戦わないヒップホップ。愛し合うためのヒップホップ。メロウな鼓動に穏やかな人間味がそっとたゆたう。その瞬間、何気ない日常が優しく淡い色彩を帯びはじめ……

 ヒップホップ・バンド、韻シストのフロントマンとしてはもとより、ソロでも作品を残すBASIが、新作を完成させた。年に一枚という制作ペースに重きを置いた過去4作を経て、「目の前の一曲一曲にこだわってやっていくことにシフトした」と語る新作『LOVEBUM』は、約2年半ぶりとなる5枚目のソロ・アルバムだ。みずからの「第1期の集大成」だという今作は、タイトルにも掲げる〈LOVE〉をテーマの中心としたもの。その成り立ちに大いなるインスピレーションを与え、彼の背中を押したのは、韻シストとして数々のステージや楽曲制作を共にしたCHARAの存在だという。

BASI LOVEBUM BASIC MUSIC(2017)

 「CHARAさんは始まりから今もなお愛についてずっと考えてステージでも表現してる。ヒップホップって戦うイメージが強いし、ATCQの『The Love Movement』とかはありましたけど、〈LOVE〉っていうワードはデリケートなもの。自分も最終的にラッパーとして愛の域まで辿り着きたいし、そこに飛び込むフェイズに入ったと思ってますね」。

 アルバムの制作でキーとなったのが、先行カットの“Fallin'”。ここでは、ふとPVを目にしたバンドに一瞬で心を奪われて始まる女性の物語が、WATT a.k.a. ヨッテルブッテルのスウィートな音に温かく寄り添う。確かな手応えを得たこの曲を機に、WATTとの制作は今回4曲に及んだ。

 「前作の『MELLOW』を出して半年後ぐらいにWATT から〈自分の作品に参加してくれないっすか?〉って4曲ぐらいビートが送られてきた中で、〈このビートは俺のアルバムで使わせてくれへん?〉って話したのが“Fallin'”なんですけど、あのトラックと〈fall in love〉っていう声ネタがリリックを引き出したっていうのが近くて。それがきっかけになって、アルバムも自然とそっち(LOVE)のほうに向いていきましたね」。

 何年かぶりに交流した906から送られてきたメロウなビートに〈どうにかあなたに届いて欲しい〉と切なる思いを託す“たゆたう”。BASIにとっては「言いたいことが言える弟みたいな存在」であり、“Fallin'”のMVも手掛けるISSEIのネタ使いにメロディアスなサビが淡く溶けゆく“BLUE”。AFRAの和やかなヒューマン・ビートボックスに包まれる“WINTER”や、TAKU a.k.a. K-City Prince(韻シスト)と10年以上温めてきた構想がようやく陽の目を見たという慎ましいラヴソング“花束”。さらには、ラッパーとしての気骨を覗かせる“B-BOY LOGIC”——それもこれも、「自分自身というよりは、トラックが求めてるような言葉をイメージする」ことから始まるという曲作りが呼び寄せた結果の産物に他ならない。

 「鳴ってるコード感とかウワモノが求めてるであろう言葉とかを無視して好きなように乗せるラップもあると思うんですよ、すっげえメロウなトラックにむっちゃハードなライムが乗ってたりとか。でも自分のラップは、ビートに溶けるような、馴染むような、滲んでいくようなもの。だから、ある意味では抽象的なんでしょうし、ある意味では思うがままで、結果ストレートになってるっていう感じ。友達とか周りの人が昔ああいうこと言ってたよなとかっていうのが頭に入ってて、そこから過去の経験とか思い出を無意識にサンプリングしてるのもあると思います」。

 本作について、「フリースタイルっぽいものやバトル・モードのものを若い世代は求めてるんやろうし、そこが今なんでしょうけど、そういう子たちが歳月かけていろんなものを聴いた先で、〈ここに名盤あったわ〉って思わせたい」とも語ったBASI。韻シストとしても、自身の音楽キャリアとしても来年迎える活動20周年を前に、「どういうふうに音と一緒に歳を重ねていくか考えるのが最近すごく楽しい」と話を続ける。

 「ツアーでいろんなとこを回る中で脈々と自分の音楽が世代を越えてることに電気が走ったというか……長く続けてたらこんな域に来るんやな、って。そこで、さらに思いっきり自分の好きなことをやったるって気持ちと、小っちゃい子たちにエエ音楽を聴いて育ってもらいたいって気持ちも芽生えてる。いままでは進化やったかもしれないですけど、これからはどんどん変化していくと思います」。

 

BASIのソロ作。

 

『LOVEBUM』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

BASIの参加した近作を一部紹介。

 

BASIがメロウな愛の域に辿り着くまで

BASI RAP U BASIC MUSIC(2013)

ソロ名義での3作目。『ひとつになるとき』と“ゆれる”が絶賛されていたEVISBEATSに半数以上のトラックを委ね、溢れる詩情を優しく注ぎ込む。そのなかでレジェンドの茂千代を招いた“夜明け前”も印象的だ。いわゆるヒップホップらしさの希薄な〈どんな音か想像させるジャケ〉もここから。

 

BASI MELLOW BASIC(2014)

表題そのものズバリな4作目。BASIとはDesign名義でコラボ作も出している東里起(Small Circle of Friends)が全編を手掛け、洗練されたジャジーなループと落ち着いた語り口で“果てない”などの名曲をものにしている。同年にBASIC MUSICでアルバムを出したZIMBACKの好演も。

 

WATT a.k.a. ヨッテルブッテル 栞 諭吉(2015)

NORIKIYOとの仕事で名を上げたMC/ビートメイカー。狂おしいソウル・ループの心地良さと共に日常感に満ちた自身のラップも魅力的な本作では、“待ち合わせ”にBASIをフィーチャー。本文にもあるように、今回の『LOVEBUM』で実に4曲を手掛けるきっかけにもなった。

 

Small Circle of Friends Silence 75 records(2016)

『VOICERATION』『MELLOW』の立役者であり、新作でも“SING ALONG AGAIN”を手掛けた東里起を擁するユニット。90年代には〈渋谷系ラップ〉と呼ばれた感性が現行のメロウネスで結び付く様子は興味深い。こちらにBASIの参加はないが『LOVEBUM』と併せて聴きたい一枚だ。

 

韻シスト CLASSIX groovillage(2016)

現在はBASIとサッコンの2MC+演奏陣という編成で20周年を控えるバンド。PUSHIM主宰レーベルと契約した久々のメジャー作ながら、心地良さを自由に追求する姿勢は変わらず。サッコンもCHOP THE ONIONや大阪☆春夏秋冬の作品でメロディアスな手腕を発揮している。

 

YOSA Orion OMAKE CLUB(2016)

CHOP THE ONIONとの長い縁を挙げるまでもなく、BASIのメロウネスはOMAKE CLUBの音世界にも通じるものがある。本作では“運命”に客演。なお、YOSAのメロウなミックスCD『CITY HIP POP MIX』にはSTUTSらの曲と並んでTHE BED ROOM TAPE×BASIの“Free”も収まっていた。