日本とイスラエルで異彩を放ってきた2組がコラボ! 衝撃のデビューから20年の節目に繰り広げる不思議で艶やかなエキゾ・ポップ!!

 これはちょっと不思議な出会いだ。今年でデビュー20周年を迎えたシンガー・ソングライター、小島麻由美の新作『With Boom Pam』は、イスラエルのサーフ・バンド、ブーム・パムとのコラボレート・アルバム。ブーム・パムは民族音楽とサーフ・ロックをミクスチャーしたユニークなサウンドで注目を集めてきたバンド。そして小島は、ジャズ、フレンチ・ポップ、昭和歌謡など、さまざまなエッセンスを消化した独自の世界を生み出してきたシンガー。共にエキゾティックな香りを放つ両者が、いかにして出会ったのか。

 「ブーム・パムの日本盤を出している担当者から何枚か彼らのアルバムをもらって、おもしろいなあと思っていたんです。それで新しいアルバムを作ることになった時、今回はいつもみたいに根を詰めてやるんじゃなく、もっと軽いフットワークでできる作品をやってみようという話になって。だったら、イスラエルのバンドと一緒にやるのがおもしろいんじゃないかと思ったんですよね。私に対して何の先入観もない外人さんとやったら、どんなものになるんだろうって」。

小島麻由美 With Boom Pam AWDR/LR2(2015)

 そして本作は、ブーム・パムの演奏をバックに小島が歌うセルフ・カヴァー集になった。そこでまず、小島側から15曲程度の候補曲をブーム・パムに送り、そこから彼らが10曲をチョイス。独自のアレンジで演奏したトラックを小島側に送った。それを聴いた小島の反応は……。

 「〈超外人!〉て思って(笑)。〈日本人のミュージシャンなら、こういうことやらないよなあ〉って衝撃を受けました。今回、オケには口出ししないって決めてたんですけど、そういうことって初めてで。その問答無用な感じもおもしろかったですね。これはこういうものなんだって納得して歌うしかないというか」。

 これまでは作品の細かなところまで気を配り、自分の色に染めてきた彼女にとって、ブーム・パムとの共同作業は良い意味でカルチャー・ショックが大きかったようだ。

 「“アラベスク”とか、いまの時代にこのコード進行で、こういう8ビートで真剣にやらないよなあって思いましたね。一生懸命のようにも聴こえるし、ユーモアにも聴こえるし。“セシルのブルース”も意外性があって好きでした。オリジナルに入っているイントロとかフレーズを全然使ってくれなくて(笑)。あと、“トルココーヒー”とかは、逆にオリジナルのほうがアラブ感が濃かったりして……不思議ですね」。

 その“トルココーヒー”では、原曲とはちょっと違ったビートでアレンジされていて、バンド側から「この曲はイタリアの古い民謡に通じるものがあるから、このリズムに挑戦してほしい」とメッセージがあったとか。イスラエルはもとより、イタリアやギリシャなど、地中海音楽のエッセンスが彼らの演奏にさりげなく織り込まれているのだ。

 「すごく緻密に作られているけど、意外とライトで聴きやすいんですよ。ギターより、オルガンの音色が耳に残ったり。スカスカしてて、その隙間が気持ち良いというか。すごく風通しが良くて、それが良い味になってますよね」。

 そんな不思議な演奏に乗る小島の歌声は、ひときわ艶やかに聴こえて〈歌姫〉なんて言葉がぴったりだ。

 「なぜか歌が上手く聴こえるんですよね(笑)。いつも自分の歌を聴く時はヘッドフォンで爆音で聴いて熱くなっちゃうんですけど、このアルバムはもっと軽い気持ちで聴ける。全然聴き方が変わりますね」。

 小島いわく「聴けば聴くほどじわじわおもしろい」本作は、彼女に新鮮な刺激を与えたようだ。この新しい試みを当人はこんなふうに振り返る。

 「前々作の『渚にて』で人の曲を歌ってみたんですけど、オリジナルと同じくらい好きになったんです。それで自分の曲とかやり方にこだわるのはナンセンスだって思えてきて。機会があったらいろんなことに挑戦してみようという気持ちになってきた。いろんな人とやったらいつもと違う回路が開くし、一緒にやってるメンバーへの愛情も湧きますからね」。

 デビュー20年目にして、まだまだ進化しそうな小島ワールド。まずは8月に予定されているブーム・パムとの共演ライヴを楽しみに待ちたい。