〈ロバート・グラスパー以降〉と区切るべきなのか、ハイエイタス・カイヨーテやジ・インターネットに象徴されるフューチャー・ソウルの潮流に位置付けるべきなのか。それとも、もっと広く便利なカテゴリーを考えるべきなのか。ジャズ、ソウル、ヒップホップ、クラブ・ミュージックなどを自由自在に横断し、めまぐるしくアップデートされている海外シーンの活況と共鳴するように、日本でも新しい感性と共通言語を持つバンドが続々と台頭し、9月に注目リリースが集中した。いずれも聴き応えのある良作揃いなので、ここで改めて整理しておきたい。
上述したような海外勢からの影響をもっとも直接的に反映させているのは、〈エクスペリメンタル・ソウル・バンド〉を標榜している4人組のWONK。〈タワレコメン〉にも選出されたファースト・アルバム『Sphere』には、ジャズの未来を背負うドラマーの石若駿やサックス奏者の安藤康平に、ラッパーのJuaやDIAN(KANDYTOWN)が参加。ジャズとネオ・ソウル、ヒップホップとビート・ミュージックを折衷させたコズミックな浮遊感を持つ演奏には、日本と海外との時間差を一気に縮めてしまいそうな、フレッシュで前のめりな勢いを感じさせる。ここからどこへでも転がっていけそうなポテンシャルも含めて、理想的なファースト・アルバムだと思う。
強引な喩えかもしれないが、WONKがUSなら、UK的なセンスを色濃く滲ませているのがyahyelだ。ベース・ミュージックを人力に置き換えたクールなアンサンブルが持ち味で、今年の〈フジロック〉では〈Rookie A Go-Go〉に出演。池貝峻のブルージーで怪奇的なヴォーカルに、マーク・ジュリアナにも通じる機械的なリズムを刻む大井一彌のドラムス、それと連動するスモーキーな質感を持ったトラックなど、見どころの多い演奏は深夜のステージにもかかわらず、大歓声で迎え入れられていた。9月28日にタワーレコード限定でリリースされる2曲入りEP『Once / The Flare』では、マスタリングをエイフェックス・ツインやアルカ、ジェイムズ・ブレイク、FKAツイッグスなどを手掛けてきたマット・コルトンが担当。そのいずれと並べてもしっくりくる、先鋭的なサウンドに驚かされるだろう。
〈21世紀型ダブ・バンド〉を謳ってきたTAMTAMが新境地を切り拓いたニュー・アルバム『NEWPOESY』も素晴らしい。ニュー・リリースを貪欲に吸収している様子は高橋アフィ(ドラムス)のTwitterからも窺えるが、ソウル/R&Bやジャズ、ファンク、エレクトロなど最先端のエッセンスと、持ち前のダブ/ルーツ・レゲエ的要素を織り交ぜることで、世界的にも類を見ないバレアリック・サウンドを獲得。吉田ヨウヘイgroupへの参加を経て、変幻自在のヴォーカルを披露するクロの存在感も一層際立っており、新しいJ-Popの誕生すら予感させる会心作となった。
〈フューチャリスト・ポリリズミック・トロピカル・バッドアス・フジヤマ・サウンド〉という、長くてカッコイイ看板を掲げるZA FEEDOの初作『2772』は、インディー・ロック/エレクトロ・ポップを軸としつつ、こちらもジャズやR&Bなど現行モードをブレンド。Yasei Collectiveの松下マサナオ(ドラムス)&中西道彦(ベース/シンセ)、田中“TAK”拓也(ギター/シンセ)という3人の実力派プレイヤーによる、攻撃性と緻密さを両立させたバンド・サウンドはまさしくポリリズミックでバッドアス。さらに、フェミニンで大人びた表情と、キュートな茶目っ気を使い分ける沖メイの歌声がイマジネーションを掻きたてる。
さらに、同じ方向を向いているという意味で、ここまで挙げた9月リリースの4組と共に、石若駿や井上銘などジャズの凄腕プレイヤーを擁してJ-Popのネクスト・レヴェルに挑むCRCK/LCKSや、同バンドにも参加する角田隆太(ベース)と吉田沙良(ヴォーカル)によるポップ・ユニット=ものんくるを並べてみると、新しいシーンの見取り図みたいなものがぼんやりと浮かんできそうだ。
足を運べなかったのが残念だが、今年8月にはMikikiにも寄稿している音楽ライターの花木洸の仕切りで、石若と高橋アフィ、岡田拓郎(元・森は生きている)の3人による実演型トーク・イヴェント〈QUESTION!〉が開催されたりと、ジャンルを超えた交流も育まれているようだ。その岡田がミキシング・エンジニアを務めた、ニカホヨシオの11月2日にリリースされるデビューEP『SUR LA TERRE SANS LA LUNE』には、D.A.N.にも通じるような名状し難いフィーリングを持つポップスが収録されており、こちらも然るべきタイミングで注目を集めることになるはずだ。さらに、その岡田は吉田ヨウヘイ、西田修大、岡崎英太、岸田佳也の5人から成る新バンドのEllipseを結成したばかりで……と挙げ出したらキリがないが、このようにスリリングな動きを見せる新世代の動向に今後も注目していきたい。