不可視の造形――ジャズ
今、ジャズ・ピアニストの新譜が面白い。キューバからはアロルド・ロペス・ヌッサ、アルフレッド・ロドリゲス、アクセル・トスカ、東欧からはティグラン・ハマシアンなどなど、彼らのアルバムからは、確かにポスト・ジャズ世代の新鮮なアプローチが聴こえてくる。日本でも菊地成孔がプロデュースした大西順子の復帰作は、菊地が追求するグルーヴ・ミュージックとしてのジャズ・マナーが全ての次元に展開した画期的アルバムだった。そしてヴェテラン・ピアニスト、大口純一郎トリオのこの新譜では、ピアノ・トリオのオーセンテックなマナーが隅々まで徹底されつつも、彼がこれまで温めてきたであろう数々のユニークなアイディアに驚かされた。
このアルバム『Invisible』の魅力は、ジャズ・ピアノの歴史を見直すかのような視点によって選曲された楽曲や、大口の新曲を演奏する三人が醸し出す濃密な空気感と、そんな空気が充満する空間の創り出すグルーヴという見えない造形だろう。そして三人はこの見えない造形をそれぞれの想像の中に楽しむ、彼らの演奏はそんな自由に溢れているように聴こえる。大袈裟かもしれないが、それがジャズなんじゃないかと改めて思った。このグルーヴの発生原理がスウィングだというのは、ジャズにおいては確かにそうなのだが、しかし大口はこのスウィングにクラーヴェを加え、スウィングからクラーヴェ、クラーヴェからスウィングへの移動を楽しんでいるようだ。セロニアス・モンク、デューク・エリントン、アンドリュー・ヒルの作品を選ぶのにはそんな理由があるのではないだろうか。さらに冒頭の3/4+9/4という風に構成されている(と思う)、オリジナルの不思議な構成はそんなグルーヴの変化を体感したいと感じているから出来上がったのではないか。大口はこのトリオ以外にパーカッショニストとのトリオを主催している。彼の体の中に響く複数のグルーヴの種は何の前触れもなく彼を襲い、彼のトリオに憑依しジャズを襲う。