Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC

 

全身写真家の覚悟が伝わるドキュメンタリー

 「生きる伝説」という言葉は安易に使われすぎる風潮があるが、この人こそはその言葉がふさわしい。ロバート・フランク、92歳の現役写真家。そのフランクの貴重なドキュメンタリーが完成し、日本でも公開となる。

 フランクは決して順風満帆な人生を送ってきたわけではない。1924年、スイスのチューリッヒに生まれた彼は、47歳でアメリカに移住。これまた伝説的なアート・ディレクター、アレクセイ・ブロドヴィッチ(彼もロシアからの移民だ)の元で『ハーパース・バザー』のアシスタント・カメラマンとしてキャリアを始め、50年代に全米を旅して撮影した写真集『The Americans』を58年に発表し賛否両論を巻き起こす。50年代というアメリカの黄金時代において、彼が示したアメリカ人像は、あまりに生々しく、貧しく、苦しみを抱えた姿だった。それゆえ当時は酷評された写真集となったのだが、徐々に評価を得て、今ではそこに掲載されたプリントが、クリスティーズのオークションで55万ドルもの値が付いで売買されるほどまでになった。

Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC

Photo of Robert Frank and June Leaf by Robert Frank, copyright Robert Frank

 またフランクの大きな功績は、写真だけでなく優れた映像作品を多数残していることだ。ビート文学の作家たちと共同作業した『プル・マイ・デイジー』をはじめとする様々な短編に加えて、ローリング・ストーンズのドキュメンタリー『コックサッカー・ブルース』を監督するが、あまりに過激な内容から一般公開は中止。ただし、様々な海賊版が出回っており、中でもキース・リチャーズがツアー中の宿泊先のホテルの部屋からテレビを投げ捨てるシーンは有名になった。

 フランクは他にもレバノン内戦などの戦場レポートも手がけ、カルチャーの最前線から血なまぐさい戦場まで、時代の光と影をリスクをとって描く記録者として名声を得る。また写真、映像に加えて、彼の詩情溢れるテキストが加えられた写真集や、テキストを直接プリントの上に刻んだり、ペイントしたりする独自の表現方法も評判になり、単なる写真家の枠を超えた存在と見なされる。

Photo of Robert Frank by Ed Lachman,copyright Assemblage Films LLC

Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler,copyright Assemblage Films LLC

 このドキュメンタリー映画『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代』は、そんな全身写真家の半生を追いかけた力作。時代の大きなうねりも、自らのプライベートなことも、すべて写さずにはいられない全身写真家の悲喜こもごもを映画は実に温かい眼差しで捉えている。観る者は、90代を超えてもなお彼の写真家として生き抜く姿勢に心を鷲掴みにされるだろう。それは、まさにこの写真家の生き様を見つめ続けることに「Don't Blink(瞬きしないように)」と囁くかのようだ。

 

映画『Don't Blinkロバート・フランクの写した時代』
監督:ローラ・イスラエル 撮影:リサ・リンズラー、エド・ラックマン
編集:アレックス・ビンガム 音楽プロデューサー:ハル・ウィルナー
参加アーティスト:ヴェルヴェット・アンダーグラウンド/ローリング・ストーンズ/トム・ウェイツパティ・スミスヨ・ラ・テンゴミィコンズニュー・オーダーチャールズ・ミンガスボブ・ディランザ・キルズナタリー・マクスタージョセフ・アーサージョニー・サンダースザ・ホワイト・ストライプス
配給:テレビマンユニオン (2015年 アメリカ・フランス 82分)
配給協力・宣伝:プレイタイム
(C)Universal Studios.
◎ 4/29(土)よりBunkamura ル・シネマほか全国ロードショー!
robertfrank-movie.jp/