コラム

Bunkamura オーチャードホール「没後20年 武満徹の映画音楽」―映画から音を削る作家が残した〈現在形〉のソニマージュ

Bunkamura オーチャードホール「没後20年 武満徹の映画音楽」―映画から音を削る作家が残した〈現在形〉のソニマージュ

映画から音を削る作家の残したソン・オマージュ

 もし武満徹が存命だったら、シャソール(Christophe Chassol)に引き合わせたかった。

 昨年に続いて、8月末に来日公演を行なうシャソールは、マルティニークにルーツを持つカリブ系フランス人アーティスト。彼は、すでにヤレド・ゼレケ監督の『Lamb』(2015年)の音楽を手掛けているが、単なる映画音楽作曲家ではなく、音楽と映像の対等な融合――「ソニマージュ」というテーマに対して、もっとも果敢に取り組んでいる才人だ。シャソールは、フィールド・レコーディング(撮影と録音)した小鳥の囀りや雑踏の音などからメロディとリズムを丹念に聴き取り、それらをキーボードで鮮やかにハーモナイズし、ミュージック・コンクレートの手法を応用しつつ、オリジナルの音楽とミックスする。しかも自ら映像をモンタージュして独創的なソニマージュを生み出す。信州の閑静な仕事場で、自然界の音が奏でるハーモニーに囲まれながら作曲に励んでいた武満は、「私は音を使って作曲するのではない。私は音と協同するのだ」(『音、それは個体のない自然』)と書いているが、シャソールも、地球上のさまざまな「音」と協同(コラボレート)し、「音楽」と「映像」による豊かなソニマージュを創造する。映画における「音楽」と「音響」の役割に対して誰よりも意識的で、実験映画を作りたいとも語っていた武満は、きっとこんなシャソールに興味を抱いたに違いない。

 最初にシャソールの話を持ち出したのは、他でもない。武満徹という存在は、没後20年の現在においても「現在形」であり、彼の音楽は古びるどころか、今なお現代の音楽として生々しく鳴り響いているのだから。この意味において、武満の音楽は、シャソールの音楽と並べて語られるべき「現代音楽」だと心の底から思う。

 映画音楽作曲家としての武満徹の独自性は、『映像とその音響』というエッセイの中の“映画から音を削る”という言葉に集約されている。「観客のひとりひとりに、元々その映画に聞こえている純粋な響きを伝えるために、幾分それを扶けるものとして音楽を挿れる。むしろ、私は、映画に音楽を付け加えるというより、映画から音を削るということの方を大事に考えている」(『映像から音を削る』〔清流出版〕に収録)。このように武満は、常に映画全体のことを考え、音楽の演出に抑制を働かせ、観客の想像力を尊重していた。また、“映画から音を削る”という表現を敷衍するなら、武満は沈黙(静寂)から音を削る作曲家でもあったと思う。

兵庫県立芸術文化センター 撮影:飯島隆
左から、ヤヒロトモヒロ(perc) 、渡辺香津美(g)、鈴木大介(g)、coba(accordion)

 武満徹の映画音楽の中には、小林正樹監督の『怪談』(65年)に代表される、ミュージック・コンクレートの手法を駆使したり、日本の伝統楽器の音を電子的に変調させて作った、いわゆる「現代音楽」的な作品がある。その一方で、ガット・ギターやアコーディオンによる素朴なメロディを主体とした作品もあれば、シャンソンやジャズの要素を取り入れた作品もある。12月に開催される『武満徹の映画音楽』 で演奏される作品は、鈴木大介(g)、渡辺香津美(g)、coba(acc)、ヤヒロトモヒロ(per)といった顔ぶれと楽器編成から想像できるように後者に属する親しみやすいものだ。

 当日演奏される予定となっている勅使河原宏監督の『他人の顔』(66年)は、もっとも武満徹らしい作品のひとつである。「他人の顔」のテーマ曲は、弦楽オーケストラによるドイツ風ワルツから、シャンソンと歌謡曲が混ざり合ったようなメロディがハナモゲラなドイツ語で歌われる曲へと、まさに仮面のように変化する。しかも後半は、ジャジーなアストル・ピアソラ風でもある。興味深いエピソードを示しておくと、武満が音楽の魅力に目覚めたのは、終戦の年の8月のことで、学徒動員で徴集されていた一人の見習士官が聴かせてくれたシャンソン《聴かせてよ愛の言葉を》がきっかけだった。ただし、その《聴かせてよ愛の言葉を》は、本家のリュシエンヌ・ボワイエではなく、アフリカ人とスペイン人の血を引く米国人ジャズ系歌手兼ダンサーであるジョセフィン・ベイカーのヴァージョン。《他人の顔》は、このアコーディオンが前面に打ち出されている《聴かせてよ愛の言葉を》を初めて聴いたときの音楽的記憶に基づいて作られた曲と言ってもいいだろう。当日、こうした脱ジャンル的で、無国籍的であるがゆえに日本的な「他人の顔」がどんな風に演奏されるのか分からないが、ともあれ、武満の映画音楽は、未だに清新なイメージとしても鳴り響くに違いない。

 


LIVE INFORMATION

没後20年 武満徹の映画音楽
○12/21(水)18:30開場/19:00開演 
会場:Bunkamura オーチャードホール
出演:渡辺香津美(g)coba(accordion)鈴木大介(g)ヤヒロトモヒロ(perc)
曲目:「フォリオス」より 第1曲
不良少年(羽仁進監督)
伊豆の踊子(恩地日出夫監督)
どですかでん(黒澤明監督)
日本の青春(小林正樹監督)
太平洋ひとりぼっち(市川崑監督)
Tribute to Toru
ホゼー・トレス(勅使河原宏監督)
狂った果実(中平康監督)
最後の審判(堀川弘通監督)
他人の顔(勅使河原宏監督)
写楽(篠田正浩監督)
www.kajimotomusic.com/jp/

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