残響は2004年の設立以来、9mm Parabellum BulletやPeople In The Box、cinema staffなど多くの人気バンドを輩出。変拍子の嵐と共にポスト・ロック・ブームを牽引し、65デイズオブスタティックなど海外勢も積極的に紹介してきた。その影響力は言うに及ばず、それこそゲスの極み乙女。にだって〈残響系〉の名残りを見つけられるだろう。功罪相半ばするところもあるが、残響が日本のギター・ロックに革命的な変化を促したのは紛れもない事実である。
そんな一大ムーヴメントの立役者が、te’のメンバーにして残響の代表取締役でもある河野章宏だ。音楽業界に旋風を起こしていく過程とノウハウを記した著書「音楽ビジネス革命~残響レコードの挑戦」(2010年)はベストセラーとなり、メジャーとインディーの境界線が曖昧になりはじめた2000年代に河野が示した経営論は、多くのヒントを与えている。そんな残響というブランドも、主役級のバンドが続々とレーベルを離れていくなど、ここ数年は勢いに陰りが見えていた。〈そういえば、最近どうしているのかな?〉と思っていた読者もいるかもしれない。〈不遇の時期はあった〉と、河野自身もはっきり認めている。
しかし、雨のパレードや空中メトロといった進境著しい若手バンドの台頭と共に、この風雲児はついに甦ったようだ。社長の価値観が変われば、レーベルの価値観も変わる――栄光と挫折を経て、第3期を迎えた残響の勢いをこのインタヴューから感じ取ってほしい。革命のあとも挑戦は続く。破天荒なドラマと現在の充実ぶりを語ってもらった。
歯車が狂いはじめて、時代から取り残されていた感覚もありましたよ
――ototoyに掲載されたHave a Nice Day! × OBKR(Tokyo Recordings)さんとの鼎談記事や、地下室Timesの雑談インタヴューに顕著ですけど、最近の河野さんは〈若い人からイジられて喜ぶ〉という新たな境地を開拓していますよね(笑)。
「ハハハ(笑)。ぶっちゃけて言うと、余裕が出てきたんですよ。2004年にレーベルを立ち上げてから、ガムシャラに走り続けてきたんですけど、あるとき挫けそうになって。実は僕、病気になったんですよ。誰にも言ってなかったんですけど」
――いきなりですね! なんの病気ですか?
「うつ病の逆ですね、躁病になってしまって……。30歳くらいから365日ずーっとフル回転で、そんなことしていると、やっぱり人間おかしくなるじゃないですか。強烈なハイ状態で走り続けて、どこかで壁にブチ当たったんですよ。でも辛くてもがんばろうと、ウルトラ・ポジティヴな状態でずっと仕事していた。そうこうしているうちに、残響のバンドや周りの人たちも〈河野さん、どこか変だぞ〉と言いはじめて」
――どうも様子がおかしいと。
「アドレナリンが出まくって、寝付くこともままならないので昼夜問わず仕事していましたね。朝起きてすぐノートにアイデアをガーッと書き殴ったり、壊れたビジネスマンみたいになって」
――明らかにまずいですよね。
「まずい、まずい(笑)。そんな感じだったから、身体のほうにも異変を感じるようになってきたんですよ。それで病院に行って、いろんな診療科を渡り歩いて、人間ドッグもやってみたけど異常は見つからない。でもやっぱりおかしいから、ネットで自分に該当する症状を調べていくと、どうも心療内科じゃないかと。横浜に名医がいるらしいということで、その人に診察してもらったら〈躁状態ですよ〉と言われて。ドンピシャでした」
――うつ病になったバンドマンの話はよく聞きますけど、そこで躁病になってしまうのは河野さんらしいですね。不謹慎ですけど、なんとなく。
「そうかもしれない(笑)。その時に、テンションを抑える薬を処方されたんですけど、飲んだらとにかく辛くて。平常時との落差が激しすぎるから、うつ病になったように感じてしまうんですよ」
――それが、東日本大震災の前後くらいの話ですか?
「タイミングとしては、もうちょっと後かな。そこからしばらく寝込んでしまい、仕事も控えるようになって」
――河野さんはよく昔のインタヴューで、〈音楽もビジネスもクリエイティヴであれ、オルタナティヴであれ!〉と強調されてきたじゃないですか。その頃は残響も、打てば当たる連勝状態がしばらく続いて。
「そうですね」
――その盛り上がりがピークを過ぎたときに、〈壁にブチ当たった〉わけですよね。それでも河野さんは強迫観念のように、〈オルタナティヴであれ!〉と自分に言い聞かせ続けたのかなと。
「そうなんですよ! 現実を受け入れるのが怖くて、自分の身を守るためにそういう精神状態に陥ってしまって。だけど、いまはそういう状況も受け入れられるようになった気がします。そこからすごく楽になりました」
――具体的に何が変わったんですか?
「最近は原点回帰というか、過去の自分を振り返る作業をしているんですよ。〈昔の自分はなぜ上手くいったのか?〉〈成功できなかったバンドは、どこがいけなかったのか?〉みたいな分析もしていて。そうやって振り返ると、ある時期からの自分はどこかおかしくなっていたんですよね」
――では、昔の河野さんはなぜ上手くいったのでしょう?
「純度が高かったんですよ。余計な知識がないから、何も考えずに突っ走ることができた」
――ビギナーズラックみたいな?
「そうそう! 最初はガムシャラだったけど、月日が経つにつれて自分のなかに情報がどんどん蓄積されていくんですよ。そうなると、〈本当は好きじゃないけど、世間では流行っているから採り入れよう〉みたいな悪い欲望が生まれてきて。そうなるともう、選択肢に惑わされっぱなしで。周りの人も次第に離れていきましたね」
――らしくない姿を見せることで、訴求力を失ってしまったと。
「正直に言うと、残響から離れていったバンドは、僕のそういうところを見て愛想を尽かしたんだと思います。〈もう、昔のように純度が高くないんだな〉って。そういう時期もありました」
――河野さんのなかで、残響がピークだと感じたタイミングはいつですか?
「やっぱり、9mm(Parabellum Bullet)がヒットしたときですよね。そういう上り調子のときって、意外と何も考えていないものなんですよ。〈自分が売ってやった〉なんて微塵も思ってなかったし。でも、ピークが過ぎて落ち着いてくると驕りも出てきて」
――あらあら。
「〈いやー、俺ってイイ仕事したよな!〉とか考えるようになったり、いろいろと欲が出てしまった。若い経営者のダメな典型例って感じですよね。絶対に驕らないようにしようと、あんなに気を付けていたのに……。なんか、〈しくじり先生〉みたいになってきましたけど(笑)」
――俺みたいになるなと(笑)。でも、上り調子だった時期と、5年ほど前の低迷期とでは、そこまでモチヴェーションに開きがあったんですか。
「もうね、全然違いますよ。音楽って人の心を動かすものじゃないですか。じゃあ、人の心を動かすものってなんだろうと考えてみると、それはやっぱり〈音楽に対しての純粋さ〉なんですよ。アイドルだろうとバンドだろうと、自分の好きな音楽があるなら純粋に打ち込むべきで。それを小手先で済まそうとするのがまずい」
――なるほど。
「例えば、昔は自分でフライヤーを配っていたんですよ。何かをリリースするたびに、下北沢のライヴハウスや雑貨屋を1軒ずつ回って。〈それって社員の仕事じゃないんですか?〉みたいにも言われたけど、とにかく自分で配るように心掛けていた」
――それは偉いですね。
「でも、気付いたらやらなくなったんですよ。それで結局、自分が配らなくなったら社員も誰一人やらなくなった。やっぱり、会社のトップが率先して動かないとダメなんですよね。あの頃の自分は、〈残響がネットで告知すれば、お客さんも集まってくれるだろう〉みたいに考えていて。明らかにがんばってないですよね(笑)。そういう空気は自然と伝わるもので、バンドやお客さんも離れていくし、〈残響って落ち着いちゃったよね〉みたいなイメージにも繋がってしまった。自分でもマズイのはわかっているけど、どうしたらいいのかわからない。そうやって歯車が狂いはじめたのが5年くらい前でした」
――ポスト・ロックというジャンルのイメージが少しずつ古臭くなってきたのも、そのくらいの時期ですよね。
「そうですね、時代から取り残されていた感覚もありましたよ。4つ打ちのオシャレなバンドが流行りはじめていたけど、僕らって完全に4つ打ち文化にはいないじゃないですか。どう考えても変拍子のバンドしかいない(笑)。〈あのラインに乗せてほしい〉と言ってくるバンドも結構いたんですけど、僕たちの居場所はそこじゃないからと断って。そういう意味では、頑固オヤジみたいになっていましたね」
――〈残響系〉という言葉を生み出すほどのブームを巻き起こしたあと、次に何をするべきか見えなくなったというか。
「それはありましたね。〈何をしていいのかわからない〉ってよく言ってましたし(笑)」
雨のパレードと知り合ったことで、自分の価値観も変わった
――河野さんのなかで、残響の歴史を大きく区切るとしたらどんな感じですか?
「まずはレーベル設立から9mmが事務所を独立するまで(2013年)。その次はPeople(In The Box)が独立するまで(2016年2月)。そして、いまに至るという感じです」
――じゃあ、いまはレーベルにとっての第3期なんですね。現在の残響は、第2期までの残響と何がどう違うんですか?
「まずは、自分の価値観が違いますね。昔は残響というブランドを築こうとしていた。いまは、そのブランドを壊そうとしている」
――本当に壊そうとしていますよね(笑)。
「メチャクチャ壊したいです! もう裏切りの連続にしたい(笑)。いまも新人を探しているんですけど、今度一緒にやろうと思っているのは女性ソロ・シンガーですからね。そういうふうに、これまでと全然違うことにトライしていきたいです」
――カッコイイじゃないですか!
「従来のファンに、〈もう残響じゃないよね〉と言われても構わない。なぜなら、俺が残響だから(笑)! 社長の価値観が変われば、会社の価値観も当然変わるわけで。それに、(設立から)10年もすれば変わっていくのが普通だと思うんですよ。だから、いまの時代にフィットした残響を作っていけたらなと」
――でも、名門と呼ばれるレーベルはどこもそうですよね。海外で例えるなら、4ADやワープも、どこかで全然違うことに挑戦して、新しいファン層を獲得してきたから長く続いているわけで。
「まさにそう。だから、いまはメッチャ楽しい(笑)。創造のために破壊して、また新たな創造に取り組んでいるところなので。もちろん、昔の良かった部分は継承するつもりです。クリエイティヴに関しては徹底してこだわり抜く。そういうのも最近は忘れていたので、初心に返ってもう一度やり直そうと」
――そんな〈新しい残響〉を象徴するバンドは、やっぱり雨のパレードでしょうか。
「間違いないですね。知り合った頃から、きっと大きく伸びるだろうとは思っていたけど、最近は本当にすごい。センスの良さに驚かされますね。もう、俺なんかいらないんじゃない?と思うくらい(笑)」
――7月20日にメジャーから初のシングル“You”がリリースされますが、『new place』(2015年)など初期のEPは河野さんがプロデュースしていましたよね。彼らとの出会いはどんな感じだったんですか?
「実は、最初はレコード会社からの紹介だったんですよ。これまでは自分で見つけてきたバンド以外は99%お断りしてきたんですけど、雨のパレードは〈相性良さそうだな〉と思って、一緒にやろうと声を掛けました。そういう意味では、彼らと知り合ったことで自分の価値観も変わったんですよ」
――第3期に向かう第一歩だったと。
「そうそう。現在はマネージメントに携わっているんですけど、彼らと一緒にやることで考え方も変わってきていて。若い感性と方法論から学ぶものはすごく多い」
――例えば?
「音の作り方一つ取っても違いますよね。彼らがテーマにしているのは、音圧で埋め尽くすのではなく、どれだけ隙間を空けることができるか。それって、自分がこれまで関わってきたバンドと真逆の手法なんですよ。これまでの残響では、音圧でワッショイ!みたいなゴリゴリ感で(笑)、音やアイデアを詰め込んでいくのがメインだったから」
――言われてみれば、確かに。
「音圧には頼らないけど、音の配置によってダイナミズムを生み出そうとしている。インタヴューでも〈日本にこんなバンドはいなかった〉と(本人たちも)よく話していますけど、雨のパレードは新しい感性の持ち主ですよね」
――河野さんが最近よくTシャツを着ている、1975にも近い発想というか。
「そうそう。ただ、彼らのそういうチャレンジは、まだ見合った評価をされていない気がしていて。ものすごく音楽的なのに、どうしてもヴィジュアルやファッション性が先行してしまう。それが少しもどかしい」
――雨パレのバンド・アンサンブルは〈ついに来たか!〉と思いましたよ。単に物真似するのとは別のところで、海外の音楽とリアルタイムで共振するバンドがようやく現れてくれたと。そういう点で、雨パレの『New generation』とD.A.N.のデビュー作は、個人的にも2016年を象徴するアルバムだと思いますね。
「わかります。リーダーの福永(浩平)とも、〈こういうサウンドいいよね〉みたいな話ばかりしていて。海外の若手バンド、例えば1975やイヤーズ&イヤーズを聴きながら、細かい音処理やマスタリングの仕上げ方とか、そういうのを聴きながら話し合うことが多くて。今回のシングル“You”もメロディーは日本的だけど、海外のリアルタイムの音楽で聴くことができるようなサウンドで制作されています。おかげさまで、曲を書いてほしいなどの依頼もどんどん増えてきて、コラボやタイアップの機会も多くなってきました」
――そして、もう1組の注目すべきニューカマーが空中メトロですよね。ちょうど1年前に、〈残響からチャットモンチーみたいなバンドを出す〉と河野さんから聞いていたので、楽しみにしていました。
「空中メトロとは、2014年に開催した〈残響祭10th ANNIVERSARY〉の大阪公演でオープニング・アクトとして出演してもらったのが最初ですね。そこまでの経緯もおもしろくて」
――どんな感じだったんですか?
「この10周年ツアーでは、公演を行う各地でオーディションして選ばれた最優秀バンドに出演してもらったんですよ。それで、大阪のイヴェンターさんは4組くらい最終候補を先に絞ってくれて、〈良かったら、このなかから選んでください〉と音源が送られてきたんですよ。でも、俺のほうで応募作を全部聴いてみたら、その4組よりも空中メトロが抜群に良かった。でも、イヴェンターさんのなかで、彼らの評価はなんと最下位だったという(笑)」
――すごい逆転劇(笑)。でも、そこで届いた音源を全部聴くのは河野さんらしいですね。
「それで空中メトロがステージに立つと、いきなりの大盛り上がりで。その時はまだ結成4か月足らずで、ドラムとベースは高校生だったのに、700人キャパの梅田CLUB QUATTROでお客さん全員が手を挙げている。あれはすごい光景でしたね。そこで何か強い縁を感じて、面倒を見るようになって、いよいよ残響からデビューを飾ることになりました」
――ニューEP『Δ / 僕の歌』が、タワーレコードとライヴ会場限定で7月6日にリリースされるんですよね。
「ちょうど昨日(取材日の前日)出来上がったところなので、聴いてみます? ototoyの鼎談で知り合ったTokyo Recordingsにプロデュースしてもらったんですよ」
――流石、フットワークが軽い!
「でも、やっぱりどこか残響っぽくなって(笑)」
※“Δ”を再生
――ディスト―ション・ギターが突っ走る感じや、つんのめった転調が続くあたりは残響らしいけど、コーラスも含めた緩急の使い方は新世代って感じがしますね。(サビを聴いて)これはチャットモンチーに喩えたくなる気持ちもわかります。
「そうなんですよ、俺自身もポップな音楽が大好きだし。この曲は僕がアレンジを手伝って、次の2曲目はTokyo Recordingsにフル・アレンジしてもらいました。これが実にいまっぽい仕上がりになっています」
※“僕の歌”を再生
――これはもう、ビートの質感からして1曲目と全然違いますね。音数を抜いてストイックな感じ。
「Tokyo Recordingsが一度アレンジしたものを、空中メトロの4人がそのまま演奏したんですよ」
――打ち込みのトラックをバンド演奏に置き換えたということですか?
「そうです。最近のブラック・ミュージック感もちょっとありますよね」
――雨のパレードにも通じる新しさだけど、バンド本来の個性も活かされているし。ガツンと盛り上げる曲も、こういうクールな曲もバッチリ作れるのはすごいですね。
「ハハハ、確かに(笑)。Tokyo Recordingsがメロディーや歌詞も少し直してくれたんですよ。〈こういうふうにしたら、もっと格好良くなる〉とアイデアをいろいろ出してくれて」
――そういうプロデューサー参加型のソングライティングも、最近のトレンドですよね。(曲の後半でギター・ノイズが流れてくる)このへんはポスト・ロックっぽい。
「これもTokyo Recordingsの提案で。彼らのアレンジ力はすごいですよ」
――残響らしいイメージを押さえつつ、現代的なエッセンスもブレンドするバランス感覚は見事ですね。
「このEPも聴いてほしいし、さっきも話したように空中メトロはライヴが半端ないんです。大型フェスだと〈JOIN ALIVE 2016〉にも出演が決まっていますし、これからぜひ注目してほしいですね」
最近のte'はすごくチャレンジングなモードになっている
――雨のパレードと空中メトロ、この2組だけでも〈新しい残響〉の魅力は十分に伝わると思いますよ。
「そうですね。cinema staffやchouchou(merged syrups.)も相変わらずがんばっていますけど、若い彼らには勢いがある」
――最近はとにかく、若い世代のミュージシャンが続々と出てくるのがおもしろいですよね。誰か注目している人はいますか?
「ぼくりり(ぼくのりりっくのぼうよみ)くんですね。音楽的に素晴らしくて驚きました。〈マジで良い!〉と感動して、すぐにCD買いましたもん。あとは、水曜日のカンパネラも好きだし、YKIKI BEATもカッコイイ。雨のパレードや空中メトロ、Tokyo Recordingsもそうだけど、そういう新しい才能と、te'を通じて一緒に何かやりたいんですよね」
――例えばどんなことを?
「まずはライヴを一緒にやりたいですね。あとはコラボしたり、みんなでワイワイやりたい。そういう気持ちがすごくあります」
――toeが去年リリースした『HEAR YOU』(レヴューはこちら)で木村カエラやCharaも歌っていましたけど、例えばそんな感じで、te'がバック・バンドになって誰かと共演するのはおもしろいかもしれない。
「ああ、確かに。ギターのHiroとこの間話したんですけど、気付いたらウチのリズム隊がバケモノになってまして(笑)。ベースがWRENCHの松田知大さんで、ドラムがELLEGARDENの高橋宏貴さんですからね」
――先日リリースされたEP『閾』にも、現在のラインナップによる充実ぶりが反映されていましたよね。あんなにいつも長かったアルバム・タイトルが、今回はたった一文字になっていたのはびっくりしましたけど(笑)。
「ハハハ(笑)、そこは心機一転ですね。今年に入って高橋さんがサポートに加わってから、バンドのテンションがおかしくなっていて」
――また病気にならないでくださいね。
「いやいや、いい意味で(笑)! 何がおもしろいって、高橋さんは間違いなく一流のドラマーなのに、te'のドラムが全然叩けないんですよ(笑)。メチャクチャ苦労していて、本人も〈試練だ〉と自分に言い聞かせるくらい。というのも、ポスト・ロックをまったく通ってこなかったみたいで。パンキッシュな8ビートはものすごく得意だけど、変拍子が入ってくると途端に〈アレ?〉ってなる(笑)」
――あれは難しそうですよね(笑)。
「それであるとき、〈te'のやっていることは、はっきり言ってELLEGARDENより全然すごいと思う。並大抵の技術ではムリです〉と、高橋さんが真剣に語ってくれたんですよ。そんなふうに言われたら、僕らも自信が湧いてくるじゃないですか。しかも、te’の存在を少しでも広めようと、事あるごとに自分のブログで紹介してくれて」
――そういうフレッシュな存在がバンドに加わったことで、演奏する楽しみを取り戻したと。
「おかげで、最近の僕らはすごくチャレンジングなモードになっています。今度、ヒップホップのバンドと一緒に対バンするんですが、これまでなら考えられなかった試みですね。高橋さんには、次回作のレコーディングにも参加してもらおうと思っています。彼が入ることによって、いい意味で〈制限〉も生まれるんですよ。難しいことができなくなるぶん、シンプルな良さを突き詰めていくことになると思います」
もしも残響がなかったら、音楽業界は超つまらなかったと思う
――レーベルもバンドも変わろうとしているわけですね。でも実際には、バンドや社員が離れていったり、残響に携わる顔ぶれが変わっていく過程には多くの気苦労もあったんじゃないですか。既存のイメージを覆すのも、一朝一夕でできることではないと思うし。
「そうですね。残響のカラーに愛着を持って、それを守り続けようとしてくれた人もたくさんいて。〈いきなり変わろうと言われても、これまでの努力はなんだったんですか?〉となっても無理はない。そうなると、会社を離れてもらうしかないわけで。ただありがたいことに、最近は〈戻りたい〉と言ってくれる社員もいるんですよ。〈一時期の残響はあまり好きじゃなかったけど、またおもしろそうになっているから〉って。昔、9mmの現場マネージャーをやっていたスタッフもその一人で。あの頃とは雰囲気も中身もガラッと変わっているけど、そういうことが社内で起きはじめている」
――それはすごい!
「そいつらが、新しい残響のバンドを〈やっぱりすごいですね〉と言ってくれるんですよ。この間、空中メトロが東京でライヴをやったときも〈すみません、残響をナメてました〉と言われました(笑)。最近はずっとライヴハウスでブッキングの仕事をやっていた人間が、〈こんなにいいバンドは最近いなかったです、ぶっ飛びました〉〈河野さんが選んでくるバンドはやっぱり違う〉と熱く語ってくれて。そうなると、自分が大事にしてきたポリシーも正しかったと思えますよね。ジャッジの基準さえ守っていれば、レーベルやバンドのイメージが変わったとしても、根本は変わらないのかなって」
――全盛期には20人いたという社員が、いまはだいぶ少人数になったそうですね。そこだけ聞くと心配になるけど、逆境をバネにして、フットワークの軽さやチャレンジする姿勢を取り戻しつつあることが、今回のインタヴューでよくわかりました。
「そうですね、全盛期に比べたらいまはお金が全然ないんですよ。でも、お金がないということはスタートに戻ったのと同じで。予算がなかったら、アイデアやクリエイティヴィティーに力を注ぐしかない。やっぱりいまは、そこに原点回帰しているんだと思います。確かに、お金さえかければ何でもできますよね。それなりにクォリティーの高いPVを作れるし、いろんな人を雇うこともできる。ただ、そこに自分の意思が反映されてなかったら何も生まれないわけですよ。いま思えば、つまらないところにかなりの大金を投じてしまったなと。すごく反省しています」
――今日はいっぱい反省していますね(笑)。
「もう反省だらけですよ(笑)。もっと意思を持ってお金を使えば良かったなと」
――でも、〈日経ビジネスオンライン〉の連載で、河野さんもおっしゃってたじゃないですか。どうして「前年比」を超えないといけないんですか? 残響の売上高は凸凹です。それで何の問題もありません〉と。
「別に、俺はそれでいいと思うんですよ。普通だったら精神的に耐えられないと思います。頂点を1回経験したあとに、〈最近の残響はおもしろくないよな〉と言われて、バンドも離れていくなんて。でも案外、平気だったかな」
――本当ですか?
「だって、俺の人生だから。誰かにとやかく言われようと関係ない。風評被害があろうと、俺のやりたいことをやる。それだけです」
――大好きな飛行機にも乗るし。
「そうそう(笑)。アイアン・メイデンのようにジェット機を乗り回してやるぞと。そういえば、空中メトロのメンバーが〈売れたら、社長に飛行機を買ってあげます〉と約束してくれて」
――愛されているじゃないですか。
「そら頼む、ぜひ売れてくれと。〈20億か30億円はするぞ、安い買い物じゃないぞ〉みたいな話もしつつ(笑)。でもそう考えると、自分もまだまだ前進できる気がしますね」
――河野さんの何がおもしろいって、そういう人間ドラマですよね。2000年代以降の話をしているのに、スケールや浮き沈みの過程が昭和のバブルみたいじゃないですか(笑)。
「ハハハ(笑)。これからもっとおもしろくなってくると思います。残響にとって2回目の大ヒット・バブルも絶対に来ますよ! 見ていてください」
――ちなみに、もしも残響がなかったら音楽業界はどうなっていたと思いますか?
「超つまらなかったと思います。いまよりバンドマンが少なくなっていたんじゃないかな。あと、僕がいま辞めたら音楽業界が絶対におもしろくなくなりますね。なんだかんだ、僕らの扱っている音楽はニッチなわけですよ。そういうニッチな音楽では食えなくなってきて、サポートする経営者もどんどん減っている。それでも、周りがイケメンのバンドやアイドルでヒットを狙うなか、辛うじて食っていける僕らがニッチな音楽を世に送り出すことには大きな意味があると思う。そういう勝手な使命感はありますね」
――〈音楽ビジネス革命〉が刊行されてから6年が経ちましたけど、河野さんによる挑戦はこれからも続いていくわけですね。
「以前、ぼくりりくんやフォーリミ(04 Limited Sazabys)のGENくんが、Twitter上で雨のパレードを絶賛してくれて。それを見つけたときに、自分の役割はこれからだと思いました。いろんな立場から、若い世代にも刺激を与え続けていきたいです」
雨のパレード - Tokyo (Official Music Video) https://t.co/mLgQFzlHQy @YouTubeさんから 超かっこよい。。。透明感がすごい。。。
— ぼくのりりっくのぼうよみ (@sigaisen2) 2016年4月5日
初見の雨のパレードもびっくりするぐらい良くて好きだった。普通に物販並んでCD買いたかった。タワレコで買います。
— GEN (@04GENLS) 2016年3月6日
te'
ワンマンツアー 『過剰な豊潤が退廃であるように、禁欲も過ぎれば陶酔に溺れる。衝動に脚色を与えず、 無垢を晒し不謹慎を徹すれば、頓て諧謔を生む。』延期公演
7月23日(土) 愛知・名古屋ロックンロール
7月31日(日) 福島・LIVE SQUARE 2nd LINE
8月14日(日) 東京・渋谷O-nest (ツアー追加公演)
自主企画イヴェント〈私が奏でる鼓動と循環は、地上的形態の疆界を踰越し、開闢と終焉の永劫回帰と響き合い、彼方の理と内なる開悟を掬びつける。〉
9月19日(月・祝) 東京・代官山LOOP
雨のパレード
ワンマンライブツアー『 You & I 』
9月15日(木) 愛知・名古屋 CLUB UPSET
9月17日(土) 東京・渋谷CLUB QUATTRO
9月22日(木・祝) 大阪・阿倍野ROCKTOWN
料金(1D別):前売り/3,500円
空中メトロ
見放題2016
7月2日(土) 大阪・ミナミアメリカ村
空中メトロ自主企画第3弾! あなたと夏祭り
~桃色の片思い初ツーマンに恋してる~
7月16日(土)大阪・北堀江Club Vijon
JOIN ALIVE 2016
7月17日(日) 北海道・いわみざわ公園