彼女の名前は、Uru(うる)。2013年に自身のYouTubeチャンネルを立ち上げた彼女は、荒井由実の“ひこうき雲”をスタートとして、サザンオールスターズ、エルトン・ジョン、尾崎豊、中島みゆき、安室奈美恵、スピッツ、クリープハイプ、ONE OK ROCK、米津玄師、SEKAI NO OWARIらのカヴァー楽曲を公開し、注目を集めてきた。
「5歳からピアノを習っていたので、楽譜を買って演奏したり、メロディーを作って鼻歌みたいなことを趣味でやってはいたんですけど、人前で歌うのは苦手なほうで。それが……友達の誕生会でひとりひとり歌を歌うっていうことがあったんですね。どうしようと思ってすごくドキドキしながら歌ったんですけど、みんなから〈上手いじゃん!〉って言われて紙吹雪が舞ったんです(笑)。そういうところから徐々に自信がついてきて」。
ピアノによるアレンジ/プログラミング、動画の撮影/編集をすべてひとりでこなした彼女だが、あくまでも〈歌、歌声に焦点を当てたい〉という目的で映像をモノトーンに統一し、素顔もほとんど見せないまま、100本にも及ぶ数をアップし続けてきた。
「最近でもうまく歌えなくて凹むことはよくあります。その時のMAXを出してるつもりでも波があって。でも、そういう時も聴いてくださった方の何気ないコメントがすごく響いて……それで続けられました」。
〈歌いたい〉という衝動を無闇にぶつけていくのではなく、そこに乗せた感情が聴き手にどれぐらい伝わっていくのかをしっかりと確かめながら動画を更新し、したためられていったUruの歌は、単に〈上手い〉とか〈美しい声〉という言葉だけでは言い尽くせない、上手いか下手か、好きか嫌いかを判断するより先にすーっと染み込んで心を潤してくれるような、優しい温度感がある。
そんなふうに時代や性別を越えた多種多様な楽曲を〈自分のもの〉にしながらカヴァーの醍醐味を伝え、ファンを増やしてきた彼女が、このたびいよいよメジャーのフィールドに立つことになった。デビュー・シングル“星の中の君”には、かねてから温められていたというトオミ ヨウのプロデュースによるバラードを表題曲に、蔦谷好位置の編曲によってR&Bテイストを加えた打ち込みのスロウ・ナンバー“WORKAHOLIC”、Uru自身の作詞/作曲による武部聡志アレンジのピアノ・バラード“すなお”の3曲が収録。いずれの楽曲も、丁寧に言葉を紡ぎながら聴き手に思いを届けていこうとする彼女の、現在進行形の可能性を窺わせる仕上がりとなっている。
「トオミさんと蔦谷さんと武部さんがどれぐらいすごい方なのかを知らず、曲を作っていただけるということになってネットで検索したんですけど……(すごすぎて)思わずノートを閉じました(笑)」。
デビューに先駆けて、3月には初めての単独公演を品川教会グローリア・チャペルで開催。そこではカヴァーの他に7曲のオリジナル楽曲も披露。生で彼女の歌を体験したという人はまだまだほんの少しであり、シンガーとしての、あるいはソングライターとしてのポテンシャルもまだまだ未知。しかし、その楽曲を聴いてみれば、この先もUruの歌声が多くの人々に心地良さを運んでいくであろうことは感覚的に察知できるはずだ。
「歌を始めたきっかけは、私自身いろいろあった時に音楽で励まされたことがあったからで。自分の敬愛するアーティストのライヴを観に行った時に、それまで悩んでいたこととかどうでもいいやって思えるぐらいのパワーを貰ったんです。普段の日常からすれば、音楽を聴きに行ってる――ライヴって非現実的な空間だと思うんですけど、ずっと好きで聴いていた楽曲を生で聴いているっていう感動や充実感と相まって、音楽の持っている純粋な力を実感したんです。私もいつか反対の立場になって、その時に感じたことをステージから届けられたらなと思って……いま、そこに近づけていることがうれしいです」。
Uru
プロフィール非公表のシンガー。5歳からピアノを始め、歌うことが好きだった家族に囲まれて幼少期を過ごし、やがてピアノによるコピーや曲作りを覚える。2013年に自身のYouTubeチャンネルを開設し、歌唱、演奏、アレンジ、プログラミング、動画の撮影/編集などを独力で行いながら、日本のポップスを中心とするさまざまなカヴァー曲を配信。その歌唱が話題を呼び、14万人超(2016年6月時点)のチャンネル登録者を集める。今年に入って、3月に東京・品川教会グローリア・チャペルにおいて初のワンマン・ライヴを開催。デビュー前から大きな期待を集めるなか、映画「夏美のホタル」主題歌に起用されたファースト・シングル“星の中の君”(ソニー)をリリースしたばかり。