想像を遥かに超えた進化が見舞うサード・インパクト。シネマティックなサイケデリック・ブルースが示すのは、変化を繰り返すことでどこまでも強度を増すこのバンドの真価だ!

すべてが歌じゃん

 振り返れば、変化の兆しはあちこちにあった。2017年作『THE KIDS』で妖しい存在感を放っていた“SNOOZE”や、奔放なサウンドがTV画面からはみ出していた〈2018 NHKサッカーテーマ〉の“VOLT-AGE”。昨年のミニ・アルバム『THE ASHTRAY』収録の“YOU'VE GOT THE WORLD”や“ONE DAY IN AVENUE”といったアンセミックなロック・ナンバーなど、“STAY TUNE”の大ヒットによって確立されたSuchmosのスムースかつアーバンなイメージは静かに、そして着実に覆されつつあった。しかし、フル・アルバムとしては約2年ぶりとなる新作『THE ANYMAL』で成し得たバンドの大きな進化はすべてのリスナーの想像を超え、大きな衝撃をもたらすことだろう。

Suchmos THE ANYMAL F.C.L.S./キューン(2019)

「今、時代は〈チル〉〈メロウ〉〈スロウ〉と形容される音楽に向かっているとは思います。でも、そういう流れに関係なく、俺たちは一枚の絵を仕上げるように、今回のアルバムで自分たちの芸術性を極めた手応えや確信が欲しかったんです」(KCEE、DJ)。

 時計の針音と共にメロトロンのサウンドが立ち上がってくるコズミック・ブルース“WATER”は、あらゆる負荷を取り払い、無重力のクリエイティヴ・スペースを旅する2019年のSuchmosを象徴するオープニング・ナンバーだ。

「今までの曲作りはバンドでのジャム先行で、そこにYONCEが鼻歌を乗せ、歌いたい言葉を付けていくことが多かったんですけど、今回の曲は、YONCEに歌いたいことがあったというか、歌と歌詞が先行した曲が多かったんです」(TAIHEI、キーボード)。

「バンドとしても個人としてもいろんな国に行ったり、ツアーでデカいステージに立ったり、視野が広がる一方で、狭い範囲の日常において疑問に思っていること――そのギャップをどうすればいいのか。例えば誰かとモメたとか、最近、人付き合いが下手くそになったとか、些細でもあり、捉え方によっては深刻にもなること。そのどちらが歌なのか。これは歌うべきなのか歌わないべきなのか。そういうことをずっと考えて、沈没と浮上を繰り返していましたね。でも、ある時期に〈すべてが歌じゃん〉っていう心境に至って、それを歌って話すのが俺の役割なんだなって、気持ちが振り切れました」(YONCE、ヴォーカル)。