〈古きをたずねて新しきを知る〉というスタンスで今回6人が向き合ったのは、ロックスター感を湛えたアンセムと、現代的なミクスチャー・サウンド。その堂々たる響きは、より広い場所へ届きはじめていて……
俺たちに必要なものは
昨年4月にリリースされたファーストEP『Essence』から始まったSuchmosの快進撃は、アルバム『THE BAY』とセカンドEP『LOVE&VICE』を経て、加速度的に進んでいる。そして、そのグルーヴに宿るストリート感覚とレベル・スピリットに貫かれたロックのダイナミズム、ジャンルを軽やかに横断する軽妙なフットワークが一体となった6人のバンド・アンサンブルは、この夏、さらなる進化を遂げた。〈古きをたずねて新しきを知る〉というバンドのスタンスを、中古レコードの盤質〈新品同様〉を意味するタイトル『MINT CONDITION』に凝縮させた新作EPは、彼らの胸の内で生まれたばかりの感情が鮮やかに響く、そんな作品だ。
「イギリスだったらオアシス、アメリカだったらディアンジェロのような、ものすごいパフォーマンスをするライヴ・アクトを観てきて、俺たちもお客さんと一緒になってヴァイブスを生み出す、めちゃくちゃテンションが高いライヴをしたいなとずっと思っていたんです。ただ、現在のメンバーが揃って半年しか経っていなかったこともあって、去年やった『THE BAY』のリリース記念ライヴは自分たちにとって満足できるものではなかった。じゃあ、そこで最高のライヴをやるためにはどうすればいいのか。いまの俺たちに必要なのは、〈Suchmosのアンセム〉だなって思ったんです」(KCEE、DJ)。
「その時期に観ていたのは、ギャラガー兄弟がサポーターを務める地元のサッカー・クラブのスタジアムでやったオアシスのライヴDVD『Live At City Of Manchester Stadium』なんですけど、地元への凱旋感やホーム感がハンパなくて。俺らもバンドがデカくなるにつれて、ホーム戦に向き合うスタンスがより重要になっていくだろうし、曲作りの段階からスケールのデカい楽曲世界と、俺たち6人のチームと会場に駆け付けてくれたオーディエンスを描いたリリックをイメージしながら、1曲目の“MINT”を作り上げていったんです」(YONCE、ヴォーカル)。
その曲作りは、KCEEがコード進行のループと転調を含んだ曲のアイデアをギターで弾き語るなか、YONCEが鼻歌でメロディーを歌い、歌詞を付けていくという極めてオーソドックスかつシンプルなもの。そこから生まれた力強い歌と仲間に向けたメッセージが、ミッドテンポのグルーヴに乗って真っ直ぐに聴き手へと届けられる“MINT”は、まさに堂々たる一曲だ。
「〈堂々とした、ロックスター然としたアーティスト〉という意味で、自分が影響を受けたのはカート・コバーンなんですよ。中学生の時、ニルヴァーナのリリックを読んで、〈この人、めっちゃ病んでて大変だな〉って思ったんですけど、そこに込められたやりきれない思いには大いに刺激を受けたし、それだけじゃなく、姿勢を正されたり、反面教師として、いまでも聴き入ってしまうんです」(YONCE)。
「ロックスターというと、自分はジャミロクワイのジェイ・ケイかな。彼はデビュー作の時点で環境問題のことを正面から歌っていますけど、それでいて、排気ガスがすごいスーパーカーに乗ってる(笑)。矛盾はしているんですけど、〈金が入ったから良い車を買った。でも、俺は変わらず訴え続けるぜ〉っていう嘘のないスタンスが人間らしくてグッとくるし、歌いたいことを好きに歌うのがアーティストだと思うんです。同じことはYONCEにも言えるんじゃないかな」(KCEE)。
ミクスチャーの進化
そして2曲目は、アマチュアの未成熟な部分がなぜかもてはやされる世の風潮に一石を投じる“DUMBO”。ストレートなロック・ナンバーとしてライヴの現場をヒートアップさせている楽曲を、ここでは生演奏と打ち込み、シンセ・ベースを組み合わせたクロスオーヴァーなアレンジへと昇華している。
「この手法は、ゴリラズ、ビースティ・ボーイズ、マルーン5なんかが使っていますよね。いまの日本では、ビートメイカーはビートメイカー、バンドはバンドって感じで分かれてしまっていて、あまり用いられていませんけど、“DUMBO”では生と打ち込みが同居し得るものなんだということを聴かせたかったし、〈ミクスチャー〉という発想もレッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの頃からさらに進化しているので、俺らがこの曲でそれを形にしてみようと思ったんです」(YONCE)。
手持ちのカードから切り札を次々に切る彼ら。その気前のいい札捌きは、バンドの充実ぶりを如実に物語っている。
「3曲目の“JET COAST”は、『THE BAY』のリード・トラック“YMM”、今年1月に出したEP『LOVE&VICE』に収録の“STAY TUNE”に続くSuchmosの得意玉、その最新形です。作っていた別の曲をボツにして、そのサビのメロディーだけ活かして、別の曲として構築し直した一曲ですね」(YONCE)。
「スピード感があるこういう曲にはHSU(ベース)のリリックがめちゃくちゃ気持ち良くハマるし、YONCEが書くアンセムとは異なる彩りがバンドを豊かにしてくれるんですよね」(KCEE)。
「あと、ラストを締め括る“S.G.S.3”は〈一発録りをやってみた〉シリーズ。バンドとして舐められないように、プレイヤーとしての力量を披露して、最後にリスナーの胸ぐらを掴むような、そんな曲です(笑)」(YONCE)。
メロディーは洗練を極め、そして、グルーヴはスムースに。しかし、それだけでは終わらない血が沸き立つようなソウルの圧倒的な熱を、全国各地のリスナーに広く伝播しつつある2016年のSuchmos。今年後半以降の動きも期待を軽々と越えてくるはずだ。
「いまのSuchmosのライヴは、若い子もいれば、年配の方もいる幅広いお客さんに支えられていて、最前列がいちばん若くて、リアクションも激しくて、いちばん後ろがお酒片手に、スロウなグルーヴで揺れてる最年長組なんですよ。俺たち自身は、格好良いと思う音楽をただやってるだけなんですけど、老若男女が集う光景がホント嬉しいんですよね。誰からも愛されるバンド――音楽はそうあるべきだと思うし、そういう理想的な状況が広がる様は美しいなって思いますね」(KCEE)。
Suchmosの6人が最近気になっているアーティスト/作品を教えてくれたよ
YONCE(ヴォーカル)

YONCEのセレクトは、ファースト・アルバム『Paradise』をリリースしたばかりのサンフランシスコを拠点とする7人組、コン・ブリオ。「ルーツなソウルやファンクをやるバンドなんですけど、〈いま、若手でベスト・パフォーマンスをするバンド〉みたいに言われてて。俺的には久々に本物のスーパースター系のヴォーカリストが出現したなって感覚があって、俺らも出演する〈フジロック〉で観るのが楽しみです」。
HSU(ベース)

「自分がミュージシャンだということをいちばん忘れさせてくれて、純粋にリスナーとして楽しめる作品です」とHSUが語るのは、LAを基盤に活動するエレクトロ・ポップ・デュオ、エレクトリック・ユースの2014年作『Innerworld』。アナログ・シンセによる80s風味のトラックと浮遊感溢れる女性ヴォーカルが、どこかロマンティックな音世界を築く一枚だ。
OK(ドラムス)

「ジャズ・ヒップホップ・バンドの新鋭で、ライヴ盤なんだけど全曲良い感じだし、ラップや歌が上手い!! とりあえずカッコイイから聴いてみて」――とOKが薦めるのは、ホーン隊やタップダンサーも含む8人から成るシカゴの大所帯バンド、サイドウォーク・チョークの『Shoulder Season』。そちらはデジタル配信のみのため、ここではフィジカルでの最新アルバム『Leaves』を。
TAIKING(ギター)

TAIKINGがピックアップしたのは、クロスオーヴァーなAOR作品の最高峰とも言える〈ヴォイス・オブ・スティーリー・ダン〉=ドナルド・フェイゲンのソロ・デビュー作『The Nightfly』。2014年には冨田恵一が同作を語り尽くす一冊も上梓されている。「冨田恵一さんの著書『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』と併せてどうぞ。なかでも個人的に好きなのは、タイトル曲の“The Nightfly”です」。
KCEE(DJ)

KCEEが挙げたのは、2作目『Choose Your Weapon』が日本でも話題をさらったフューチャー・ソウル・バンド。「4人の表現者としてのレヴェルは余裕で世界一かなって。彼らはやりたいことをやっちゃったら、わかりにくい音楽になっちゃうと思うんですよ。それをポップスに持っていくために、ロックとか、R&Bとか、ソウルにあてはめたりっていう形式を取ってる。そこが俺らと一緒だなって思うんですよね」。
TAIHEI(キーボード)

TAIHEIが紹介するのは、70年代ソウルを代表するハイのシンガー、アル・グリーンの73年作『Call Me』。「最近、朝イチによく聴くアルバム。ピアノでアーチー・ターナーが参加しているんだけど、いま、この人にものすごくハマっている。3曲目の“Stand Up”って曲が特にオススメ。深夜の仕事帰りでも、出勤時でも聴き方によって表情が変わる作品なので、ぜひチェックしてくださいな」。
〈MINT CONDITION〉な面々はこんなところにも!
作品ごとに音楽性を変化させてきたオリジナル・ラブこと田島貴男。特に初期の彼は、ブルーアイド・ソウル~アシッド・ジャズと共振した楽曲といい、スタイリッシュな伊達男ぶりといい、Suchmosの面々と近い匂いが。 *土田

Suchmosが影響を公言し、“Blow Your Mind”のカヴァーも披露した重要バンド。70年代ソウルをグルーヴィーに再解釈した彼らが90年代に起こした新風は、2010年代のSuchmosにもフレッシュなまま継承されている。 *池谷
タフなロック・バンドでありつつ、メロウなサウンドで男っぽい美学を表現する――GREAT3がデビュー作で示したスタイルは、Suchmosにもそのまま当てはめることができるのでは。ストリートに由来する不良っぽさも共通するか。 *澤田
新世代ジャズ界が誇るLAの鍵盤奏者の初作。ヘッド・ハンターズやジョージ・デュークらレジェンドからの影響を表しながら、多様な〈ブラック・ミュージック〉を横断する活き活きとしたセッションはSuchmosと共鳴しそう。 *池谷

ソウルやファンク、R&Bからエレクトロニック・ミュージックまでをロックなアンサンブルに落とし込む5人組。本文では〈現代的なミクスチャー感〉の一例として挙げられているが、とりわけ本作はスタジアムに似合いそうなスケール感も備えている。 *土田

ネプチューンズを軸とする3人組が、マシーナリーなヒップホップとして発表した後にラウドなバンド・サウンドで出し直した初作。そのプロセスは、J・ディラの影響を受けつつ骨太なロック・バンド道を進むSuchmosと重なるような。 *澤田

本文でSuchmosが挙げるオアシスから兄貴と慕われたことで、現在にまで至る英国代表のポジションを確立したポールさん。その根本がモッドなソウル・ボーイでもあるだけに、特に初期ソロ曲で見せたワイルドな男ぶりは隔世遺伝してるかも。 *出嶌

デ・ラ・ソウルやトライブ・コールド・クエストをはじめ、90sのニュー・スクール・ヒップホップ勢によるジャズやソウルの引用センスはSuchmosにも影響を与えているはず。マッチョでない飄々とした佇まいも彼らと通じる。 *池谷
リスナー層はまるで重ならないのかもしれないが、チャラいアティテュードをタイトな演奏力が支えた彼らの洒脱なサウンドは、別の地点を経由してSuchmosとも感応しそう。キリッとした眉毛のようなダンディズムが粋な意気がりを輝かせる。 *出嶌

細かいアレンジ云々はともかく、Suchmosが同時代勢と横並びにならない美点は衒いなく色気を纏った歌唱だと思うわけで。その艶は、往年のチカーノ・ソウル的な不良性を介してダロンドやスミスらのカヴァーを歌う本作にも通じるものだ。 *出嶌




