Before/After Mehldau
ノンサッチ・レコードには『After Mozart』、『After Bach』というタイトルのアルバムが並ぶ。前者はヴァイオリニストのギドン・クレーメルが率いるクレメラータ・バルティカが2001年にリリースしたモーツアルトに紐づけた企画盤だった。後者はジャズ・ピアニストのブラッド・メルドーがカーネギー・ホールなどの三つのホールから委嘱されて作曲した“Three Pieces After Bach”が元になって企画されたアルバムで、バッハの作品とそのバッハ作品に因んだメルドーの作品が交互に並んだ。
今回『After Bach』の続編となる 『After Bach II』とテーマ作曲家をフォーレとして『Après Fauré』が制作された。バッハを取り上げるジャズ演奏家は数多く、ジャズとバッハの構造的な親和性はビバップが誕生した頃から周知されてきた。一方フォーレはどうだろう。ブランフォード・マルサリスがデビュー当時、誰の耳にも馴染んだパヴァーンやシシリアーノを取り上げていたが、これまで、バッハのように根深くジャズに根付いた音楽ではなかったと思う。メルドーは、フォーレの作品とフォーレの為に書いたオリジナルを並べたこのプロジェクトについてこう書いている。
「このフォーマットは、私の『After Bach』プロジェクトと似ている。関連性はそれほど明確ではないが、フォーレの和声的影響が四作品すべてにある。彼が作品の素材をピアノという楽器に合わせて扱う方法という意味での手触り感の影響もある」。メルドーは彼の手の中でフォーレのエッセンスを開こうとする。
バッハ企画の第二弾は、バッハはメルドーを通じてジャズのエッセンスに近づく。「バッハはあなたを剥き出しにする……。最高の選択はいつでも何もない状態からではなく、そこにあること、その全体性から、行われる。具体的には、和声と旋律の間を取り持とうする方法において常に行われる選択のことだ。これが、ジャズミュージシャンとしての私にとって、バッハが模範である理由だ。即興による私のソロでは、和声を暗示する旋律によるフレーズや旋律的な様相をして動く和声を創り出したい。これが物語る上で決定的な要素となる」