キャリアを経たいまだからこそ価値の出るカヴァー盤

 ひとくちに〈カヴァー・アルバム〉と言っても、その楽しみ方や、制作者の目論見はさまざま。とはいえ、過去に多くのリスナーに親しまれたカヴァー・アルバムは、やはり演者の歌唱力、表現力に寄るところが大きい。星野みちるは、本文中で挙げた作家陣による遊び心に富んだ楽曲も武器としながら、そのチャーミングな個性を輝かせているは、やはり本人のズバ抜けた表現力や説得力。AKB48在籍時から高い歌唱力を誇り、グループ卒業後しばらくは自作自演で活動していた彼女だが、新たなスタッフと出会い、それまで縁のなかった音楽、歌と出会ったことで視野を広げ、シンガー・ソングライターというより、シンガーとして成長。切磋琢磨を繰り返していった成果が、満を持して届けられた今回のカヴァー盤にも刻まれている。彼女自身、徳永英明のカヴァーで竹内まりやの“駅”を知ったクチだそうだが、星野みちるに縁がなかったリスナーに対しても引力を放ちそうな『My Favourite Songs』で、今度は同じ体験を彼女自身が与える番だ。

2014年作『E・I・E・N VOYAGE』収録曲“星間連絡船~Night Voyage~”