戦わないヒップホップ。愛し合うためのヒップホップ。メロウな鼓動に穏やかな人間味がそっとたゆたう。その瞬間、何気ない日常が優しく淡い色彩を帯びはじめ……
ヒップホップ・バンド、韻シストのフロントマンとしてはもとより、ソロでも作品を残すBASIが、新作を完成させた。年に一枚という制作ペースに重きを置いた過去4作を経て、「目の前の一曲一曲にこだわってやっていくことにシフトした」と語る新作『LOVEBUM』は、約2年半ぶりとなる5枚目のソロ・アルバムだ。みずからの「第1期の集大成」だという今作は、タイトルにも掲げる〈LOVE〉をテーマの中心としたもの。その成り立ちに大いなるインスピレーションを与え、彼の背中を押したのは、韻シストとして数々のステージや楽曲制作を共にしたCHARAの存在だという。
「CHARAさんは始まりから今もなお愛についてずっと考えてステージでも表現してる。ヒップホップって戦うイメージが強いし、ATCQの『The Love Movement』とかはありましたけど、〈LOVE〉っていうワードはデリケートなもの。自分も最終的にラッパーとして愛の域まで辿り着きたいし、そこに飛び込むフェイズに入ったと思ってますね」。
アルバムの制作でキーとなったのが、先行カットの“Fallin'”。ここでは、ふとPVを目にしたバンドに一瞬で心を奪われて始まる女性の物語が、WATT a.k.a. ヨッテルブッテルのスウィートな音に温かく寄り添う。確かな手応えを得たこの曲を機に、WATTとの制作は今回4曲に及んだ。
「前作の『MELLOW』を出して半年後ぐらいにWATT から〈自分の作品に参加してくれないっすか?〉って4曲ぐらいビートが送られてきた中で、〈このビートは俺のアルバムで使わせてくれへん?〉って話したのが“Fallin'”なんですけど、あのトラックと〈fall in love〉っていう声ネタがリリックを引き出したっていうのが近くて。それがきっかけになって、アルバムも自然とそっち(LOVE)のほうに向いていきましたね」。
何年かぶりに交流した906から送られてきたメロウなビートに〈どうにかあなたに届いて欲しい〉と切なる思いを託す“たゆたう”。BASIにとっては「言いたいことが言える弟みたいな存在」であり、“Fallin'”のMVも手掛けるISSEIのネタ使いにメロディアスなサビが淡く溶けゆく“BLUE”。AFRAの和やかなヒューマン・ビートボックスに包まれる“WINTER”や、TAKU a.k.a. K-City Prince(韻シスト)と10年以上温めてきた構想がようやく陽の目を見たという慎ましいラヴソング“花束”。さらには、ラッパーとしての気骨を覗かせる“B-BOY LOGIC”——それもこれも、「自分自身というよりは、トラックが求めてるような言葉をイメージする」ことから始まるという曲作りが呼び寄せた結果の産物に他ならない。
「鳴ってるコード感とかウワモノが求めてるであろう言葉とかを無視して好きなように乗せるラップもあると思うんですよ、すっげえメロウなトラックにむっちゃハードなライムが乗ってたりとか。でも自分のラップは、ビートに溶けるような、馴染むような、滲んでいくようなもの。だから、ある意味では抽象的なんでしょうし、ある意味では思うがままで、結果ストレートになってるっていう感じ。友達とか周りの人が昔ああいうこと言ってたよなとかっていうのが頭に入ってて、そこから過去の経験とか思い出を無意識にサンプリングしてるのもあると思います」。
本作について、「フリースタイルっぽいものやバトル・モードのものを若い世代は求めてるんやろうし、そこが今なんでしょうけど、そういう子たちが歳月かけていろんなものを聴いた先で、〈ここに名盤あったわ〉って思わせたい」とも語ったBASI。韻シストとしても、自身の音楽キャリアとしても来年迎える活動20周年を前に、「どういうふうに音と一緒に歳を重ねていくか考えるのが最近すごく楽しい」と話を続ける。
「ツアーでいろんなとこを回る中で脈々と自分の音楽が世代を越えてることに電気が走ったというか……長く続けてたらこんな域に来るんやな、って。そこで、さらに思いっきり自分の好きなことをやったるって気持ちと、小っちゃい子たちにエエ音楽を聴いて育ってもらいたいって気持ちも芽生えてる。いままでは進化やったかもしれないですけど、これからはどんどん変化していくと思います」。
BASIのソロ作。
『LOVEBUM』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
BASIの参加した近作を一部紹介。