチヴェーションに繋がってる。〈がんばれ。できるぞ〉と励ましてくれています」(ロウ)。

 さらにこの曲では、全曲の作詞を手掛けているショーンが、歌詞の一部を日本語に翻訳して歌っている。なんと彼は英語/日本語/中国語が話せるトリリンガルで、バンド加入前には半年間日本に留学していたこともあるという。

 「最近はメロディーが日本語にマッチすると思ったら、日本語の歌詞を書くようにしています。次の作品は、もっと日本語の曲が増えていると思いますよ」(ショーン)。

 また、本作にはELLEGARDEN“Missing”、abingdon boys school“JAP”、SPYAIR“サクラミツツキ”、MONGOL800“小さな恋のうた”という4曲のカヴァーを収録。メタルのルーツが垣間見えるテクニカルな速弾きはもちろん、ポップ・パンク風のフレーズなども盛り込まれ、音楽的背景の広さを感じさせつつ、原曲の雰囲気を大切にしている。そんなメリハリの効いたアレンジにも日本っぽさを感じたのだが、何より驚かされたのが、ショーンの日本語の発音の良さ。何も知らずに聴くと、日本人が歌っていると思うぐらい流暢だ。日本には歌詞の意味がわからないから洋楽は聴かないというリスナーも多いが、その点、PHOENIX ASHは日本で戦うための課題をひとつクリアしていると言える。

 「いつか武道館でライヴがしたい」と語る彼ら。そんな夢もなんだか日本のバンドみたいで親近感が湧いてきた。海を越えてやってきた日本の魂を持つ4人の未来に期待したい。