日本のヒップホップを支える名匠を問えば彼の名が挙がるはず。地獄の底で溢れ返るアイデアを束ねた4枚目のリーダー作は、その意識を変える新たな分岐点となった!

かっこいい曲を作る

 「こういう感じでやっていこうと思った時には、甘い言葉とか甘いトラップに喰らった状況になってた」――発表されたばかりの新作『SWEET HELL』の制作を巡る状況についてそう口を開いたI-DeA。プロデューサー/エンジニアとして多くの作品を手掛ける一方で自身名義のアルバムも送り出し、今回の『SWEET HELL』は2013年の『12ways』以来4年ぶりのアルバムとなるが、同作はそもそも限定会員にコンテンツを提供する企画の一環で制作されたものだ。それゆえにオープンな形でのリリースは当然予定になかったが、ちょっとしたトラブルなどもあり、彼自身が一般発売を決断して今回のCDリリースに至った。

I-DeA SWEET HELL VYBE(2017)

 「ゴタゴタによって音源が埋もれていくのは本望じゃないんで……ここ半年、俺のヘルな状況を見てた多くの関係者の方々に助けられてこのアルバムをリリースできました。怒りより感謝の気持ちを持たなくてはって自分に言い聞かせてます。あと、結果的に迷惑をかけた人に謝罪の気持ちですね。ただ、音源に関しては、自信を持って良い仕上がりになったと思ってます」。

 もっとも、制作をめぐる環境こそ表題通りの〈HELL〉な状況だったとはいえ、楽曲の制作そのものにストレスはなかったそう。CD化に際しては楽曲も追加され、一部の既存曲にも新たな客演勢を迎えている。

 「アルバム自体のコンセプトはなかったっす。曲単位でラッパーにイメージを大まかに伝えて、それをどう捉えて曲に落とし込んでくれるか、レコーディングしてみてまた思いついたことをやったんで。とにかく〈自分が連絡つけられる人とかっこいい曲を作る〉というのがコンセプトといえばコンセプトっすかね」。

 時流を見据えながら振り幅広くビートを展開した前作『12ways』に比べ、多くの曲でサンプリング・ベースの作風をよりシンプルに響かせた今回のトラックメイクは、制作時期の彼のモードを映したものだという。

 「J・コールみたいなサウンドに超影響されてた時期だったんですけど、ビートの打ち方に関していままで通りの90年代の流れの打ち方でいくのか、メトロ・ブーミンみたいなトラップ寄りのサンプリングでいくか、ぶっちゃけちょっとブレてた時があって、これはその間を取った感じ。同じ頃にやってたBES君の『THE KISS OF LIFE』が30代オーヴァーの人が聴くような音楽性が多かったんで、そういう影響も無意識に入ったのかもしんないです」。

 表題曲など2曲で復調ぶりを覗かせるBESや、“Ma $hit”でマイクを握るSTICKYら勝手知ったる面々との共演は、歌詞も含めて地に足の着いたものに。CD化にあたり、道やL-VOKALら新たな客演も交えて作品を進めるなか、D.Oとの“DeA Boyz”はI-DeAみずからトピック出しをした曲とあって、特に思い入れが強いという。

 「少年が分かれ道に立ってて、まっすぐ見たら勉強をがんばっていい会社に入って順風満帆にいくかと思いきやトラップに引っ掛かって破滅する道、左を見たらスポーツがんばってプロでお金稼ごうと人生をかけるけど才能がないことに気付いてドロップアウトしてやさぐれる道、右を見たらストリートで人の裏切りや罠を乗り越えて人望を集めて成功する道と、現実はみんなが思ってる道じゃないようないろんな道があって何が正解かはわからないけど、選んだテメーがどんな壁も乗り越えていくぐらい本当にやりたいことを選んで進めって感じで思ってて、それをD.O君に伝えてあの曲が出来た。自分がトラックを作ってる時にイメージしてた世界観をD.O君が見事に曲にしてくれました」。

 

人生の使命

 さらにアルバム後半ではNORIKIYOや、GOKU GREEN改めGOODMOODGOKUがラヴソングを披露し、トピックの広がりに貢献。2曲で迎えたGOKUは、いずれの楽曲でも歌を聴かせている。

 「オートチューン使ってトラップ的なサウンドでやってる若い世代は、歌ってると言いつつもラップの延長というか、フロウのあるラップみたいな感じじゃないですか。そのなかでGOKUはより歌にヴェクトルが寄ってて表現の幅が広い。いまはBPM60~70ぐらいでもだいたい倍でビート打ってタテノリの感じになるけど、そこをあえて倍で打たずにハットもチキらせないトラックで、気怠い感じに歌うっていう、そこらへんの感覚も俺のトラックと相性がいいかなって」。

 先述の“DeA Boyz”を最たるものとして、“Where are you now Remix”におけるMEGA-Gの〈痛みに堪える日々の経験値ビタミンに変え/飲み込む現実〉というラインや、“Free”におけるMILES WORD(BLAHRMY)の〈昨日より今日明日明後日〉。そして“Wake”でSALUが歌う〈人生や芸術の先は君が思うよりもずっとずっと長い〉という一節と共に、D.D.Sが“Walk Remix”で吐く〈気づいたらまだ道の途中で/下手したらゴールなぞ無い事がANSWER〉というリリック……I-DeAいわく「同じ意識を持ってる」面々との曲が集まったこのアルバムは、苦難を越えて音楽と共にある彼自身の姿を映すものでもある。本作について「いろんなリリックがありますけど、薄まってはないと思うんですよ、ヒップホップという名の下においては」と彼が言うのも、つまりはそういうことだろう。

 「20代前半の時はいつまでヒップホップやってんのかって漠然と不安を抱えた状態でやってたけど、この年齢になってもやってるってことは、完全にこれが人生の使命なんだっていう。いまはもうヒップホップと共に死ぬっていう意識になったんで(笑)」。

 SEEDAのデビュー作『DETONATOR』(99年)を手掛けて名を上げてからキャリアは20年近くを数え、日本のヒップホップ・シーンをもっと大きくしたいという思いも芽生えてきたというI-DeA。そのために、「〈考えあんでしょ? じゃあ、すぐにかっこいいの作って世に出そうよ!〉ってラッパーのケツを叩くようなマインドでいたい」とも。本作に続いて9月にはKM$とのEP『GODS WORK』のリリースも控え、「いまはとにかく先に進みたい」と本作の話を締め括った。

 「『SWEET HELL』は、ここ半年の俺らはこんな感じの曲作ってました、くらいですかね(笑)。それぞれの曲でそれぞれ聴いてる人の人生とリンクして何か感じてもらえたら幸いです」。

『SWEET HELL』に参加したアーティストの作品。

 

膨大すぎるI-DeAワークスのごく一部をプレイバック!

I-DeA self expression  Pヴァイン(2004)

エンジニアとして腕を磨いた経験も踏まえて作り上げた初作。これに先駆けてアルバム2枚を手掛けていたSEEDAを“Whoa”などで猛プッシュする一方、EL DORADO人脈やその後も密に絡むMSC勢、降神、L-VOKALらの豪華な演者がズラリ。当時はDEV LARGEの“Ultimate Love Song(Letter)”が大きな話題になった。

 

SEEDA GREEN FLASHSOUNDS/Pヴァイン(2005)

2003年リリースの『Ill Vibe』に続くSEEDAの3作目は、確信を込めて〈I-DeA presents〉と自身の名も冠するほどの出来映えに。BACHLOGICとプロデュースを分け合う形で引き出した主役のエモーショナルな凄みは翌年からの飛躍に繋がった。

 

I-DeA Da FRONT and BACK 徳間ジャパン(2006)

メジャー・リリースとなったセカンド・アルバム。MSCやESSENCIALなど前作以上に参加ラッパーの色が絞られる一方、JAMOSA & JAY'EDやBOO & TARO SOULなど歌モノが増えたのも特徴か。とはいえシンプルで劇的な意匠はSCARSの面々と相性が良く、クルーでの“T.O.P”は同年に出る『THE ALBUM』の前哨戦にもなった。

 

SWANKY SWIPE Bunks Marmalade Pヴァイン(2006)

何度も抜擢していたBESが率いるトリオの初作。I-DeAが緊迫感に満ちたトラックを提供した“評決のとき”は作中を不穏にシメる人気曲だ。BESとはソロ作『REBUILD』(2008年)以降からエンジニアとしてより深く関わっていくことに。

 

NORIKIYO EXIT 諭吉(2007)

以降もたびたび絡み、新作中でも“花籠”に招いているNORIKIYOとの縁はここから。I-DeAはスキットも含めて3曲を担当し、なかでも“2 FACE”はソウルフルなネタ使いの導入部も効いた、メロディアスでブルージーな逸曲に仕上がっている。

 

SEEDA HEAVEN Pヴァイン(2004)

『GREEN』同様にBACHLOGICとプロデュースを分け合った傑作。I-DeAの手による7曲はブルージーな温かみを備えたものが多い。ひときわ晴れやかな“空”で歌っているLUNAとは、同じ年に名曲“I have a dream”を送り出してもいる。

 

鬼一家 赤落 赤落PRODUCTION(2008)

翌年の『獄窓』以降も関わっていくことになる鬼の出世作で、ここではマドンナを下敷きにしたクラシック“小名浜”をI-DeAがプロデュース。独特の語り口が漂泊するような物悲しいループに結び付き、ある種の文学性すら醸し出した名曲だ。

 

SCARS NEXT EPISODE SCARS(2008)

メンバーが揃わない状況下で制作されたクルーとしてのセカンド・アルバムで、I-DeAは“Lookin' back”などの5曲をプロデュース。とりわけ話題となった劇的なピアノ・ナンバー“さらけだす”も彼の仕事だ。なお、この後にはI-DeAみずからSCARSに加入するも、現在は脱退している。

 

STICKY WHERE'S MY MONEY Pヴァイン(2009)

『Sweet Hell』では“Ma $hit”に登場するSCARS構成員のひとり。この初ソロ作はI-DeAがエグゼクティヴ・プロデューサーを務め、軽やかな“タマには”から感動的な“終わりなき道”まで、後ろ暗さに終始しない充実作に仕立てている。

 

VARIOUS ARTISTS SKY-HI presents FLOATIN' LAB BULL MOOSE(2012)

コラボによって多様な化学反応を目的としたSKY-HIのプロジェクト企画盤で、AKLOとの“Inside My Mind”にてI-DeAがトラックを担当。現在の両者がやらないタイプの渋いジャジー・ループに乗る様も新鮮だ。

 

I-DeA 12ways Flashsounds(2013)

間にソウル・カヴァー集やミックスCDなどを挿み、7年ぶりとなった3枚目のオリジナル作は、時流に即したトラックメイクも光る内容に。漢×D.O、般若×NORIKIYOと大物コンビ・チューンを仕掛け、AKLO、田我流、TAKUMA THE GREAT、PONYらの並ぶ布陣もフレッシュ。KOHHを抜擢した結びの“love”が素晴らしい。

 

R-指定 セカンドオピニオン Libra(2014)

新作で“俺の使い道 Remix”に駆けつけているR-指定だが、〈UMB〉連覇でMCバトルを極めていた時期のデビュー作でI-DeAに総監督を委ねていた。直接トラックを手掛けた4曲に止まることなく、I-DeAの審美眼が行き届いたリリカルな佳作だ。

 

BCDMG KING'S VIEW BCDMG(2015)

JASHWON率いるプロデュース&クリエイティヴ集団の3作目。前作『Ordinary Life』(2013年)の頃からそのメンバーに名を連ねるようになったI-DeAは、映画「TOKYO TRIBE」サントラを経た本作では紅桜を招いた“Stand By Me”をプロデュースしている。

 

KOHH DIRT GUNSMITH PRODUCTION(2015)

『MONOCHROME』にも再収録された“love”を契機とするKOHHとの縁は、今作における“Be Me”のプロデュースに結実。緩やかなメロディー感を湛えた簡素なループで大らかなラップぶりを受け止める手捌きはI-DeAならではだろう。

 

GOKU GREEN HOTEL MALIFORNIA BLACK SWAN(2015)

互いの新作に参加する格好になったGOKUとI-DeA。〈CCG〉コンピ提供曲の“Were You There”に続いた本作所収の名曲“Childish~I'll Feel Sorry For My G Thang”でも洒落たフュージョン風味のメロウネスで魅了する。

 

菊丸 ON THE KORNER KANDYTOWN/Pヴァイン(2016)

この年の重要作だったIOの『Soul Long』をミックスしたのはI-DeAだが、KANDYTOWN繋がりでいうと本作収録の“KT4L”が彼のプロデュースだ。レイドバックした語り口を大胆なネタ使いの熱気で盛り上げる円熟の技がいい。

 

BES The Kiss Of Life ILL LOUNGE(2017)

長いブランクからのカムバックを支えるべく、文字通りの裏方としてI-DeAが奮闘した一作。ビターな路上感の渦巻く冒頭の“I Wanna Shining”、希望を残すシメの“Walk”、と彼が直接トラックを提供した2曲も役割を果たした好盤。

 

KM$,I-DeA GODS WORK TAKARABUNE(2017)

今回の『SWEET HELL』から間を置かず、9月にリリースされるEPは、城南のラッパーであるKM$と全面タッグを組んだ5曲入りの作品。I-DeA作品ではすでにお馴染みのMEGA-GやT2Kも参戦し、B.I.G. JOEや秋田犬どぶ六、P'zとのコラボも同時に実現させた格好となる。ヴェテランの域に達しても意欲的な仕事ぶりが頼もしい!