政治的なアルバム? いやいや、彼らはただ目の前の現実を歌っているだけ。自身のサヴァイヴァルを普遍的なパンク・ロックに乗せ、四半世紀以上を共にしてきた3人――その経験をすべて封じ込めた最高の一枚がここに!
長年の経験のすべてを使って
約2年前、ビリー・ジョー・アームストロング(ヴォーカル/ギター)はグリーン・デイのニュー・アルバム『Revolution Radio』からのファースト・シングル“Bang Bang”とオープニング曲“Somewhere Now”のデモを書いた。マイク・ダーント(ベース)とトレ・クール(ドラムス)がその2曲に大興奮し、本格的にアルバムの制作を開始。今回グリーン・デイは、共同プロデューサーを雇わずに自分たちでプロデュースを手掛けている。この8月、彼らの地元近くのサンフランシスコのホテルで取材に応じてくれたビリーは、「最高のグリーン・デイ・アルバムが出来たと思う」と、笑顔を見せた。
「グリーン・デイとしての長年の経験のすべてを使って、それらをアルバムに詰め込みたいと思っていたんだ。はじめのほうで“Revolution Radio”のような曲を作曲したことで、制作中は『Dookie』(94年)や『Insomniac』(95年)、『Nimrod』(97年)、そして90年代にやった音楽に立ち返ることができた。でも同時に、『21st Century Breakdown』(2009年)、『American Idiot』(2004年)の音楽もアルバムには入っていると思う。だから、そういう作品を作ることを考えながら、なるべくシンプルなサウンドにして、でも、シンプルにしすぎないようにもしたんだ」(ビリー:以下同)。

本作の冒頭の3曲、“Somewhere Now”“Bang Bang”“Revolution Radio”は彼らのルーツであるパンクを核にした強力なロックンロールだが、バラードである“Outlaws”や軽快な“Bouncing Off The Wall”、キャッチーなパワー・ポップ“Too Dumb To Die”、そして10月に全米で公開されるビリー主演の映画用に作曲された穏やかな“Ordinary World”など、一緒に歌える最高のメロディーを伴ったグリーン・デイの多様な音楽性が、この一枚に凝縮されている。
すでに全米メインストリーム・ロック・チャートで1位になった“Bang Bang”は、歌詞にもパンクの反逆精神が反映されているのがあきらかなナンバーだ。
「サンタバーバラで起こった銃乱射事件についての曲なんだけど、俺はこの事件の殺人犯の視点で歌おうとしたんだ。その立場で歌うっていうのは、かなり怖いことだったよ」。
また、タイトル曲の“Revolution Radio”は、無実の黒人青年が白人警官に射殺された後、全米規模で起こった人種差別撤廃を求めるデモにインスパイアされている。
「NYの8番街で、ファーガソン事件のデモが起こってた。俺が宿泊してる場所に戻ったら通りの声が聞こえて、俺は彼らと一緒に歩きたいと思ったんだけど、行くべきじゃない気もした。なぜそんなふうに感じたかはわからないけど、結局行くことにして、プロテストの一員として一緒に歩きはじめたんだ。そして、周りの声を聞きながら、〈これをすべて曲にしよう〉という気になった。でも同時に、この曲は俺たちのファンへのラヴレターでもあるんだよ。俺たちがずっと一緒に居続けていること、変わり者で、人権を剥奪されているように感じている俺たちがひとつに団結することで、自分を見失ったような気にならずにいられることについての曲なんだ」。
むしろパーソナル
近年アメリカでもっとも注目されている今日的な時事に触れているために、政治的なアルバムと誤解する人もいるかもしれない。だが、どの曲も現実の物語を歌っているだけで、むしろとてもパーソナルな作品になっていると思う。「俺にとっては、世の中で起こっている時事について書くときも、ラヴソングを書くときと同じ場所から生まれる必要があるんだ」とビリーは語るが、特にそれが強く感じられるのは、圧倒的なメロディーとリフが胸に迫るアンセム“Still Breathing”だ。
「この曲はサヴァイヴァルを歌った曲なんだ。人生で苦難に遭った人たち――ドラッグ中毒だったり、離婚家庭に育ったり、兵役を終えて家に戻った人だったり、〈何かを乗り越えた〉という共通項がある人たちは、その経験の後でより生きている実感を覚えるんじゃないかと思う。それに伴って沸いてくる感情があるんだよ」。
前作『!Tre!』の発表後にリハビリに入ってクリーンになったビリーは、彼自身のサヴァイヴァルを世界中の誰もが共感できる普遍的な曲に昇華している。そして、キャリア最大の困難を乗り越えて生き残ったグリーン・デイは、2015年、〈ロックの殿堂〉入りを果たした。
「こんなに長く一緒にいられるのは、俺たちが友達として素晴らしい絆を持ってるからなんだよね。言い争ったこととかないし、バンド内の喧嘩って多いけど、俺にはそれが理解できないんだよ。でも、いちばん近くにいる人に対して、優しさと尊敬の気持ちを持てるかどうかなんだと思う。俺たちは特に、一緒にクリエイティヴになるわけだからね。彼らは間違いなくもうひとつの家族だよ。素晴らしいことだし、それが、俺たちが長続きしている理由だと思う」。
彼らは新作のリリース後、本国でのツアーの後にワールド・ツアーを予定している。「もちろん日本にも行くよ」と、ビリーは言う。
「日本のファンは一緒に歌うのが大好きだよね。俺たちの曲は一緒に歌いやすいんだと思う。合唱って、全員がひとつになれるんだよ。一緒に歌うと、同じ声、同じ息、同じ動きの一部になれるから。だから、日本の観客の前で歌うのがいつも楽しみなんだ。早くみんなに会いたいよ」。
DISCOGRAPHIC GREEN DAY
グリーン・デイを知るための12枚

90年のファースト・アルバム『39/Smooth』に前後のEP他を加えた全19曲は、ローカル・バンド時代をそのまま捉えた貴重なドキュメントだ。方向性が定まっていない拙さと受け取るか、ポップ・パンク以外の可能性もあったと考えるか。それによってルースな作風の評価は変わるだろう。ドラマーは前任のジョン・キフメイヤー。インディー然としたサウンドのファンは少なくない。 *山口

インディー時代から閃かせていたキャッチーなメロディーを、ロブ・カヴァロのプロデュースの元で〈ポップ・パンク〉という意匠に落とし込んだメジャーから初アルバム。“Basket Case”をはじめ、その後も演奏し続ける代表曲もここで生まれた。新時代のパンク・ロックの雛型になると同時に、ロックをいま一度、若者の手に取り戻したという意味でも重要な一枚。 *山口

前作『Nimrod』(97年)で挑みはじめた脱ポップ・パンク志向が結実したセルフ・プロデュース作。フォーク/カントリーも含むトラディショナルなアメリカン・ロック・サウンドは音楽面のみならず、精神面におけるバンドの成長もアピール。その成熟はリリース当時、ファンを驚かせたが、巨大になりすぎた自分たちのイメージを変えるには、それだけ大胆になる必要があった *山口

『Warning』以降のさらなる成熟を、ハードコアからバラードまでの多彩な楽曲から鳴る前代未聞のパンク・ロック・オペラとして表現した一枚。これまで以上にアグレッシヴな作品だったにもかかわらず、米英で初のNo.1ヒットに。グラミーの〈最優秀ロック・アルバム〉部門も受賞した。ロック・シーンの頂点を極めた彼らは、メジャー・デビューから10年目に新たなリスナーを獲得。 *山口

『American Idiot』の特大ヒットののち、バンド内のガス抜き的な役割を果たした覆面バンドによる唯一のアルバム。名曲“Mother Mary”を聴けばわかるが、気合いとは無縁の軽快な演奏が心地良い。ほかにはキンクス風味の“Alligator”のように60sのガレージ・ロックに倣った曲調が多く、チープな鍵盤も郷愁を誘う。 *荒金

『American Idiot』に継ぐパンク・オペラ作品の第2弾。二人の若者を主人公に据えたストーリー仕立ての3部構成だが、3~4分台のコンパクトな楽曲でテンポ良く聴かせる。壮大なバラード“Last Night On Earth”、ビリーの裏声にシビれる“21 Guns”など、メロディー重視の佳曲が並ぶ大名盤だ。本作も、グラミーの〈最優秀ロック・アルバム〉を獲得。 *荒金

ビリーがイーストベイ・パンクの代表格、クリンプシュラインのアーロン・コメットバスと91年に結成したサイド・プロジェクト。本作は、2009年までの5枚のフル・アルバムと6枚のEPから厳選した2枚組のベスト盤だ。粗削りでガツガツ攻める1~2分台の直情パンクは、インディー時代のグリーン・デイを彷彿とさせる。Disc-2は貴重なライヴ音源で、録音状態もいい。 *荒金

『21st Century Breakdown』からの4曲なども交え、2009年にミュージカル化された『American Idiot』。ビリーがプロデュースの本作は、その公演で使用された全22曲を収録したもの。24人のキャストによる多彩なヴォーカル・フォーメーションで紡がれるストーリーは、音だけでもとんでもなく感動的だ。こちらもグラミーで〈最優秀ミュージカル・ショウ・アルバム〉を受賞という快進撃! *土田



2か月おきに3部作としてリリースされた3枚。前2作の『American Idiot』『21th Century Breakdown』が壮大なテーマを掲げた作品だっただけに、その反動もあったのだろう。本来の明るくエネルギッシュなグリーン・デイ流のパンク・サウンドを貫きながら、それまでに培った多様な音楽性も注入した作風だ。『!UNO!』は“Let Yourself Go”を筆頭に、簡潔明瞭に突っ走るパンキッシュな曲調がズラリと並ぶ。続く『!DOS!』は、モータウンやロカビリー風のリズムを配し、女性ヴォーカルを迎えたラップ調の“Nightlife”、故エイミー・ワインハウスに捧げたエレキ弾き語りの“Amy”など自由度の高いアレンジも聴きどころ。ラストを飾る『!TRE!』は、冒頭と最後に壮大なバラード風の曲を配しつつ、疾走曲も備えており、作品トータルの流れを楽しめる。 *荒金

ビリーとノラ・ジョーンズとのデュエット・アルバムは、エヴァリー・ブラザーズ『Songs Our Daddy Taught Us』を丸ごとカヴァーするという代物。組み合わせの意外性を吹き飛ばすノラとの息の合ったハーモニーのみならず、どこまでもジェントルで滋味深い歌声がとても新鮮。アメリカン・トラッドへのアプローチで、ビリーはヴォーカリストとしての成熟をアピールしてみせた。 *土田