京都を拠点に活動するKitri(キトリ)は、モナとヒナの姉妹ユニット。子どもの頃からピアノを習っていた二人がKitriを結成するきっかけになったのは、10代の頃、音楽の先生に勧められてピアノの連弾をしたことだった。Kitriは息が合った連弾を披露し、一心同体となった歌を聴かせてくれる。そんな彼女たちのメジャー・デビューEP『Primo』が、坂本龍一『千のナイフ』(78年)やKYLYN BANDなどで知られる伝説的なレーベル・BETTER DAYSからリリースされた。昨年より再始動し、現在は高橋幸宏や大貫妙子、Sweet Robot Against The Machineら大物たちの並ぶ同レーベルにおいて、彼女たちは唯一のニューカマー。プロデュースを手掛けたのは、Kitriがリスペクトしてやまない大橋トリオだ。
「大橋さんは音の引き出しをたくさん持っていらっしゃって、大事な部分で適切なアドバイスをしてくださりました。音に関していつも明確なイメージを持ち、曖昧な部分が一切ない方でした。そんな姿を拝見して、自分が出した音について、これまで以上に、しっかりと考えるようになりました」。
収録曲のなかで、とりわけ大橋トリオとのコラボレーションが光るのはオープニング曲の“羅針鳥”だ。アレンジを神谷洵平(赤い靴)が手掛けたこの曲には、ゴンドウトモヒコ(METAFIVE他)がホーンで参加。打ち込みのビートも導入するなど、カラフルなサウンドに仕上がっている。
「もともとは連弾のみのアレンジでしたが、そこに神谷さんがアレンジを加えてくださり、神谷さん、ゴンドウさん、大橋トリオさんが演奏を乗せてくださったことによって、Kitriの連弾だけでは表現できない新鮮な音色で世界が広がりました」。
そのほか、ベートーベンのピアノ・ソナタ〈月光〉を弾いていて着想を得たという“細胞のダンス”は、彼女たちいわく「ピアノがビート代わりになるような、Kitriならではのピアノ・ダンス・ミュージック」。また、「これまでダークな曲が多かったので、明るく前に進んで行けるような曲を作りたい」という想いが込められた“一新”には、「聴くといつも心が洗われる気持ちになる」という〈G線上のアリア〉のメロディーを引用。そんなふうに、二人のルーツであるクラシックの要素を採り入れながら、美しいメロディーと詩的な歌詞で独自のスタイルを生み出している。そこで連弾と負けないくらい重要な役割を果たしているのが、モナの歌声を中心にした多彩なハーモニーだ。
「Kitriにとってヴォーカルとコーラスは同じくらい大切なので、ヴォーカルに寄り添いつつ、でもコーラスだけで聴いても存在感があるようなメロディーラインをめざしています。姉妹で声が似ているということもあり、どんなコーラス・アレンジにしてもKitriらしいハーモニーができる気がするので、コーラスはいつも少し冒険しています」。
ピアノもハーモニーも息がピッタリの二人。性格も似ているのかと思いきや、そうでもないらしい。
「自分たちではあまり似ていないと思っています。ヒナから見るモナは、繊細かつ慎重で、とても一途な性格。モナから見るヒナは、楽観的で常に冷静ですが、内に情熱を秘めている。違う性格だからこそ、バランスが取れている部分もあるんです。でも、育ってきた環境は近いので、相槌や仕草、言葉などは被ることが多くて、よく〈息が合うね〉と言われます」。
似ていないけど、似ている二人。メジャー・デビューという大きなスタートラインに立ったいま、主に曲作りを担当しているモナは「聴いてくれる人が毎回何かを発見するような、いろんなタイプな曲を書いていきたい」と語り、ヒナは「いろんな楽器を学んでKitriの世界観を広げていけたら」と夢を膨らませる。二人の歌を聴いた大橋トリオは〈Kitriの世界の住人になりたい〉と絶賛したというが、『Primo』が招待状となって、秘密めいたKitriの世界へと誘ってくれるはずだ。
Kitri
姉のモナ(ピアノ/ヴォーカル/作詞/作曲)と妹のヒナ(ピアノ/ギター/パーカッション/コーラス)から成る、京都を拠点に活動する姉妹ユニット。それぞれが幼い頃よりクラシック・ピアノを学び、大学では作曲を専攻。2015年よりキトリイフとして活動を始め、自主制作の音源を発表する。2017年、大橋トリオが劇伴を手掛けた映画「PとJK」のテーマ曲に参加。同年11月にユニット名を改め、大橋プロデュースによる『opus 0』を配信リリースする。昨年は〈Slow LIVE '18 in 池上本門寺 15th anniversary〉のオープニング・アクトを務めるなどして注目を集めるなか、このたび初CD作品となるメジャー・デビューEP『Primo』(BETTER DAYS/コロムビア)をリリースしたばかり。