(左から)神谷洵平、清水美和子、ガリバー鈴木
Photo by 黒田隆憲
 

シンガー・ソングライター、清水美和子のソロ・プロジェクト=Predawnが、前作『A Golden Wheel』から約3年ぶりにセカンド・フル・アルバム『Absence』をリリースした。アコースティック・ギターによる弾き語りを中心とした宅録感覚溢れるこれまでの音作りから一転、本作はライヴでもお馴染みのサポート・メンバーを迎え、アルバム全編に渡ってバンド・サウンドを展開。Predawnの新機軸とも言える内容となっている。もちろん、スパークルホークスことマーク・リンカスをフェイヴァリット・ミュージシャンに挙げ、ビートルズや70年代のシンガー・ソングライター、USオルタナティヴなどに影響を受けた美しいメロディーや哲学的な歌詞の世界、まるで小鳥のさえずりのようなピュアで可憐な歌声は健在で、ある意味では〈かたくな〉とも言える彼女の美学が貫かれている。

そして今回Mikikiでは、Predawnのレコーディングに参加した神谷洵平(ドラムス)と、彼の朋友であるガリバー鈴木(ベース)にも同席してもらい、『Absence』の魅力について大いに語ってもらった。

Predawn Absence Pokhara/HIP LAND(2016)

Predawnの音楽はめちゃめちゃ自由度が高い

――清水さんが、神谷さんとガリバーさんに初めて会ったのはいつですか?

清水美和子(Predawn)「マネージャーに誘われて、大橋トリオ月球のツーマンを観に渋谷の7th Floorへ行った時にお会いしたのが最初です。そのときはバンド・メンバーを探していたわけではまったくなく、遊びに来なよと言われて観に行っただけなんですけど」

神谷恂平「美和子ちゃんのマネージャーさんは、僕が大学時代に所属していたサークルの先輩だったんです。その縁で美和子ちゃんの話はずっと聞いていたし、Predawnの音源ももらっていたので、〈(Predawnの音楽が)めっちゃイイから一緒にやらせてください〉と頼んでいたんです」

――ガリバーさんとは一緒にリズム隊を組むことが多いみたいですよね。

神谷「そうですね、バンドも2個くらい一緒にやっていたし、美和子ちゃんがライヴを観にきてくれた月球も一緒にやっていました。初めて彼と知り合ったのは、THE SUGAR FIELDS原朋信のソロ・プロジェクト)のサポートを一緒にやったときで、それをきっかけに彼を月球に誘って、それ以来付き合いが続いています」

――神谷さんがメンバーの赤い靴(清水も歌詞提供している)をはじめ、最新作『Third』のプロデュースを務めたRyo Hamamoto、月球や大橋トリオなど、神谷さんが関わっているサウンドには、どこか共通するものがありますよね。そういう意味では常にサウンドの要になっているのではないかと。

清水「うん、それはありますね。音源を聴いて〈神谷くんぽいな〉と思ったら、神谷くんが関わってることは多いです」

赤い靴の2016年作『Akaikutsu』収録曲“Crazy Drive”
 

――3人でやるようになったのは?

清水「〈COUNTDOWN JAPAN 10/11〉への出演オファーをいただいたのがきっかけです。ああいう場所に弾き語りで出ても、音被りが激しすぎてちゃんと聴いてもらえないんじゃないかと思って(笑)。初めはそんな感じだったと思います」

神谷「〈COUNTDOWN JAPAN〉でのライヴは、いまだによく覚えていますね。3人でやるのがほぼ初めての状態で、あんなにたくさんの人の前で演奏して。 ああいうロック・フェスって、結構ガーッと音を出す人が多いじゃないですか。僕はいつも小さい音でドラムを叩くし、そこを大切にしたい人なんですけど、あの会場でそれをやる〈パンク精神〉が(笑)、とても楽しかったですね」

――まさにネオアコのパンク精神ですよね。

清水「うんうん、確かに。しかも、意外とみんな静かに聴いてくれました(笑)」

――Predawnの音楽性や、清水さん本人の人柄についてはどんな印象でした?

神谷「一緒にやるようになった頃は、近付きたいけどまだお互いのことを何も知らないし、あまのじゃく同士だから距離がありました(笑)。でも、今回のアルバムを作るまでに、徐々にお互いを知っていけたからこそ、こうやってレコーディングにも参加させてもらえたと思うんです。いやもう本当に、本人を目の前にして言うのは恥ずかしいんですけど、尊敬していますね」

清水「とんでもないです……(照笑)」

神谷「自分の持つ表現力と、作った作品をちゃんと守っているというか。貫き通している人というのは本当に少ないので、カッコイイし尊敬しています」

清水「頑固なだけです……(笑)」

ガリバー鈴木「やんわりしているように見えて、意外としっかりしてるんですよね、音楽的な意味では(笑)。そこは最初に会ったときからずっと変わっていない。コードの積み方やボイシングの仕方がずっと一緒。進歩がないというのではなくて、それがいちばん美味しいということをわかっている。そこが一貫しているので、逆にベースとか他の楽器は自由に動けちゃうんです。Predawnの音楽はめちゃめちゃ自由度が高いんですよね」

神谷「ちなみにガリバーは、Predawnのサポートをするようになったのがきっかけでウッド・ベースを始めたんです」

――えっ、そうなんですか? 

鈴木「そうなんですよ。それで初ライヴが幕張メッセっていう(笑)」

Predawnの2015年のライヴ映像
 

――以前のインタヴューで清水さんは、〈バンドだと、こうしてほしいというのを上手く伝えられないから一人でやっている〉とおっしゃっていましたけど、このメンバーとはコミュニケーションも上手く取れているわけですね。

清水「そうですね、いろいろとズケズケ言ってます(笑)。〈あ、ここは拍子変わるんで〉〈ここ1個(拍が)足りないんで〉〈ここはコードが変なんですよ〉とか」

神谷「いま、どの曲のことを言ってるのかすぐわかりましたよ(笑)」

鈴木「ヘンなところがいっぱいあるんだよね、美和子ちゃんの曲って」

――神谷さんとガリバーさんは、どんな音楽が好きなんですか?

神谷「僕は、いわゆるロックというものを青春時代にあまり聴いてないんです。ランディ・ニューマントム・ウェイツジョン・テイラーのような、アコースティックな歌モノからまず入って、その流れでジョン・ブライオンにのめり込んでいきました。いわゆる一般的なロック・ドラマーとは違いますね。プレイ面では、上京してからは Ryo Hamamotoや無頼庵フリーボといった先輩ミュージシャンに鍛えられて〈ロック魂〉を入れてもらった感じです(笑)」

フィオナ・アップルエリオット・スミスなどのほか、映画「マグノリア」「パンチドランク・ラブの音楽を手掛けてきたプロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリスト

ジョン・ブライオンの2000年作『Meaningless』収録曲“Ruin My Day”
 

鈴木「僕はブルースというかルーツ(・ミュージック)というか、チェス・レコードのサウンドがすごく好きで。主にそこから古めの音源をよく聴いています」

マディ・ウォーターズハウリン・ウルフチャック・ベリーなどのブルース/リズム&ブルース作品を多く輩出したシカゴのレーベル。チェスをモデルにした映画「キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の話」では、ビヨンセエタ・ジェイムズ役)やモス・デフ(チャック・ベリー役)が出演したことも話題に

神谷「かと思えば、僕らはガチガチのNYフュージョンとかも聴いていました。プレーヤー気質であると同時にヘヴィー・リスナーでもありますね」

清水「2人とも、ものすごくたくさん聴くよね(笑)」

――ライヴでは、神谷さんとガリバーさんに加えてRayons(現代音楽家の中井雅子によるソロ・プロジェクト)とも一緒にやることが多かったと思うんですが、それがPredawnに与えた影響はありますか? 例えば“Sigh”という曲のバロック・ポップっぽいところとか。

清水「あの曲はステージ・ピアノ(軽量かつコンパクトな電子ピアノ)を買ったときに、バーっと弾いていたら出来た曲なんです。でも言われてみれば確かに、オーケストラっぽいアンサンブルにしてみようと思ったのは6人で演奏したことも大きいかもしれないですね」

※2014年11月6日に行われ、後にDVD化された東京・キリスト品川教会でのワンマン・ライヴ〈Nectarian Night #01〉のこと

Rayonsの2015年作『The World Left Behind』収録曲“Waxing Moon”
 

――この曲のフルートは武嶋聡さんですが、それ以外の楽器はすべて清水さんが演奏したんですか?

清水「トロンボーンは自分で吹いています」

――コードやアレンジは、神谷さんもフェイヴァリットに挙げているジョン・ブライオンを彷彿とさせますよね。

清水「ああ、ジョン・ブライオンもトロンボーンをよく使いますよね。中学生のときに吹いていたからかもしれないけど、トロンボーンが入っているとその曲が好きになっちゃう(笑)。トランペットやサックスのように、ボタンで音階が決まっていないぶん、すごく流動的というか。ちょっと(ピッチが)外れているのも可愛らしくて」