それぞれがソロでも活動する京都のAZUpubschoolと大阪のCOR!Sによるトラックメイカー・デュオ=KiWi。2010年代以降、続々と台頭するインターネット発のトラックメイカーたちのなかにあって、彼らの特徴は作品に込められた丁寧なストーリー描写だ。その独自性が評価されてか、ディプロが主宰するマッド・ディセントの2016年のコンピ『A Very Decent Christmas 4』への参加、その傘下レーベルであるグッド・イナフから“Sugar Panic”や“M・A・Z・E”(いずれも2016年作)を発表し、日本人アーティストではtofubeatsに続いて英BBC Radio 1〈Diplo & Friends〉にミックスを提供するなど、彼らの存在は日本国外にも知られはじめている。
そんなKiWiが、これまでリリースしてきた3枚のEP(2016年作『The tale of sibling』『The scene of ordinary』『KiWi物語』)の収録曲を中心に、グッド・イナフから発表したナンバーや新曲などを加えた13曲入りの音楽集『March』を完成させた。すべての楽曲はアズ&コリスのワーグラース兄妹と〈おばけのキウィ〉の冒険を描く要素として存在し、トラップなどのビート・ミュージックにポップなメロディー、ピアノや管弦楽器を組み合わせ、まるでティム・バートン監督映画「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」のようなファンタジーの世界を創出している。
今回は『March』のリリースを記念して、KiWiの2人と古くから付き合いのある同じ関西出身のSeiho(Skypeで登場!)と、2015年にUSのズーム・レンズから発表した『Promise』で“Greed Greed”のリミックスも手掛けるTomgggを迎えてトラックメイカー座談会を開催。KiWiが生み出すマジカルなポップ・ワールドの魅力に迫った。
音楽から物語が生まれるのではなく、物語から音楽が生まれる
――まずは3組の出会いの話から聞かせてください。Seihoさんのレーベル・Day Tripper から、AZUpubschoolさんのジューク/フットワーク・ユニット=doopiioが『syrup gang』(2013年)をリリースしていましたね。
Seiho「そうですね。2011年ぐらいから、僕らは関西ビート・シーンの仲間たちで〈INNIT〉や〈Idol Moments〉というイヴェントをやっていて、そこにユッキー(AZUpubschool)が音源を持って遊びに来てくれたんですよ」
AZUpubschool「まず〈Idol Moments〉に遊びに行って、その後〈音源を持っていったらエントランスで500円引き〉ということを知って〈INNIT〉にdoopiioの音源を持って行ったんです※。その頃は関西でもビート・シーンが盛り上がっていて、ちょうどジュークが流行りはじめた時期ですね」
※〈INNIT〉ではフライング・ロータスらLAの〈Low End Theory〉界隈にも通じる観客参加型の企画が行われていた
――実際、doopiioはジューク/フットワークをよりモダンに解釈したプロジェクトでした。
Seiho「doopiioは曲のクォリティーが高かったし、テクノやハウスをやっていたような人たちが出てくるなか、シカゴのオリジネイターとはまた違う感覚でジュークをやっているアーティストは日本にはなかなかいなかったと思うんですよね。そこがすごいなと思っていました。COR!Sちゃんとはどこで知り合ったんやったっけ?」
COR!S「私もよくわからないんですよ。でもSeihoさんはいつもAZUpubのイヴェントに遊びに行くといるヤバイ人という印象でした(笑)」
――TomgggさんがKiWiと知り合ったきっかけというと?
AZUpubschool「僕とTomgggさんは、2.5Dで関西のビート・シーンをまとめたイヴェントがあったときに挨拶をさせてもらったのが最初です」
Tomggg「ああ、そうだ!」
AZUpubschool「でもそのときはゆっくり話すことはできなくて。それで次に神戸のイヴェントでまた挨拶をしたら、いきなりフレンドリーにハグしてきたんですよ。最初のTomgggさんの印象はPCに向かって黙々と音を出しているイメージだったので、〈急にそんな感じか……!〉と(笑)」
COR!S「私とTomgggさんがやりとりをしたのはもうちょっと後で、KiWiが『Promise』(2015年のEP)でリミックスを提供してもらったときでした」
Tomggg「COR!Sちゃんのことは、COR!Sちゃんが参加していたbo enの“I’ll Fall”(2013年作『Pale Machine』)を聴いて、めっちゃいいなと思っていたんですよ。ガチガチに音楽教育を受けてきた人という意味で、(自分と)底に流れているものも似ていますしね」
――SeihoさんとTomgggさんは、KiWiの音楽にどんな魅力を感じますか?
Seiho「KiWiは物語ベースで曲を作っていて、まずはそこがすごくいいなと思うんです。それに、この系統の音楽ってありそうでないですよね。この間サンリオ・ピューロランドのハロウィン・イヴェント(〈PINK sensation 2016 ~Hello Kitty 42nd ANNIVERSARY BASH!~〉)でSugar's CampaignとしてDJをしたんですけど、その時に〈キティちゃんの誕生日を祝う直前に3曲用意して繋げてほしい〉と言われて。Avec Avecと2人で〈ハロウィンにはKiWiの曲が合うな〉と話したんですよ。ユッキーはもともと歌モノを作っていたし、そういうものもやっていきたいという話を昔からしていたんで、KiWiになってからの音楽性との違いには、あまり驚きは感じなかったです」
――最初に音源がアップされたのは“星屑のパレード”でしたが、この時点ではまだおばけのキウィは出てきていなくて、ジューク/フットワーク的なビートにキュートなメロディーが乗ったポップ・ミュージックという印象でした。
Tomggg「いまはおばけのストーリーが始まって、それからはホラー・テイストも入ってきていますよね。その変化には最初びっくりしました(笑)。いまではトラップのようなわりとチャラい音楽の要素も加わってきているし、おもしろいことになってるなぁと思います。物語の立て方も、登場人物が出てくるようなそれぞれの曲の雰囲気もいいですよね」
――缶を叩く音を使ったり、キッチンの音や笑い声など、登場人物の様子を想像させるいろいろな音が挿入されていてすごくユニークです。
Tomggg「物語という意味では竹村延和さんの『こどもと魔法』(97年)も思い出しました。あと、オフィシャルサイトにキャラクター紹介が載っていますけど、それがゲームの説明書みたいなんですよね。このゲームはこんなストーリーで、こんな人たちが出てきますよ……と説明を読む時のワクワク感があります。気になるんですけど、KiWiの曲って先にストーリーを全部用意して曲を作っていくの?」
COR!S「もともとコンセプト・ストーリーが1章から3章まであって、それに沿った物語をちょっとずつ小出しにしているんです。派生の物語もあるんですよ」
――一応、そのストーリーをみなさんで共有しておきますか?
AZUpubschool「僕らのなかでは文章として全編存在しているんですけど、世に出しているのはまだ序章だけなんです。いま公開されているところで言うと、アズとコリスの兄妹が、魔女の畑から魔法のキウイを盗んでしまったことで、呪いにかけられて森から出られなくなるんです。その呪いを解くために、おばけのキウィと実験を繰り広げるという話なんですよ」
――KiWiはティム・バートンの「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」などにも通じるような世界観が特徴的ですが、どこかファンタジックで空想が広がっていくような雰囲気という意味では、Tomgggさんの世界観にも近いところがあるかもしれません。
Tomggg「そうですね。だからなのか、リミックスをやらせてもらった時も全然違和感がなかったんですよ。COR!Sちゃんの声も曲調もすごくやりやすかった。自分の場合、ヴォーカルはロリ声を扱うことが多いんですけど、COR!Sちゃんの声もそういう魅力がありますし」
Seiho「あと、KiWiはヴォーカリストとトラックメイカーのコンビじゃないんですよね。2人とも作曲と歌を両方できる。ユッキーは楽曲にフックをどれだけくっ付けられるか、ということをメインにやっている気もするけど、基本的にどっちもできる2人が一緒にやるという、そのバランスがすごくいいと思うんですよ」
AZUpubschool「それは大事にしているところです。COR!Sも僕も曲を作ることができて、メロディーが書けて……と何でもやるんですけど、最近はお互いの能力がさらに近くなってきて、より何でも任せ合えるようになってきました。確かに最初は、僕がフックを付け加えるのが得意だったんですけど、いまはCOR!Sもそれをやっているし、逆に僕は自分のヴォーカルの補正をやったりするようになったし。お互いのできることがすごく近くなってきているんです」
COR!S「KiWiがあることで、個人で作っている音楽も変わってきているのを感じますね」
AZUpubschool「例えば、マッド・ディセントやグッド・イナフから僕らが発表した音楽は、わりとアゲるタイプの音楽が多いんですけど、僕はもともと、そういう音は作ったことがなかったんです。COR!Sがそういったサウンドを推していたということもあって、マッド・ディセントからリリースすることになった後に、自分でもそういう音楽を採り入れてみようと思うようになったりもしました」
――実際、『March』に収録された“魔法のキウイ”には、切ないイントロに続いてマッド・ディセントの作品に多いトラップ的な要素が加えられていますね。
COR!S「そうですね。この曲はアルバムに際してアレンジを変えるときに、そういう自分たちが新しく採り入れた音楽の要素も入れておきたいなと思ったんです」
AZUpubschool「僕らはユニットを始めてからもずっと、KiWiのサウンドとはどんなものだろう?と考えてきたので、今回の作品を聴けばその過程が見えるというか。最初の頃は可愛い曲が多いですけど、そこにトラップの要素が入ってきたり、クラシックの要素を付け足そうと思って制作したシングル『KiWi物語』ではまったくダンス・ミュージックではない(映画の劇伴のような)曲もたくさん作ったりしていて。トラップ的なサウンドの代表が“魔法のキウイ (Album Version)”で、ダンス・ミュージックではない曲の代表がMV曲にもなった1曲目の“KiWi物語”ですね」