Photo by Moto Uehara

 

10月25日(土)、26日(日)の二日間にわたって恵比寿ザ・ガーデンホール/ザ・ガーデンルームにて開催されるフェスティヴァル「Peter Barakan’s LIVE MAGIC!」。このフェスは〈大人のための音楽フェス〉をコンセプトに、長年にわたって国内外の良質な音楽を各メディアにて紹介しつづけている〈耳利き〉のピーター・バラカンがオーガナイザーとしてブッキング、他では見られない国内外の実力派ミュージシャンのラインナップが実現した。また、〈FOOD MAGIC!〉と称して、選りすぐりのフードが充実しているところもこのフェスの特長。食べ物は天然酵母パン、ニューオーリンズの ソウルフードであるガンボやベニエという揚げ菓子、ジャマイカのジャーク・チキン、飲み物はオーガニック・ワインやクラフト・ビール、世界中から集めた最 高級のコーヒー豆で作るオリジナル・ブレンドのコーヒー(一杯ずつハンドドリップ)を楽しめるといった、まさに大人が楽しめる、こだわり抜いたフェスと いったところだ。ここでは、トーキング・ヘッズ「Stop Making Sense」の爆音上映や、初日に引き続き〈The Popper's MTV〉なども行われた2日目の模様をお届けする。

 

■BOUKOU GROOVE

 

 

 

 Photo by Moto Uehara

 

2日目のトップバッターで登場したのは、前日はジョン・クリアリーと共に登場したアブソリュート・モンスター・ジェントルメンダーウィン“ビッグ・D”パーキンス(ギター)、ジェフリー“ジェリービーン”アレクサンダーに加え、ドニー・サンダル(キーボード/ヴォーカル)の3名。冒頭の“Waiting For You”を皮切りに、ドラムとドニーのシンセ・ベースが生み出すファンク・グルーヴ(オーディエンスから自然と拍手が起こったほど!)、大きな身体で繰り出されるギターの小気味良いカッティングや流れるようなソロが演出するアーバンなヴァイブに酔わされっぱなしのセットで、サム・クックを彷彿とさせる、時にファルセット気味になるソウルフルなハイトーン・ヴォーカルも美しく響いていた。ロマンティックなギターのアルペジオに痺れた、この3人で初めて作った曲だという“Can’t Take My Eyes Off Of You”も絶品! 曲ごとに弾けるような喝采が巻き起こる、このうえなく素晴らしいオープナーのショウであった。

 

■The Popper's MTV

 

 

Photo by Hiroki Nishioka

 

前日に引き続き、ピーター・バラカンが司会を務めたTV番組〈The Popper's MTV〉が〈LIVE MAGIC!〉に登場。この日は74年のライ・クーダーによるスタジオ・ライヴの映像や、アントン・コービンが監督したデヴィッド・シルヴィアン“Red Guitar”のMV、ドナルド・フェイゲン“New Frontier”のミュージック・ビデオなどが上映された。今回の〈LIVE MAGIC!〉の開催に際し、ライ・クーダーには久保田麻琴を介して真っ先に出演を打診したもののあっさり断られてしまったという残念エピソードをはじめ、〈いまと何も変わってない!〉とバラカン本人が語る87年の〈The Popper's MTV〉最終回のエンディング映像も公開され、オーディエンスの笑いを誘っていた。また改めて同番組のイヴェントを開催したいという話も! 実現を期待して待ちたい!!

 

■JON CLEARY

 

 

Photo by Moto Uehara

 

前日はアブソリュート・モンスター・ジェントルメンとのバンド・セットだったが、この日はソロ・ピアノで登場。ステージの中央にデンと置かれたグランド・ピアノの前に座り、手始めにロイド・プライス“Just Because”で軽快にロールする。オーディエンスの手拍子に合わせた滑らかな運指でフロアを沸かせ、〈楽しいかい?〉と呼びかけるように背中越しににこやかな視線送るジョン・クリアリーがとても素敵! “Cheatin On You”などの自作曲とヒューイ“ピアノ”スミスらのカヴァーを織り交ぜた、トラディショナルなニューオーリンズ・サウンドからスタイリッシュなブルーアイド・ソウルまで、力強いピアノマンぶりを見せつけた。なかでも〈キューバ音楽とニューオーリンズ・サウンドは似ているよね〉という話の後に、その両者のテイストをフュージョンしたペレス・プラード“Havana”のゴキゲンなパフォーマンスには何ともウキウキさせられた次第。

 

■中村まり

 

Photo by Hiroki Nishioka

 

続いては、着席スペースもある〈Room〉ステージに移って中村まりの出番。彼女のライヴではお馴染みの安宅浩司(ギター/マンドリンなど)、そして手島宏夢(フィドル)がサポートし、カントリー・ブルースフォークブルーグラスといった温かみのあるアメリカン・ルーツ・ミュージックの味わいをじっくり堪能させてくれた。マンドリンやフィドルが弾けるオールドタイム・ナンバー“Cindy”、心に沁み入るスティーヴン・フォスター“Hard Times(Comes Again No More)”などカヴァーも披露しつつ、“A Brand New Day”あたりのオリジナル曲は完全にアメリカン然とせずに独特の情緒を覗かせているところがおもしろいなと思ったりも。スキルフルなギター演奏もさることながら、耳を惹きつける鼻にかかったような中村のヴォーカルは本当に魅力的だった。

 

■TARO & JORDAN

 

 Photo by Moto Uehara

 

フラット・マンドリン奏者の井上太郎と、自身でギター製作も行うカナダ人ギタリストのジョーダン・マコンネルから成るこちらのデュオは、こだわりのフードが並ぶ憩いの場にステージを設けた〈Lounge〉でのライヴ。小さなボディーのフラット・マンドリンを緻密な指使いで流麗に爪弾く井上、そんな彼の手元を見つめながら情熱的にギターを混じ合わせるジョーダンーーこの男臭くて渋い掛け合いに目も耳も離せない、メロディアスで滋味深いルーツ・サウンドを聴かせてくれた。井上いわく、来日時にはタトゥーを彫ったりラーメンばかり食べているというジョーダンは、ラーメン好きが乗じて脚に躍動感溢れるラーメンをモチーフにしたタトゥーまで入っているそうで(大丈夫か)、なんと“天下一品”なるナンバーまで作ってしまったらしい! これがまた2人の演奏がみるみる熱を帯びていく、天一ならではの濃厚なヴァイブを音に落とし込んだ(?)一曲。それとは対照的に、まるで子守唄のようなヴォーカル・ナンバーもあったりと非常に表情豊かなステージであった。

 

■高橋幸宏 with Dr. ky0n, 高田漣

 

 Photo by Moto Uehara

 

主役の登場を前に、バラカンが〈どうなるのかという興味がある〉と紹介した高橋幸宏のステージ。ドラムを叩かないコンサートを今年から始めており、鍵盤のDr. ky0nとギターの高田漣との3人編成では3度目(&今年最後)のライヴとのことで、今回は貴重な機会となった。高橋が歌い出すとフロアから歓声があがった冒頭のニール・ヤング“Helpless”のカヴァーでは、3人のコーラス・ワークや高田のペダル・スティールにさっそくうっとり……。この曲を聴いた限りでは、今回の〈LIVE MAGIC!〉のカラーに合わせたセットになるのかなと思いきや、以降はシーナ&ロケッツのカヴァーでYMO作品にも収録された高橋作“Radio Junk”などプログラミングを交えたナンバー、〈いまの僕くらいの歳のときに歌えたら〉と思いながら86年に作ったという“今の僕から…”など懐かしいナンバーが並ぶマイペースな内容に。“I'LL BE HOME”といったフォーキー・チューンも混ざる、チルなムードに満ちたアダルトなパフォーマンスにオーディエンスもしっとりと聴き入っていた。

 

■濱口祐自

 

 

 Photo by Hiroki Nishioka

 

この日2ステージを行った、いま話題の那智勝浦在住ブルースマン。今回は〈他に類を見ないほど〉調子が良かったとのことで、1回目の〈Room〉におけるライヴでは、彼の魅力のひとつである曲間のお喋りも同時に調子づいたため、若干タイム・スケジュールが押すという軽いハプニングも。そのためか、観客で溢れ返った〈Lounge〉での2回目は〈時間はまだ大丈夫かのぉ~〉としきりに気にするチャーミングな姿に心を掴まれてしまった。だが、心を掴まれたのはもちろんこれだけにあらず、彼のユニークな喋りとは裏腹の見事なギター・プレイには誰もが酔いしれることに(特にスライド・ギターのドライヴ感たっぷりな演奏が素晴らしい)。“Misissippi Blues”のようなスタンダードが間違いないのはもちろん、ジョビン〈黒いオルフェ〉やエリック・サティ〈Gnossiennes No.1〉を自分色に染める一方で、日々繰り返す、なんてことない日常の風景こそ幸せと歌う自作曲“幸せ”でセンティメンタルな表情も覗かせていた。BLACK WAXTetsuya 88 Oginoがブルース・ハープで参加したラストも最高!

 

■JERRY DOUGLAS BAND

 

 

 

Photo by Moto Uehara

 

そして2日間に渡る〈LIVE MAGIC!〉のトリを飾ったのは、前日もステージを沸かせたジェリー・ダグラス・バンド! オープニングではジェリーからバラカンへプレゼントの贈呈(本記事冒頭の写真参照)という、彼の人柄が窺えるハートウォーミングなセレモニーを行ってからライヴがスタート。前日のセットリストとは1曲も被ってない!という、2日連続で来場した人も嬉しい展開で、ジェリーが高らかなドブロ・プレイで魅せるフォークにブルーグラス、ヒルビリー、またさらにさまざまなプロダクションを施した楽曲群で大いに楽しませれくれた。この日はなかでもジャジー・ブルーグラスとでも呼びたい、ジェットコースターのように駆け抜ける“Cave Bop”に大興奮! スリリングなインター・プレイ(特にドラムが凄かった!)は手に汗握るほどだったが、どこかほのぼのとした雰囲気を湛えているところは〈味〉と言ったところか。ハード・ロック~ブルース・ロック調のナンバーも飛び出したりと、懐の深さをより感じられるステージで、アンコールを含めた1時間強はあっという間。まさに大団円と言える素晴らしいラストで幕を閉じた。