ズラリと並んだ21+1名がハッピーでリズミックなスウィングを紡ぎ出す! 胸躍るジャズ、心を弾ませるビート、ゴッタ煮のエンターテイメント、口ずさみたくなる歌がここにある!
無意識に求めていたリズム
これまでの音楽人生を集約したような傑作『にじみ』(2011年)を発表した後、劇場アニメ「かぐや姫の物語」(2013年)の主題歌“いのちの記憶”を担当。私生活では出産を経験し、音楽活動を続けながら実家の寺で僧侶として働く。ここ数年、ミュージシャンとして、ひとりの女性としても大きな節目を迎えた二階堂和美が、新たな一歩を踏み出した。新作『GOTTA-NI』は、総勢21名のジャズ楽団、Gentle Forest Jazz Band(GFJB)との共演盤。両者は8年前に知り合って、いつか一緒にやろうと誓い合った仲だったという。GFJBと共演する楽しさを、二階堂はこんなふうに語ってくれた。
「まず自分がひとりのリスナーとして、音楽を楽しめるところですね。小編成のバンドをやってる時みたいに自分が引っ張っていかなくても、気持ち良くリズムに乗ってればいい。音楽のなかでいちばんリズムが好きなんです。歌詞にもありますけど〈胸躍るリズム〉を無意識にずっと求めていて、ジェントルと初めて一緒にやった時に〈これだ!〉って思ったんです」。
思えば“いのちの記憶”が世間で話題になった時、弾けまくった彼女をこれまでライヴで観てきた者としては、いろんな場所で〈感動の名曲〉を歌い上げる彼女の姿はどこか窮屈そうにも見えた。なんて感想をもらすと、二階堂は「そうなんですよー。感動路線が重たくなってきて(笑)。そっちはそっちで自信を持って歌えるんですけど、〈私にリズムを返して!〉って」と当時を振り返った。GFJBとの共演は、そうした想いもあっての選択だったに違いない。なにしろ、GFJBは〈踊れるジャズ〉を追求してきた楽団。バンド・リーダーで、在日ファンクのメンバーとしても活躍するジェントル久保田はGFJBについてこう語る。
「〈ジャズ楽団〉というと、グレン・ミラーみたいに白人ミュージシャンがやっていたムーディーなものをイメージされがちなんですけど、そもそも黒人がやっていたジャズって熱狂的に観客を踊らせるダンス・ミュージックだったんです。我々はそういうところを打ち出しながら、オリジナル曲でやっていこうと試行錯誤してきた。ニカ(二階堂)さんと初めて会った頃は模索中だったんですけど、ここ2、3年でようやく掴めてきて。いまこそ一緒にやる時だと思ったんです」。
シンガーとバンドのバランス
お互いの機が熟して相思相愛で生まれた『GOTTA-NI』は、二階堂の持ち歌をGFJBがビッグバンド風にアレンジ。歌謡曲、演歌、ジャズ、サンバなどヴァラエティー豊かな原曲に、あの手この手で新たな輝きを与えている。
「ニカさんの曲の良さを大切にしながら、そこにジェントルっぽさをぶつけて行きました。メンバーの何人かと一曲一曲スタジオで聴いて、〈これはカウント・ベイシーのバラードっぽい感じが合うんじゃないか?〉とか〈これはカリプソじゃない?〉なんてふうに話しながら、実際に録音してニカさんにそれを聴いてもらったんです」(久保田)。
「どの曲も素晴らしかったですけど、いちばん化けたのは“お別れの時”ですね。(『にじみ』に収録の)オリジナルはサンバの印象が強かったんですけど、編曲されたものを聴いた時、若い頃に憧れていたエラ・フィッツジェラルドのライヴ盤『Mack The Knife: Ella In Berlin』に入ってる“How High The Moon”みたいだと思ったんですよ。スウィング感を疾走させながらスキャットしまくる曲なんですけどね」(二階堂)。
スキャットといえば二階堂の得意技。いつもライヴでは自由奔放なスキャットを聴かせてくれるが、ビッグバンドとの共演となると迫力もキレもひと味違う。
「音が多いぶん、それだけ刺激を受けるんです。スキャットは大好きで、歌だったら歌詞を伝えないといけないしメロディーを守らなければいけないけど、スキャットはその時の気分をすべて出すことができる。自分がひとつの楽器になれるというか、音楽と一体になれるんです」(二階堂)。
音楽とひとつになりたい。そんなプリミティヴな感性が二階堂和美という歌手の真髄といえるかもしれない。だからこそ、そんな彼女との共演はGFJBにとっても特別なもの。
「シンガーとバンドの関係って難しくて、歌と演奏を対等に聴いてもらうためにバランスを考えるのが大変なんです。でも、ニカさんと一緒にやっていると、ニカさんのパワーにバンドがぐっと引き寄せられて、すごく自由な気持ちで演奏できる。ほかのシンガーとは違う一体感があるんです」(久保田)。
まだいける!
そんな関係性をそのまま曲にしたのが、本作のために久保田が書き下ろした新曲“Nica's Band”だ。
「〈これぞビッグバンド・ジャズ!〉っていう曲なんですけど、バンドのパートのひとつみたいにニカさんの歌を入れたかった。キャブ・キャロウェイっていうアメリカのエンターテイナーがいて、その人にニカさんをダブらせて曲を書いたんです。歌ってるのかスキャットしてるのかわからない、すべてがその人の一部みたいなアーティストなんですけど、そんなことができるのは彼とニカさんぐらいだと思って」(久保田)。
「光栄ですね。相手は黒人のオッサンですけど(笑)、私の中には絶対、黒人のオッサンがいますから」(二階堂)。
思えば『にじみ』あたりから、二階堂はエンターテイメントとしての音楽を強く意識してきた。活動拠点を地元の広島に移し、近所の人たちと交流していくなかで〈こういう人たちに音楽のすごさを伝えたい!〉という気持ちが生まれたらしい。エンターテイメントを追求するうえで最強のパートナーを手に入れたいま、〈歌手・二階堂和美〉の正念場はこれからだ。
「声は消耗品だと言われてますけど、残り少なくなってきた寿命のなかで〈まだいける!〉っていう自信が湧いてきたんです。いま、ようやく歌に専念して人前に立つことが出来るようになってきたから、ここからもうひと花咲かせられるんじゃないかって。これから、もっといろんなことに挑戦していきたいですね」(二階堂)。
子どもからお年寄りまで胸躍る音楽、『GOTTA-NI』。二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Bandは、いまいちばん紅白歌合戦に出てほしい、いや、出るべき歌手とバンドだ。