ロックンロール? ポップス? パワーポップ? オールドタイムな感覚も持つスウィートなロックンロールで90年代の終わり頃から今日までマイペースに活動し、東京のロック・シーンを飄々と生き抜いてきたBeat Caravanがセカンド・アルバム『Odd Harmony』をPヴァインからリリースした。このアルバムは、まずスペインのレーベルであるサニー・デイ(Sunny Day Records)からLPでリリースされ、日本盤CDの方がライセンス盤という、いわば逆輸入的な形だ。僕のレーベル、Target Earthで彼らのミニ・アルバムをリリースしたこともあり、ついにここまで来たか、という感慨もありつつのインタヴュー。NRBQビーチ・ボーイズシー&ヒムなどのキーワードにピンと来た人はぜひ読んで、そして聴いてみてほしい。ShoogeMihoMattBobのメンバー4人に話を訊いた。

Beat Caravan Odd Harmony Sunny Day/Pヴァイン(2015)

 

〈Odd Harmony〉は、ちょっといびつで整ってないイメージ

――まず、この新作『Odd Harmony』について訊きたいんですが、スペインのサニー・デイというレーベルからLPが出た経緯は?

Bob(ギター/ヴォーカル)「もともと話があったのが2011年じゃなかったかな」

Matt(ドラムス、コーラス、ピアノ)「前作のアルバム『On Parade』が2010年に出まして」

Miho(ベース/ヴォーカル)「(『On Parade』の曲を)Bandcampで聴いてくれたみたい。それで、自分たちの次のリリースをBeat Caravanにしたい、スペインと欧州に紹介したいと言ってくれて」

Matt「彼らはそれまでスペイン国内のバンドしかリリースしたことがなかったんだけど、初めてスペイン以外のバンドを出したかったらしくて」

――そのレーベルのことは知っていたの?

Matt「まったく知りませんでした」

Bob「サニー・デイについては、(Pヴァイン担当の)柴崎くんに訊いたらロス・インポッシブルズの名前が出てきて、〈おお、ピーター・ホルサップルdB'sのメンバー)がプロデュースしたバンドをリリースしてるレーベルじゃないか!〉と興奮しましたが……Losが名前に付く違うバンドで、勘違いでした(筆者注: Los Valendasのこと)」

dB'sの2014年作『Falling Off The Sky』収録曲“World To Cry”

 

Shooge(ギター/ヴォーカル)「もちろん大喜びで、〈是非お願いします〉と返事しました」

Matt「そもそも、2010年にアルバムを出して、その次になにかを出そうとか、なんにも考えてなかったし。だからオファーをもらって、じゃあなんか作ろうか、と」

Bob「レコードを出してくれるというので、こちらは〈シングルにしますか?〉と返事したんだけど」

Shooge「向こうはなんでもOKという感じで。待ってくれるならということでフル・アルバムをLPでということになりました」

――サニー・デイからアルバムが出たのは2015年の話でしょ。だいぶ時間がかかったんだね。

Matt「曲を揃えてレコーディング開始するまでにも結構な時間がかかってしまって、先方にはよくぞ気長に待っていただきました。あとはメールのやり取りに時間をかけ過ぎていたところもあります。お互いに結構のんびりというか……」

――そもそも、サニー・デイはBeat Caravanのどんなところに魅力を感じたんだろう?

Miho「レコーディング前にデモを送ったら、レーベル・オーナーの2人で聴いて〈全曲すごく気に入ったよ〉とメールをくれたね」

Shooge「でも、そのレーベルの(他のリリースを)聴いてみると、オルガン・ガレージという雰囲気の作品が多いようで。そういうバンドは日本にだっていっぱいいるはずなのに、よくぞというか、とにかくありがたい話です」

――じゃあ『Odd Harmony』が日本盤で出ることになった経緯は?

柴崎(Pヴァイン担当)「海外のレーベルから新作のLPが出るという話はなんとなく聞いてたのですが、Bandcampで試聴したらこれがめちゃくちゃ格好良かった。それで、どうやら日本のレーベルがCDを出さないようなので、ウチで出さないか? と声をかけました」

――バンドと柴崎さんもはもともとお知り合いなんですよね?

柴崎「そうです、Bobくんが(大学の)同級生で。あと、他のメンバーの皆さんも時代は違いますが、同じ大学の音楽サークルにいたりしたので」

――録音/ミックス/マスタリングを担当した中村公輔さんも旧い知り合いだとか?

※サウンド・デザイナーとしてKangaroo Pawなどの名義で活躍。レコーディング・エンジニアとしてtoeフルカワミキツチヤニボンド入江陽などを手掛けている

Miho「そう、私の大学1年のときのクラスメート」

Matt「前の『On Parade』も担当してもらったので、もう一回お願いしました。あのときもいい感じだったので、あんまり他の選択肢は考えていなかったような気がします」

――それで少し話を戻すと、サニー・デイから話があってから録音に入ったということでいいのかな。それとも、先に曲作りをはじめていた?

Matt「何曲かは(ストックが)あったんだけど……」

Bob「いや、ほとんど曲はなかったような気がする」

Matt「とにかく、慌てて曲を作ったんだよね。それで2013年の夏にレコーディングした。このアルバムは、(Beat Caravanにとって)オーダーをもらってから曲を作った初めての作品なんですよ。これまではすでにあったもの(曲)のなかから、機会があったときに出していたんだけど、今回はアルバムを(前提にして)意識しつつ曲を書いた気がする。全体の構成を考えながら〈こういう曲があったらいいな〉みたいに」

――となると、アルバムの構成もコンセプチュアル?

Matt「そういうのでは全然ないけど」

Miho「でもストーリーがあるし、アルバム・タイトルは結構前に付けてたよね」

――タイトルの〈Odd Harmony〉にはどんな由来が?

Matt「前作が『On Parade』だったから、なんか響きが似た感じがいいかなと。それと、ちょっといびつで整ってないイメージ。少しずれている感じ?」

Miho「実際、(Beat Caravanの曲は)〈Odd Harmony〉(おかしなハーモニー)だからね」

――そのタイトルが合ってると思ったな。

Matt「いいですよね? タイトルが一番気に入ってます(笑)。もうひとつお薦めが(日本盤に2曲収録された)ボーナス・トラックなんです」

――ボーナス・トラックらしいボーナス・トラックだったね。

Miho「そう、ボーナス感!」

Matt「あと〈本編から外れた感〉もあるでしょ」

――今回はBobの歌う曲が増えてるよね?

Matt「前作では1曲だったのが今回は4曲ですから、大幅増ですね。ライヴではShoogeがメインですが、Bobがヴォーカルをとることも増えてきていましたし、自然の流れでしょうか。あとはアナログLPを作るなら、両面6曲ずつの全12曲、トータル30分くらいにしたかったんですよね。15曲以上入っているアルバムだと(曲を)全部覚えられないし、大体途中で飽きてしまうので。それに、そのほうが各曲の個性も際立つかなと思って。さらに、ザ・バンドインクレディブル・カジュアルズNRBQ、あとはビートルズみたいに、フロントの3人がヴォーカルをとることで彩り豊かになればいいなと。3人の声の個性を活かしながら、12曲÷3人=4曲というわけです」

――2004年のミニ・アルバム『Volume 2』に入っている“Blowing Away”を再録した理由は?

Matt「Mihoが歌う予定だった曲が別にあって、スタジオでも何度か合わせてみたものの、あまりしっくりこなくて……。結局その曲はボツにしたんですけど、Mihoが歌う曲でほかに適当なものがなかったので、〈“Blowing Away”がいいかも〉と提案したら、みんな賛成してくれて。『Volume 2』ヴァージョンとは構成も違うし、いずれ再録したいと思っていたんですよ。あとは、『On Parade』でも、『Volume 2』から“Back To The Sweethearts”という曲を再録したんですけど、このときも今回も『Volume 2』のプロモーションになれば……というスケベ心がなかったかというと嘘になる気がします(笑)」