©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

彼女の視線は、時代の先を見据えていた──最新のドキュメンタリーから見えてくるノーマ・ジーンが作り上げた、圧倒的な存在感を放つマリリン・モンローという女優

 マリリン・モンローの代名詞とも言うべき初主演映画「ナイアガラ」で見せた〈モンロー・ウォーク〉は、実は左右のヒールの高さを変えて、歩く時にお尻が振れるようにしたというのは有名な話です。これは何を現わしているのかというと、マリリンの類い稀なるセルフ・プロデュース力ではないでしょうか。もうひとつ例を挙げれば、あの有名なヌード写真のポーズは当時のコロムビア映画の大スター、リタ・ヘイワースの「カバーガール」からインスパイアされたものです。そして、そのヌード写真がスキャンダルとなった時のリカバリー術も見事なまでの自己防衛力というわけです。

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 それらを教えてくれるのが生誕99年を迎える今年、新たに公開されるマリリンのドキュメンタリー映画です。タイトルは「マリリン・モンロー 私の愛しかた」。その作品を見ると、いかにノーマ・ジーンという少女がマリリン・モンローという女優を作り上げ、演じ続け、囚われていったかを実感します。専属契約をした20世紀フォックス映画社が作り上げたスターだと思っていたのに、実は彼女自身の意図で大衆が抱くイメージを見事に体現してスターの座に上り詰めたのではないかと、次々に登場する実写映像が語りかけてきます。

 実際、彼女の出演作(主演ではないです)を見ていると、登場した瞬間に画面が彼女に持っていかれるのが良く分かります。「アスファルト・ジャングル」の黒いドレス姿しかり、「ショウほど素敵な商売はない」での名ミュージカル・ナンバー“Heat Wave”しかりです。そのセクシーという言葉だけでは語り切れない圧倒的存在感です。それをマリリンは自分で知っていたんだと思います。

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 映画は1962年8月4日に亡くなるまでを時系列で見せてくれます。映画史として語り継がれてきた部分は、多くの映画ファンにとっては先刻承知の事ですが、やがて「お熱いのがお好き」で共演するトニー・カーティスと、こんなにも早く出会っていた(ハリウッド村って狭い所ですね)などと、本人の口から語られる貴重な映像もあります。そしてなんと言っても出演作の名場面をきちんと見せてくれているのが大変嬉しい。

 実はこのドキュメンタリー映画を一番に見て欲しいのは、マリリンを〈ファッション・アイコン〉としか知らない世代の方々なのです。宣伝文句に〈本当の彼女を知っていますか〉とあります。この〈本当の彼女〉とはプライベートな部分などではなく、映画の中で歌い、踊り、笑わせて数々の作品を輝かせた女優・マリリン・モンローだと言えませんか?

 というわけで最後にマリリン未経験な方に、このドキュメンタリー鑑賞後に見るべき作品3本(本当はもっとだが)をご紹介。

 チャイニーズシアターにジェーン・ラッセルと仲良く手型を残した「紳士は金髪がお好き」。次は珍しいジーンズ姿に見とれる「帰らざる河」、そして最後はアメリカのコメディ映画ベスト1に選出された「お熱いのがお好き」です。いかがでしょう、楽しめますよ。

 


MOVIE INFORMATION
映画「マリリン・モンロー 私の愛しかた」

監督・脚本・編集:イアン・エアーズ
プロデューサー:エリック・エレナ
出演:マリリン・モンロー/トニー・カーティス/ジェリー・ルイス/ジョージ・チャキリス/ジェーン・ラッセル
原題:DREAM GIRL: THE MAKING OF MARILYN MONROE
©2023-FRENCH CONNECTION FILMS
字幕翻訳:星加久実/字幕監修:田村千穂
配給:彩プロ
(2022/フランス/英語・フランス語/ワイド/120分/ステレオ/映倫:G)
https://marilynmonroe.ayapro.ne.jp/
2025年5月30日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー