見よ、このふてぶてしい面構えを! 過去の栄光を無理に拭うのでもなく、だからといってすがりつくのでもなく、自身の半生を詰め込みながら未来を見据え、リアムがリアムらしい堂々たる姿でソロ・デビューだ!!

ファンの無念を晴らす一枚

 ビーディ・アイが2013年6月に発表した2作目『BE』は、もっと高評価を得ても良かったのでは?――そんな気持ちが個人的には残っている。シンガーとしてのリアム・ギャラガーの素晴らしさはオアシス時代から誰もが認めるところだと思うが、ソングライターとしてのリアムの個性は、それこそ彼のパブリック・イメージとは大きく異なる。60年代のロックンロールを思わせる部分も彼の書いた曲にはしばしば顔を出すが、リアム曲の真骨頂と言えば繊細な柔らかさとたおやかさ、そして優しさ。『BE』ではそんな彼の側面もじっくり堪能できた。しかしリリースの1年4か月後にビーディ・アイは突然の解散。とても残念だった。

LIAM GALLAGHER As You Were Warner Bros./ワーナー(2017)

 それからちょうど3年。ついに完成したリアムのキャリア初となるソロ・アルバム『As You Were』は、ビーディ・アイがファンの心に残した無念を、きちんと昇華してくれる作品に仕上がっている。と同時に、オアシスの解散後に兄以外のメンバー全員とそのまま進んだのがビーディ・アイだったことを考えると、ついにリアムがオアシスを脱皮して次の一歩を踏み出した一枚とも言えよう。ジャケット写真(エディ・スリマンによる撮影だそう)を見た瞬間から、嬉しくなってしまった。ニコリともしていないのが良い。ステージの上で決して笑顔を見せない男が、ようやく第一線に帰ってきたわけだ。

 今年6月にリリースされた先行シングル“Wall Of Glass”では、このキーでいまもダイナミックな曲調を歌えるリアムの喉にも驚いたが、アルバムを通して聴くと、アコースティック・ギターの似合うミディアム・ナンバーの美しさがやはり大きく心に残る。だから、オアシスの初期作品のようなサウンドをゆめゆめ想像するなかれ。むしろ、例えば“Paper Crown”のシンプルでフォーキーなアプローチだとか、“Universal Gleam”のようにオーソドックスなシンガー・ソングライター然とした心地良い曲調とビートルズ風のサイケデリアを合わせた曲の出来が本当に素晴らしい。ドライヴ感のある“I've All I Need”といった楽曲も、できればライヴではエレキ・ギターの強めな音じゃなく、軽やかなムードを活かして演奏してほしいな、とすら思う。

 

何歳になっても人間は成長できる

 この『As You Were』には、さまざまなミュージシャンやプロデューサーが関わっている。まずオアシス時代からのリンクという面で、マーク“スパイク”ステントの名前を挙げておきたい(ほとんどの曲のミックスを彼が担当)。それからプロデューサーとしてグレッグ・カースティン、ダン・グレッチ・マルジェラ、アンドリュー・ワイアットの名がクレジットされている。グレッグ・カースティンはフー・ファイターズやベックの新作にも参加する、近年の大型リリースのサウンド面を担ってきたプロデューサーだ。個人的には〈バード・アンド・ザ・ビーの……〉という枕詞を必ずつけたくなるくらい、女性シンガーとのタッグにより、洗練された生音感と心にスッと入り込むメロディーが融合した佳曲を数多く生み出し続けている人でもある。

 また、ダン・グレッチ・マルジェラはもともとエンジニアやミキサーとして名を成し、ナイジェル・ゴドリッチの下で働いていた時にはレディオヘッドの『Amnesiac』『In Rainbows』にも携わっていて、その後はヴァクシーンズやハーツ、トム・オデールをプロデュース。そして、アンドリュー・ワイアットはA.M.の元メンバーであり(このバンドからはマイケル・タイも“Chinatown”など複数の曲の共作者として名前が記載されている)、現在はソロ活動と並行して、マイク・スノウやブルーノ・マーズらの楽曲への関与でも知られている。

 ほかにも、カサビアンを脱退後にビーディ・アイに大きくコミットしたジェイ・メラーや、ベイビーシャンブルズのベーシストであり、ソロ・ユニットのヘルシンキでも好評を得ているドリュー・マコーネルがゲスト・プレイヤーとして関与。また、スノウ・パトロールやレインディア・セクション、タイアード・ポニーでの活動に加え、ジェイク・バグ“Two Fingers”などのソングライターであるイアイン・アーチャーも、リアムの曲作りをサポートしている。

 オアシス~ビーディ・アイ時代から継続して曲を書いてきただけあって、『As You Were』は初のソロ作にもかかわらず、良い意味でソングライティングがこなれている印象を受けた。その理由には、もちろん錚々たる裏方陣の助力も大きく関係しているのだろうが、リアム本人が年齢を重ね、さらに深みが出たということもありそうだ。それにしても、いまだに彼が椅子にじっと座って歌詞を考えている姿はなかなかイメージしづらい。しかし、“I've All I Need”で描かれる、ひとつの状況に別れを告げるなかで(死を歌っているのか、オアシスや過去の自分との別れを歌っているのか、どちらにも解釈できそう)、それを祝福しながら周囲にも光を届けている様子などは、とても静かな魂から言葉が紡がれているように聴こえる。それこそ、じっと座って作業している様子が浮かぶほど……。何歳になっても人間は成長できる。言い換えれば、何かを志した人間には必ず成長が訪れることをリアムは体現した。オアシスのデビューから23年。ここから始まるリアムの成長も、ずっと見続けていこうじゃないか。

関連盤を紹介。

 

ヴォーカリストとして、ソングライターとして、リアムはどのように成長し、そのスキルをソロ作へと繋げていったのか?

OASIS Definitely Maybe Creation/Big Brother(1994)

この初作から解散まで、兄貴が書いた曲を弟が力いっぱい歌うというオアシスの基本軸は変わらず。当時のリアムの歌唱はいまほどシャガレてなく、かつファルセットもたっぷり披露している。バンド時代のステージではここからのシングル曲“Live Forever”の裏声パートをノエルが担当するようになっていくが、今年の〈サマソニ〉ではきっちり一人で歌い切った!

 

OASIS (What's The Story) Morning Glory? Creation/Big Brother(1995)

リアムを正真正銘のスターに押し上げた大ヒット作。悪ガキ感を強調したかったのか、前作はわざと雑に歌っているような印象もあったが、ここではメロディーを丁寧になぞっていくパフォーマンスが目立つ。『As You Were』からの先行カット“For What It's Worth”のサビ前が、本作収録の“Don't Look Back In Anger”と重なるのは私だけ?

 

OASIS Be Here Now Creation/Big Brother(1997)

長尺曲が多く、前2作のようなストレートさに欠ける……という理由から、兄は後にこの3作目を酷評しているが、弟にとってはお気に入りの一枚だとか。管弦楽器を駆使した重厚感のあるアレンジが馬鹿デカい歌声を壮大に盛り上げる。表題曲でローリング・ストーンズにオマージュを捧げる様子や、ジョニー・デップ客演曲で珍しくシャウトする姿が微笑ましい。

 

OASIS Standing On The Shoulder Of Giants Big Brother/Epic(2000)

創設メンバーの脱退や所属レーベルの閉鎖を乗り越えての同作は、サイケ期のビートルズを強く意識した内容に。兄のヴォーカル曲が増えていくなか、リアムも負けじと存在感をアピールすべく“Little James”で作詞/作曲に初挑戦。メリハリのないメロディー展開に評価は分かれたものの、義理の息子へ向けた優しい言葉と声で新境地を開拓している。

 

OASIS Heathen Chemistry Big Brother/Epic(2002)

メンバー交代の影響なのか、ドラマー以外の4人がソングライティングに関与し、リアムも3曲でペンを執っている。そのうちのひとつで、シングルにも採用された“Songbird”は、70年代のシンガー・ソングライター作品を思わせる内省的でフォーキーな仕上がりだ。“Paper Crown”をはじめ、『As You Were』全体のトーンとどことなく通じる部分もあり。

 

OASIS Don't Believe The Truth Big Brother/Epic(2005)

引き続き半数の曲を兄貴が書き、残りを他のメンバーが分担しているが、多彩な曲調で魅せた前作と比べ、アルバムとしての統一感を重視。60sブリティッシュ・ロック風のナンバーがひしめき、ギターのストロークに煽られてリアムの歌声も勢いたっぷりだ。痛快ロケンローなソロ・デビュー曲“Wall Of Glass”の雛型は、本作収録の“The Meaning Of Soul”に違いない。

 

OASIS Dig Out Your Soul Big Brother/Epic(2006)

ビートルズ絡みの小ネタを要所で挿んだ7作目。リアムに焦点を当てた際にまず注目すべきポイントは、やはり彼の書いた“I'm Outta Time”だろう。ジョン・レノンのインタヴュー音声をサンプリングしながら、〈Imagine〉イズム溢れるメロディーを紡ぐとは! 他にも全編で遊び心が散りばめられ、まさかこの直後にノエルが脱退するとは思わなかったな!

 

BEADY EYE Different Gear, Still Speeding Beady Eye(2011)

残ったメンバーで結成したのだから、〈ノエル抜きのオアシス〉と言われてしまうのも当然か。そこでリアムが取った策は、〈俺様〉になるのではなく、民主的にバンドを束ねることだった。グルーヴを強化して、ビートルズやストーンズが恋い焦がれたロックンロールの先駆者たちにも敬意を表明。自由になった喜びは、物凄い声量からもひしひしと感じられる。

 

BEADY EYE Be Beady Eye(2013)

〈オアシスの3作目はこうあるべきだった〉とリアムが語るように、デヴィッド・シーテックが『Be Here Now』に通じる凝ったプロダクションを施し、そこにあのアルバムに不足していた美しいバラードを入れることで、一部のファンから喝采を浴びたセカンド・アルバム。歌パートには極力エフェクトを使わず、分厚い音の壁から生々しい声を浮かび上がらせる仕掛けが良い。