日野皓正をはじめ多岐に渡るサポート仕事やカート・ローゼンウィンケルとの共演、自身のプロジェクト=PROJECT 67で〈東京JAZZ〉への出演などジャズ方面の仕事のみならず、初EPをリリースしたCRCK/LCKSとしての活動、WONKやDaiki Tsuneta Millenium Paradeの作品への参加など、さらに活躍の幅を拡げた2016年の石若駿。いま日本でもっとも忙しいドラマーと言っても過言ではない彼が、昨年の初リーダー作『CLEANUP』以来となる新EP『Songbook』を突如完成させた。
本EPは、全曲でCRCK/LCKSの小西遼&小田朋美や角銅真実らゲスト・ヴォーカルを迎えつつ、ドラムはもちろんピアノから打ち込みまで、ほぼすべての演奏を自身が担当したセルフ・プロデュース作。石若が学生時代から書き貯めていたという楽曲を中心に、びっくりするほどピュアなピアノと歌のデュオ曲や、打ち込みで構成されたトリッキーな変拍子のナンバーなど、彼がこれまでのキャリアを通じて体得したさまざまなサウンドが映し出されている。そしてタイトル通り、作品の中心にあるのは〈歌〉だ。今回は、そんな『Songbook』が生まれた経緯や、レファレンスとなったアーティストなどについて石若本人に訊いた。
★石若駿がCRCK/LCKSとして出演する〈Mikiki忘年会2016〉の詳細はこちら
作ったはいいけどずっと悶々としていた
――今回のEPは『Songbook』というだけあって、すべてヴォーカルの入った楽曲が揃っていますが、これはどういうきっかけで作ることになったのでしょうか?
「自分がシンガーのバンドでライヴをすることが多かったのが影響しているかもしれない。例えばMaya HatchさんやHanah Springさん、TOKUさん、今回参加してくれているサラ・レクターさんやけものといったアーティストと仕事をする機会が一気に増えて、インストとは違う魅力というか、声の強さみたいなものに魅了されるようになったからかなと」
――CRCK/LCKSでの活動や、サポート・ミュージシャンとしてポップス・アクトのバックをやったことが影響をしているんですかね。
「自分が関わるところで言うと、CRCK/LCKSは毎回みんなが曲を持ち寄ってくるからすごく刺激を受けているね。あと、今年さかいゆうさんの『4YU』で1曲ドラムを叩いていて。レコーディングの前にさかいさんと2人でスタジオ入って、さかいさんがピアノを弾きながら歌っているところにドラムを合わせていたんだけど、その時のさかいさんがめちゃくちゃ素晴らしかった。あれはすごい体験だったな。あとは原田知世さんのライヴ・サポートをやったんだけど、その時はメンバーに椎名林檎さんのバンドにも参加している鳥越啓介さんがいて、いろんなことを教えてもらったり。そういった経験が、歌のアルバムを作るきっかけになったと思う」
――収録されている楽曲は、昨年発表した初作『CLEANUP』より古い曲もあるんですか?
「いちばん古いのは“the voice”かな。それは大学入る前だから5、6年前。“ジョゼ”は僕がタワーレコード限定で出したトリオでのアルバム(2013年作『The Boomers ~Live At The Body & Soul~』)に入っている“HONTOWASAH”という曲に歌詞を付けたものだから、出来たのは2011年くらい。その次に“Asa”だね。それは2012年の2月。2月の寒い日に大学の打楽器科のコンサートがあったんだけど、打ち上げで朝まで呑んで、それからトラックに楽器を積み込んで学校まで片付けに行って、〈あ~疲れた〉ってピアノを弾いたら出来た曲がこれ(笑)。だからすごいよく覚えてる。“Christmas Song”は2013年くらいに出来た曲で、いちばん新しいのが“10℃”。でもそれも学生の時だから2年前ぐらい」
――へぇ~。じゃあどれもかなり前に作られた曲なんですね。
「曲は出来ていても発表する場がなかったんだよね。自分のジャズのバンドで演奏するような曲ではないし、シンガーのバックで参加したとしても、その人に持っていくわけにはいかないから。作ったはいいけどずっと悶々としていたような状況で。だから、まだ録音してない曲のストックはいっぱいある。今回の5曲に関しては、(世に出したいという)欲求が大きくなって、一人で録音を始めました」
――曲はどうやって書いてるんですか?
「今回の曲に関しては、『CLEANUP』の時と同じく、ピアノに向かってひたすら弾いて書いての繰り返し。だんだんレールを敷いていくみたいな感じで、五線譜に音符を書いていった。あとは、レコーダーの録音ボタンを押して即興的に弾いて、後からいい部分を抜き出して再構成したりとか。それをエンジニアの田島克洋さんと2人で3年くらい前からスタジオで録音していたんだよね。すごく暗い作業だったよ、ピアノを弾いて、間違えたら録り直す……みたいな作業を2人でずっとやってた(笑)」
――今回の曲は歌うことを前提にして作られた印象なんですけど、実際はどうですか? ピアノとヴォーカルのみの“Asa”とか、最少人数で組まれていて聴きやすいものが多かったので。
「歌ものにしたのは曲が出来てからだね。歌ったらおもしろいんじゃないかな?と思いつきだけでやっている部分はあるな。コンポジションに関しては、僕自身の特徴があると思うんだよね。ひねくれた性格だから、それが曲に出ている(笑)。シンプルに聴こえる“Asa”も、楽譜にしたら小節ごとに拍子が変わっていたり、すごく難しい。でもそういう曲に声を入れることでポップにして、みんなが聴きやすいものになればいいなと。それに、この曲たちをジャズのインストだけで演奏したらどうなるんだろう?と考えたりもしていて。すごくチェンジが激しいからそんなにおもしろくないかもしれないけど……」
――今回は演奏もほぼ全部自分でやっているんですよね。ピアノから打ち込みまで。
「そうだね。歌とヴォコーダー以外ほとんど自分で演奏してる。母親がピアノの先生だったから小さい頃からピアノは弾いていて、下手したらピアノ歴のほうがドラムより長いかも。打ち込みは結構やっていて、『CLEANUP』の曲も実は打ち込みのデモがあったり、常田大希のアルバム(Daiki Tsuneta Millenium Paradeの2016年作『http://』)にも僕が打ち込んだのが使われている。“Christmas Song”のオルガンも打ち込みの音源だし。あとはコルネットをマイクに向かって吹いて、そこにエフェクトをいくつもかけたり」
――え! このコルネットは自分で吹いてるんですか!?
「そう、あれは打ち込みじゃないから(笑)! トランペットも自分で吹いてるんだけど、中学生の時に日野皓正バンドに入りたくてすごく練習したの。というのも、日野さんはライヴの時に(バンド・メンバーに)次の曲名を言わないんだけど、他の人たちはどうやって意思疎通して曲を合わせているんだろうと思って訊いたら、〈日野さんの(構えた時の)指を見ればわかる〉と言われて。だったらトランペットを覚えなきゃダメじゃん!と(笑)。なので、ある程度は吹けるようになった。あとは一時期シンセ系の機材をいろいろ買い込んでいて、Srv.Vinciにいた時はドラムを叩きながらシンセ・ベースを弾いたりしていたので、今回シンセ・ベースも自分で入れてる」