2016年もいよいよ大詰め! 各メディアで年間ベストなるものがバンバンあがっているのを眺めながらニヤニヤしている今日この頃、Mikikiとしての年間ベストは今年も公開する予定はありません。そういうポリシー……みたいに思っていただければ幸いです。多くの音楽メディアがやっている年間ベスト企画をやらないわれわれがやることは何かと言えば、ずばり自画自賛です。今年Mikikiで公開したオリジナル記事(bounce/intoxicateの転載記事を除く)のなかから、スタッフ4人が個人的にグッときたものベスト5を各々が紹介したいと思います。

情報量も文字数もすっごく多いことでお馴染みのMikiki。毎回読むのも大変かと思いますが、いま改めて読んでもおもしろい、タメになる、希望がある記事ばかりですので、〈こんな記事があったなんて知らなかった!〉という声を聞きたいなと思っている次第です。よろしくお願いします。 *Mikiki編集部

 

【加藤直子】

 

こちら順不同です。宇宙など未知/未開のものへの強烈な執着がある私としては、日々暮らしているなかでは見えないものを教えてくれる人に興味を持ちがち。ここで挙げたものも、自然とそういう記事が揃った気がします。USの音楽シーンにおけるアジア人の立ち位置を赤裸々に伝えてくれたstarRoさんの連載、アジア各地のヒップホップを現地で体験してきたHUNGERさんとYOUNG-Gさんの対談(個人的にはモンゴル・ヒップホップの話に感激)なんて、その極北ですね。また、NYのジャズメンをがっつりコントロールして今年傑作を作り上げた黒田卓也さんの記事も、他では読めない制作裏話がたっぷり(他では見られないタオル肩掛け写真も)で、アルバムの聴き方が変わりますよ。

そしてTREKKIE TRAXは、先日公開したUSツアー・レポにも表れている通り、海外を視野に入れたイケイケなムードを閉じ込めた推進力のある話が聞けました。若さゆえの……と言うとアレですが、良い意味での一心不乱さが眩しくて、すごく未来は明るいと感じます。特に中国のクラブの話はエキサイティング。さらに、NOT WONKら3組の地方を拠点に活動するバンドの記事は……何と言ってもSkype取材! この後、スカート澤部×tofubeats対談でも継承される生身の人とデスクトップ越しの人の集合写真に何とも言えない魅力を感じます。というだけでなく、東京にいる私には知り得ない地方で活動することの現実や意識を訥々と語る3人に、いろんな意味で〈時代〉を感じて、感慨深い気持ちになったわけです。

 

【小熊俊哉】

 

スターの訃報が相次いだ2016年を振り返ったとき、やはり真っ先に浮かんだのはデヴィッド・ボウイプリンスでした。〈ボウイはなぜ新世代ジャズを選んだのか?〉は、現代ジャズのミュージシャンを切り口に『★』の制作意図を〈推測〉したもの。この記事をアップしたのは、ボウイが亡くなる直前の1月8日。その後に制作した浅井健一さん、土屋昌巳さん、小林祐介さん(THE NOVEMBERS)によるボウイ追悼記事も印象深いですが、いまとなっては感傷的なストーリーと切り離すのが難しい同作について、残念な報せが届く前にとことん向き合えたのは本当に幸せです。〈プリンスはなぜ世界を変えた?〉では、NOTHING BUT THE FUNKの公演に合わせて、沼澤尚さんと森俊之さんにプリンスがもたらした音楽的影響を濃密に語っていただきました。それとプリンスが亡くなった直後には、ライターの内本順一さんからお電話いただき、貴重なドキュメントを〈3度の対面から浮かぶ天才の素顔〉として世に送り出すことができたのですが、こういうのは編集者冥利に尽きますね。 

残りの3本は、自分のなかで〈2016年っぽさ〉を強く感じたものを選びました。SKY-HIさんとtofubeatsさんの2人は、(星野源さんもお気に入りに挙げているという)ケイトラナダ『99.9%』を語るうえで最強のタッグだったかと。八木皓平くんによる〈大変なことがクラシックの世界で起きている~〉は、反響が大きかったことを受けて〈Next For Classic〉として連載化も実現できました。僕もリスナーとして興味深く追っているシーンだけに、今後もいろんな人を巻き込みながら盛り上げていきたいです。

 

【田中亮太】

 

上4つが、自分担当の記事で手前味噌にもほどがある!というセレクトになってしまいましたが、今回は〈極私的〉と言うことで個人的に達成感を得られたものを中心に選びました。サニーデイ・サービスの新作『DANCE TO YOU』に合わせた曽我部恵一さんへのインタヴューは、同作の現代性を紐解くうえで、なかなか良い線を行ったように思いますし、ドラマー・丸山(晴茂)さんの不在を、曽我部さんがどのように捉えているかを率直に語ってくれて嬉しかったです。そして、SEVENTEEN AGAiNヤブユウタさんは、ここ数年自分がパンク・カルチャーにのめり込んでいくなかで、いつか絶対に対話してみたいと思っていた人。このインタヴューで夢を一つ叶えることができました。ヤッタ!

またLEARNERSでは、サイン・マガジン・ドット・コムの田中宗一郎氏がMikikiに初登場。最高のカヴァー・バンドであるLEARNERSがシーンやジャンルを飛び越えて、たくさんのリスナーを夢中にする理由をクレヴァーに紐解いてくれました。さらに、USインディー・ポップの新星レモン・ツイッグスの魅力を上野功平氏が5つの視点から解説してくれた記事もヴェリー・ナイス。インディー音楽自体がややハイコンテクストになりすぎているなか、キャッチーに筆を滑らせてくれて感謝です。来年は海外インディーの紹介をいっそうがんばりたい。そして、Beat Caravanのインタヴューは、音楽好きがレコード屋でわいわいダベっているような、インディーならではのほのぼの感が堪らない記事で、やっぱりこういうのは良いよなーと再確認したのでした。

 

【高見香那】

 

どの記事も思い入れのあるものばかりで……でも何とか選んでみたのがこの5本! 塚本功さんとLEARNERS堀口チエさんのギタリスト対談は、音楽家としての矜持から人生論のような深みあるお話まで、世代の違う両者のリスナーのどちらにも響く普遍的な内容になっているかと思います。取材では2人がゆっくりと心を通わせていく様も感慨深かった。また、自分が担当をしている大石始氏の連載も1年間いろいろとやりましたが、HUNGERさんとYOUNG-Gさんに登場してもらったこの回は、恐らくどこにも載っていないであろう貴重な話をたっぷりと収録できた良企画! 反響もかなり大きかったです。

そして、D.J.Fulltonoさんによるジューク連載も大ファンなのですが、今年の更新分ではこの回に感心させられました。Fulltonoさんみずから作成した〈図〉やRP・ブーの音楽スタイルを草書に例えて説明するなど、その非凡な感性に参りましたよ。こんな素敵な記事が書けるように自分も精進したいです。それからジェイムズ・チャンスについて強力な男たちに語ってもらった記事。写真もキマってますよね。3人3様の語り口が最高だし、チャンスを知らない人にもわかりやすくナヴィゲートできる記事になっていると思います。ちなみに、あの独特なダンスを観ることができた来日公演は年間ベスト・ライヴのひとつ! 自分ももちろんダンスしました(ブルーノート東京で)。

最後に、先日開催した〈Mikiki Pit〉にも出演してくれたニカホヨシオさん。注目の若き才人の音楽性や人間性を丁寧にあぶり出した素敵インタヴューですよ。記事内でも顕著ですがニカホさんの言語感覚が大変魅力的なので、ぜひMikikiでブログなどやってほしいです!