この夏大ヒットを記録しているアニメ〈ONE PIECE〉の映画版「ONE PIECE FILM GOLD」。その話題作の劇中歌に小島麻由美の“GOLD & JIVE ~ SILVER OCEAN”が使われると聞いたときは、何というおもしろい組み合わせなのかと思わずのけ反ってしまった。また出来上がりが小島麻由美エッセンスのカタマリと言っていいビッグバンド・サウンドとなっていて、二度ビックリ。13管のホーン・セクションをはじめ、梅津和時芳垣安洋など演奏陣は豪華なミュージシャンで固められているが、そこには小島サウンドに欠かせないギタリストの塚本功と、『二十歳の恋』(96年作)など多くの作品のサウンドを支えたASA-CHANGも名を連ねている。

今回は小島麻由美に加えて塚本功、ASA-CHANGという強力なお三方にお集まりいただき、3人の出会いからニュー・シングル“GOLD & JIVE ~ SILVER OCEAN”についてまでを語り尽くしてもらうことに。予想通り、終始和気あいあいとした空気が広がる鼎談となった。この取材日は、夏休み真っ只中のある晴れた土曜日の午後。現場は小島やASA-CHANGの子供たちが元気に駆け回る賑やかな雰囲気だったこともお伝えしておこう。

小島麻由美 GOLD & JIVE ~ SILVER OCEAN AWDR/LR2(2016)

 

ここまで豪華な感じではなかなかやれない(小島)

――小島節が大炸裂した曲になっていて、思いっきり盛り上がりました。

小島麻由美「原作者の尾田(栄一郎)さんのリクエストがキッチリあったんです。うるさくて賑やかでドコドコやってほしい、キレイな音はあまり好きじゃないとか、感覚的な面での指定がいろいろと。私の曲でも好きなものをいくつか挙げてくれて、〈こういう感じのビッグバンドがやりたい〉というお話もあったので、それならいつものメンバーでやろうという発想になりました」

――迫力満点のビッグバンド・サウンドといい、ワイルドなジャングル・ビートといい、名曲“パレード”(2000年作『Songs For Gentlemen』収録)を思い出しました。『二十歳の恋』を聴いていた20年前の夏が一気に甦りましたよ。

小島「それも全部、〈あの曲のようなドラム・ソロで始まってほしい〉という尾田さんの指示で」

小島麻由美
 

――そうだったんですね。“GOLD & JIVE ~ SILVER OCEAN”は10分以上の大作になっていますが、制作の苦労はかなりのものだったのでは?

小島「でもテーマがあって、あとはインストで構築していけばいいから、尺が倍になるからといってそれほどまでは」

塚本功「演奏する側はいろいろ苦労がありましたよ(笑)」

小島「あ~そうだよね(笑)! 譜面の量がすごかったもんね」

塚本「普段はヴォーカルとピアノだけの骨組みを元に、リハーサル・スタジオで徐々に形にしていくんですけど、今回は僕らがある程度作り上げていったものをアレンジャーの先生に渡すというプロセスもあって。それで、アレンジが隅々まで決められた状態で戻ってきたときには、50枚ぐらいの譜面になっていた(笑)」

「ONE PIECE FILM GOLD』予告編。冒頭でかかるのが“GOLD & JIVE ~ SILVER OCEAN”
 

ASA-CHANG「バンドとオーケストラって相当違うもの。苦労はそこじゃないですかね。ビッグバンドってやっぱり台本がないと進まないからね。4、5人のバンドなら譜面なんて全然いらないし、口頭でああしたいこうしたいって伝えればなんとか成り立つんだけど、ビッグバンドだとそれでは統率が取れない。いちいちセリフを起こしてシナリオにしていく作業が何より大事で、演者はそのセリフを全部覚えなければいけないんです」

塚本「そうだね。だから従来の小島さんのやり方に近いけど、作業としては全然違うものだという想いが僕のなかではありました」

小島「そう言われてみれば大変だったかも。いや、大変そうだなって思いながら見てたよ(笑)」

ASA-CHANG「いろいろと大変すぎて、本人は蚊帳の外になっちゃうよね」

小島「でも音と映像が合わさって生まれる相乗効果にはすごいものがありますね。画面の向こうから悪人がやってくるカットに重なると、いきなり悪そうな音楽に聴こえたりして」

塚本「今回は音楽監督的な立ち位置だったよね」

塚本功
 

小島「ね~。貴重な経験でした。まず関わっている人数が違いすぎる。いつもはメンバーとエンジニアさんぐらいの数名でやるんだけど、もうスタジオに50人ぐらいが集まるわけですよ。あと音も、管は久々だったからお祭りみたいで嬉しかったぁ(しみじみ)。ここまで豪華な感じではなかなかやれないから」

――こんな血が沸騰するようなビッグバンド・サウンドを、〈ワンピース〉好きな子供たちがすんなり享受してしまっていることも実に痛快だと思いました。

小島「尾田さんがビッグバンド・ジャズを好きだったのかなぁ」

ASA-CHANG「いや、小島さんのことを好きだったんじゃないの(笑)?」

小島「そっかそっか、ビッグバンド・ジャズばっかり聴いているわけじゃないかもね。でもアシスタント時代によく(小島の楽曲を)聴いてくれていたみたいで」

ASA-CHANG「クリエイターの人に小島さんのファンって多いよ。前に仕事をしたことがある漫画家さんもファンで、昔、小島さんを取り上げた4コマ漫画を描いてたらしいし」

小島麻由美の2014年作『路上』収録曲“モビー・ディック”
 

――勝手なイメージですけど、漫画家さんに小島さんファンって多そうな気がします。小島さんの作品からいろんなインスピレーションをもらっているんじゃないかと。

小島「嬉しい! いやぁ、もうお母さん業でいっぱいいっぱいだから(笑)、最近は自分がミュージシャンだってことすら忘れそうになっているので。ただ、漫画は全然読まないんですよね」

ASA-CHANG「小島さんにとって漫画は情報量が多すぎるんじゃないの? 俺も2ページぐらい読むのにものすごく時間がかかっちゃうけど」

小島「本を読むのは好きなんですけどね。漫画って現実をデフォルメしているじゃない? そこにどうしても……」

ASA-CHANG「でも、小島さんの作風も大して変わらないよ(笑)」

“GOLD & JIVE~SILVER OCEAN”のジャケット
 

小島「今回のジャケは自信なくてさぁ……」

ASA-CHANG「小島さんっぽくてすごくいいよ。昔懐かしいドラム・セットの感じが」

塚本「ASA-CHANGのドラムだよね、これ」

小島「そうそう、昔の写真を元に真似して描いたの」

――また、塚本さんのギターが炸裂するもうひとつの劇中曲“作戦会議”も格好良いです。アラビックな旋律が妖しく舞うこのガレージ・インストは、イスラエルのサーフ・ロック・バンド、ブーム・パムとのコラボからの流れと捉えてもいいんですかね。

塚本「でも小島さんの曲に、アラビックな要素が登場することはこれまでもずっとありましたからね」

ASA-CHANG「小島さんにとってあれはアラブじゃないんだよね。絵本とかに出てくるインドの宮殿の上に付いている、あのふにゃっとした形のもの。あれのイメージなんだよね」

小島「そうそう! インド音階ね。私なりに大雑把に言うと」

小島がブーム・パムとコラボした2015年作『With Boom Pam』収録曲“白い猫 (Chat Blanc)”
 

ASA-CHANG「それについて音楽を知っている人たちが〈アラビアっぽい〉って言ったりするんだけど、小島さんのなかではあのふにゃっとした曲線のイメージなんだよね。どこどこの国の風景とかもはや関係なくて、築地本願寺でも全然構わない(笑)」

小島「ゾウの背中に絨毯が乗ってる感じね」

ASA-CHANG「アラジンの魔法のランプというかカレーを入れるポットの形状がイメージさせるエキゾティックなイメージ。日本人なら誰でも描けるでしょ? あれが小島さんのいうインドなんですよ。小島さんが〈わぁインドっぽい!〉と言ったらそれは褒め言葉だと思っていい」

ASA-CHANG
 

――この話、すごく腑に落ちるというか。以前、あるインタヴューで小島さんがアラビックな要素が入っているフェイヴァリット・アルバムを紹介していたのを読んだんですけど、並んでいたのがドアーズの『The Doors』とかニコの『Chelsea Girl』だったりして、実に小島さんらしいなと感じたことを思い出しました。

ASA-CHANG「そういうことですよ。細かいディテールにこだわることもひとつのやり方だけど、こういう小島さん的なザックリした捉え方もまた正しいこだわりの形だということを伝えたい」

塚本「すべてにおいてそういう小島さん的なこだわりはあって、例えば小島さんが〈ブレイクビーツ〉ってときどき使うんですけど、それはほかのミュージシャンとはまったく異なる、小島さんなりのブレイクビーツだったりするんですよ」

ASA-CHANG「それってきっと、カシオトーンに付いていたボタンを押すと出てきた音なんじゃないかと思うんですよ。〈サルサ〉〈マンボ〉とかボタンがあって、それを押すと一般的に知られているそれとはちょっと違うサルサやマンボが流れてくる感じ」