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〈ギターっぽいギター〉がどんどん好きになってきている

井上「『STEREO CHAMP』をバンド・メンバーや関係者を除いていちばん初めに聴いてもらったのは西田くんで。最初に聴かせたいと思った自分がいたんですよね」

西田「もらった日に全部聴いて、すぐ感想のメールを送りました(笑)。このアルバムの魅力はいろいろあると思うんですけど、俺が好きだったのは2曲目の“Comet 84”。ジミヘンの“Little Wing”みたいなところがあるんですよね」

井上「気付いた!? 俺言ってないよね!? “Comet 84”では“Little Wing”のコード進行の一部分をキーだけ変えて使っているところがあって。誰に最初に気付かれるかなと思ってたんですよ」

西田「50秒くらいのところだよね。やべー“Little Wing”来たよって興奮した」

井上「すごい。キーもリズムも全然違うからメンバーも気付いてなくて」

西田「アルバムの序盤は銘くんの好きなブルース・ロックでかましに来ていて、“Comet 84”は超スリリングですよね。俺、ジェフ・ベックが『Wired』(76年)を録る前にスタンリー・クラークと一緒にやっていたっていう話がすごく好きなんですけど、そんなふうに生々しくジャンルがぶつかっている感じがする。“Comet 84”は(渡辺)ショータくんと銘くんの掛け合いがロックぽくもあるし、ジャズっぽくもあって印象的でした。あと鍵盤とギターの複雑なフレーズがあって、途中で“Little Wing”みたいなパートが来て、ジャムっぽくなって類家(心平)さんのトランペットが炸裂して、最終的にまたテーマに戻るじゃないですか。その構成が好きなんです。ツェッペリンが“Heartbreaker”で、ソロが終わった後に戻るのも同じだと思いますけど、そういうテーマに戻るカタルシスみたいなのも入っているし」

※75年作『Blow By Blow』のツアーの後、スタンリー・クラークの『Journey To Love』のレコーディングに参加したジェフ・ベックはスタンリーとのセッションでジャズ/フュージョンへの傾倒がより強まった

――わかります。

西田「あとは例えばベースがいい演奏をした時とかに他のプレイヤーがニヤリとしているような感じが伝わってくる音源だなと思いましたね。マンネリしてない、でも確かにバンドのワクワク感みたいなものが収められていて、そこがやっぱりすげえ好きです」

井上「あー。確か3曲目“REMM”あたりに(福森)康くんの声が入っているところがありましたね。マンネリどころか全員でのリハーサルを1回したあと、2本ライヴをしてすぐにレコーディングだったので、ワクワク感は確かにあったと思います」

西田「3曲目“REMM”ではバンドのリラックスした感じが伝わってきますよね」

井上「いつもアルバムの曲順は、起伏ができるように意識していて。以前、冨田恵一さんが〈音楽の情報量をコントロールしてる〉と話していましたけど、自分もそういうのは大事にしているんです。そこは普段のライヴのセットリストでも意識しているし、自分のアルバムをレコーディングする時も曲作りの段階で先に曲順も決めてるんですよ」

西田「そうなんだろうなと思っていました。銘くんのアルバムもライヴもすごく一貫した流れがあるので」

井上「ライヴをやっていて、いまこういう曲が足りない、本当はここでスピードある曲があったらもっといいライヴになるのになっていうのに対して曲を書いていくと、アルバムになるんです」

井上銘GROUPの2016年のライヴ映像
 

――小西(遼)さんも、クラクラで俺たちがとにかく音を足していくのを銘くんが減らしてくれる、そういう取捨選択のジャッジをしてくれる、と言っていましたね。さらに、トータルで考えるとこういう曲が足りないからこういう曲を作ろうみたいな、全体を俯瞰した提案も銘くんが出してくれると。

井上「自分はそういうやり方が好きなんだと思います。クラクラはわりと鍵盤のイメージで作られている曲が多くて、小田さんも歌ってるし小西くんもいろんな楽器で忙しいから、アンサンブルの紐の締め所はギターだけ弾いてる俺が責任を持ってやりたいと思っていて。そういう鍵盤ライクな曲をギターが支えているというのがこのバンドのおもしろさのひとつかなって」

――クラクラもそうですが、『STEREO CHAMP』も鍵盤が強い音楽ですよね。

井上「そうですね。俺は逆にあまりギターの強い音楽をやったことがないかもしれないです。自分のアルバムを聴いていても鍵盤が強いから(笑)。どちらかというとこれまでジャズを多くやってきた経験から、ギターっぽくない感じでギターを弾きたかったんです。ピアノのハーモニーに憧れたりもしたし、サックスのアドリヴとか、そういうのがカッコイイなと思っていた。それがここ2年くらいで変わってきて、〈ギターっぽいギター〉がどんどん好きになってきてるんです。だからいまはブルースとかもよく聴くし、西田くんに会ったのも、出会うべくして出会ったタイミングだったというか」

西田「〈ギターっぽいギター〉というのはわかりますね。これからはそこなんじゃないかって強く思っています。いまこそギターがすごくおもしろいことをできるタイミングなんじゃないかな。他の楽器に音色を似せていくのもおもしろいけど、ギターっぽさをガッと出せるミュージシャンが今後は存在感を増していくように思うんです」

井上「身近な人でいちばんギターらしいカッコ良さでギターを弾ける人は西田くんだと思っているけどね」

西田「またまた(笑)!」

吉田ヨウヘイgroupの2014年のライヴ映像
 

――確かにこのアルバムには〈ギターでやれること〉〈ギターでしかやれないこと〉がいっぱい入っていますよね。僕の印象を話すと、最初に井上銘さんを観た10代の頃のブルースやロックが好きな感じと、留学して戻ってきてからのコンテンポラリー・ジャズな感じと両方のライヴを見ているんですが、全然違う人に見えたくらいスタイルが変わっていたんですよ。でも、最近のライヴや『STEREO CHAMP』を聴くと、10代の頃の感じと20代の頃の感じが同居している気もするんです。これまで得てきたものが全部入っているというか。

井上「本当ですか。でも俺、高校生の時はコルトレーンの“Giant Steps”みたいなメカニックなものが好きで練習して弾いてたんですけど、初めてプロのバンドに入ったとき〈カッティングしろ〉って言われてもできなかったんです。ソロしか練習してなかったから(笑)。カッティングはできないし、エフェクターの使い方も知らなくて。それで(エフェクターを)2~3個買ってこいって言われて買って来ても、使い方が全然わからなくて。初めはそんなレヴェルでしたからね(笑)」

井上銘の2011年の初作『FIRST TRAIN』収録曲“FIRST TRAIN”
 

井上「とにかくギター・ソロが弾きたくてジャズを始めたから。ヴォーカリストとデュオでライヴとかするようになったのも本当にここ数年の話なんですよ。ヴォーカルの伴奏をするのも、高校生の頃とかは粋がっていて、一生やらない!と思ってました(笑)」

西田「でも銘くんはとにかくリズム感覚が良いし、バッキングの時もすげえ集中してるよね。以前、ソロでは好きなものをやってるけど、バッキングは難しいから集中してやってるんだと言ってたのがすごく印象的だった」

井上「難しく感じていたから集中してやっているうちに、最近やっと好きになりました。クラクラも曲自体がおもしろいからもはやソロを弾かなくていい気持ちになっているし、今はサポートの楽しさもわかりますね。周りのみんなのおかげです」

西田「『STEREO CHAMP』でも、むしろディティールでのワウの使い方でおっ!となったりすることが多い」

井上「ギター・ソロに思いっきりフォーカスした作品となると、今の自分にはあまり可能性が見えないんです。逆に、機能的にギターを使う方がもっと無限に曲を作れるような気がしていて」