Still CaravanはトラックメイカーのHiGASHiを中心に、Takashi Tsurumi(ヴォーカル/ギター)、Ryosuke Kojima(ベース)、Hiroaki Nakahara(キーボード)、そして先日新加入したドラムスのHironori Momoi(桃井裕範)からなる5人組。ヒップホップをはじめとするさまざまなジャンルとクロスオーヴァーするジャズ・バンドとして、注目が急上昇しているグループだ。
2017年1月に発売された彼らのセカンド・アルバム『EPIC』は、ジャズ、ヒップホップ、インディーズ・シーンまでコネクトする多彩さが魅力の内容だ。それは、近年話題にされる日本の次世代バンドの方向性――例えばシティー・ポップやブラック・ミュージックの影響を感じさせながらも、ポップにアップデートされた音楽性に共振するもので、バイヤーたちの熱いプッシュとともに、ファンを全国的に拡大させる話題作となっている。
新鮮に映るブラック・ミュージック解釈
その楽曲のヴァラエティーの広さといったら驚きで、上モノの美しい旋律が印象的なジャジーなアプローチから、海外ゲストを迎えたエッジーなラップ・ソング、70年代風クロスオーヴァー/フュージョン、カントリー調のアコースティック・ポップスまで、さまざまな切り口のトラックが繰り出される。どれも多くのリスナーの心を掴むキャッチーさがありながら、なかにはアジムスを彷彿させるトラックや、デバージ“I Like It”のカヴァーも。2015年の初作『Departures』ではユセフ・ラティーフ“Love Theme From Spartacus”も披露しており、DJカルチャーを通過した世代の耳にも痛快だ。
もともとが2MCを主体とするヒップホップ・チームであり、その後バンド体制で仕上げた曲が、叙情的でメロウなトラックに定評がある人気コンピレーション・シリーズ〈IN YA MELLOW TONE〉に収録され評価されたという経緯からも、ジャジー・ヒップホップを基調とした音作りに長けたバンド、というイメージもあった。
Still Caravanと引き合いに出されるSuchmosやWONKなどといった次世代バンドよりも、さらに細分化されたブラック・ミュージック解釈=ジャジー・ヒップホップ、レアグルーヴ層にまでコミットするようなアプローチはとても新鮮に映る。しかもそのバンドにNY第一線のジャズ・シーンを知るMomoiの加入が決まったとあって、ますます今後の活動が気になるところだ。
Still Caravanに大塚広子がインタヴュー
今回は新体制の初お披露目ライヴとなった、4月23日(日)開催のイヴェント〈CONNECT 歌舞伎町 MUSIC FESTIVAL 2017〉でのステージを鑑賞後、メンバーへ取材を敢行。まずはそれぞれの音楽性のルーツについて訊いてみた。
Hiroaki Nakahara(キーボード)「大学まで吹奏楽部の打楽器担当でした。勉強していたクラシックはもちろんそうですが、ディープ・パープルやミスター・ビッグなんかも聴きます。オジー・オズボーンのドラムをコピーしたり」。
Ryosuke Kojima(ベース)「プログレッシヴ・ロックやプログレッシヴ・メタルにドリーム・シアターも好きです。現代ジャズのカート・ローゼンウィンケルなんかも聴きますね」。
Takashi Tsurumi(ヴォーカル/ギター)「僕は戦前のブルースからジェフ・ベックなど、ギターをメインにしているものをジャンル問わず耳にしていました」。
HiGASHi(トラックメイカー)「レッド・ツェッペリンなんかの、枯れた感じの時代の音に魅力を感じます。以前70sのロック・バーで働いていましたし。ヒップホップでもその頃の音を活かしたものを聴きますね。オセロの『Alive At The Assembly Line』(2006年)が好きで、ここでコラボしているポートランドのバンド、ブラック・ノーツがすごくいいんですよ」。
Hironori Momoi(ドラムス)「ジョー・ヘンリーやザ・バンドとか、ジャズ以外のビート系や歌モノのロックも好きなんです。今日ライヴして思ったんですが、ザ・バンドがヒップホップの時代を通ってきたら、こんな音楽をしているかもしれない」。
彼らのように今注目されるミュージシャンは、作品の表面的な質感だけでは計り知れない多面的な音楽性を持っているようだ。Still Caravanのメンバーたちは、流行りの音楽よりも再評価された過去の音楽を参考にすることも多いという。
HiGASHi「上の世代の人たちから聴かせてもらったり、提案されるレコードの曲をアウトラインにすることもあります。その方向性を決めたら、あとはとにかくそれぞれで演る。結果、もとの曲とは違うディテールのものが出来上がるんです」。
DJ世代と共通の感覚をもとにしながらも、それに捉われない自由な方法によって『EPIC』のような多彩でポップな作品が生まれるのだろう。
HiGASHi「もともとStill CaravanにはDJがいて。彼のレコードだらけの部屋に通って、いろんな曲を聴かせてもらいました。〈今UKで流行っているヒップホップはこれだ〉とか。でも僕はそのレコードの名前まで覚えないんです。気になったビートのグルーヴだけ持ち帰って、自分のフレーズを家でずっと作っていました」。
HiGASHiとは高校の同級生であるKojimaはこう添える。
Kojima「HiGASHiは(みずから)音を出しておもしろいことをやりたいというタイプ。高校時代はハードコアのバンドで7弦ギターを鳴らしてましたし(笑)。彼はリフや素材をずっとPCに録り貯めてきたので、僕たちの音楽はレコードからというより、HiGASHiのPCから掘り出しています」。
HiGASHiは音そのものに魅力を見出し、生演奏というアウトプットを第一に考えた素材を、昔から選び取っていた。
HiGASHi「大学のとき、流行っていたソウライヴの演奏を観てエリック・クラズノのギターに惹かれたんですが、Tsurumiのギターってそんな感じなんです。暴れないけど、確信をついてくる。コードでもいいところが抜けてて、それがむしろカッコいい」。
特定のミュージシャンやジャンルに固執せず、耳にするものの多くを自分の素材として取り込んでいったというTsurumiが放つ音は、時に生きたサンプリング・ソースとなって、Still Caravanの輪郭を描いてきた。そしてその中に色を付けていくのは、キーボードのNakaharaだ。
Kojima「Nakaharaは、ピアノにギターのマルチ・エフェクトをつけて歪ませた音を出していて、すごくカッコ良かったんです。それで声をかけて今に至ります」。
クラシックからヘヴィー・メタルまで取り込み、打楽器やマリンバも演奏できるNakaharaだが、「Still Caravanではクリーンなトーンを意識しています。あまりジャズに寄りすぎず、キャッチーさがあって心地よいジャズ的なものをやりたいんです」と語る。彼はフロントマンのTsurumiとともに、ヴォーカル&コーラスとしてバンドに歌心を詰め込む役割も担っている。そして、彼らの多彩な個性を見事にまとめ上げているのがベースのKojimaだ。ベースだけでなくキーボードも操り、作品のミックス~マスタリングまで担当している。
Kojima「メンバーそれぞれの色が出た荒い状態から曲ごとの音質の奥行きを調整したりしながら、バンドとしての最低限の共通点を決めて一つにまとめています」。
Kojimaがハブとなっていることで、メンバーたちの狙いを崩さず、テンポよく作品づくりができているのだ。そんなバンドに、ヴォーカルからドラム、ギター、コンポーズまでこなすジャズ・シーン注目のドラマー・Momoiが加入した。
Momoiは、NYでケンドリック・スコットに師事し6年以上の間ブルックリンやNYの著名クラブでトップ・プレイヤーたちと共演してきた。2013年に現地でリリースされたリーダー作『Liquid Knots』では、ドラマーとしてだけではなく、各メンバーの個性を引き立たせるコンポーザーとしての手腕も高く評価されている。2015年に帰国してからは山中千尋トリオや、中森明菜の楽曲に参加しながら、最近では自身のバンド・Potomelliでギター/ヴォーカルを務める多才ぶりだ。
★柳樂光隆による連載【〈越境〉するプレイヤーたち】での桃井のインタヴュー
HiGASHi「僕は軽音楽部で、TsurumiとMomoiは同じ上智大学のジャズ研でした。卒業後MomoiはNYへ、Tsurumiと僕は曲作りのために館山に移住したりと別々の環境にいながらも交流は続いていて、Momoiが帰国した後館山で2人のセッションが実現したんですが、ジャズとは違った自由な感じのインプロで、すごく良かったんですよ」。
NYの経験と日本のジャズ・シーンを俯瞰しながら、Momoiはこう続けた。「例えばNYのSmalls※が満員の日でも、来ている客の大半がミュージシャンだったりすることもあるんです。そんな現実もふまえて、僕は日本ではいろんな人がいるところで演奏したいと思っていて。もともと好きだった歌モノの可能性を広げるようなこともやりたかったし、ライヴハウスのような大きいスケールを意識していたので、そういう意味でStill Caravanへの加入はとても魅力的でした」。
※93年オープンのジャズ・クラブ
新境地見せたライヴと今後の展望
この日のステージは、彼らの新境地を感じさせる可能性に満ちたものだった。3人のコーラスで臨んだヴォーカル・ナンバー“Share My Soul”は、メンバー一同熱いものを感じたと言うように、声質の違いが重層的なレイヤーを生む圧巻の仕上がり。さらに各楽器と、AKAI MPCを通した打ち込みの音が有機的に絡まる様子はたいへん観応えがあった。同じピアノでも生音とサンプリングが渡り合うソロや、ビート音とドラムが重なりあうことで生まれるダイナミクスなど、ライヴとして可視化されることで発見できるエンターテイメント性も備えている。退場シーンも、メンバーが一人また一人と消え、残されたHiGASHiのMPCのサウンドが残る印象的な演出だった。
そんなライヴを終えた彼らは、希望に満ちた清々しい表情でバンドの展望を語ってくれた。
HiGASHi「この体制になって、歌を前面に出した曲もできるし、サンプリングと生演奏の可能性もさらに追求できるし、楽しみでしょうがない。それに一曲の中で20秒だけ現代ジャズのパロディーをやろうぜ、なんてこともおもしろくできるかもしれない」。
エンジニアや複数の楽器を操れて歌も歌えるなど個性豊かなメンバーが集まるStill Caravanは、まるでMPCを手にしたザ・バンドのように、これから無限の可能性を追求する。
LIVE INFORMATION
〈HARLEY-DAVIDSON BLUE SKY HEAVEN 2017〉
日時:2017年5月20日(土)
会場:静岡・富士スピードウェイ
出演:Still Caravan、Gotch、 シシド・カフカ、Azumi、大久保初夏(SHOKA OKUBO BLUES PROJECT) and more
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〈「IN YA MELLOW TONE 13」release party〉
日時:2017年6月4日(日)
会場:東京・渋谷CIRCUS TOKYO
開場・開演:18:00
出演:
【LIVE】
GEMINI、re:plus(BAND SET)、Still Caravan and more
【DJ】
CM Smooth(PLANT RECORDS/STORE One)from OSAKA、SASAKI JUSWANNACHILL、and more!
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