今年に入ってもカマシ・ワシントンやサンダーキャットが新作をリリースし、ジャンルの枠組みを超えて高い評価を得る作品やプレイヤーを多数輩出している現代ジャズのシーン。そのなかでもひときわ異彩を放ち、完成度の高さと実験性とを両立させた作品をリリースし続けているのがトランペッターのクリスチャン・スコットだ。近年、立て続けに来日公演をおこなっている彼が、2017年も10月30日(月)にBillboard Live OSAKA、10月31日(火)にBillboard Live TOKYOでライヴを開催する。
トム・ヨークの楽曲をカヴァーするなど、チャレンジングでエクレクティックな音楽性を特徴とするクリスチャン・スコット(2012年以降はアフリカの先祖へ敬意を込めて〈クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアー〉を名乗っている)。彼のバイオグラフィーや音楽的な解説は2015年に来日した際の柳樂光隆氏によるテクストに詳しいのでそちらを参照されたい。
スコットは共演盤も含めてこれまでに10以上の作品を吹き込み、今年は3部作をリリース中であるなど、非常に旺盛な創作意欲を見せている。そんな彼にとっての転換点であり、現在のところの代表作は、同名の自主レーベルを立ち上げて発表された2015年の『Stretch Music』だろう。
現在のスコットにとって重要なバンド・メンバーであるフルート奏者のエレーナ・ピンターヒューズを大々的にフィーチャーした同作は、リズムの多彩さに目を見張る。アフロ・キューバンからエレクトロニカ、アフリカン・パーカッション、エレクトリック・マイルスを思わせるようなハードなファンク・ロックまで、1曲ごとにまるでちがう顔を見せている。テーマ部分における管楽器のアンサンブルはオーセンティックに聴こえるが、トランペットの独特の音色や作品を覆っている独特のアンビエンスはクリスチャン・スコットならでは。まさにジャズというジャンルのフレームに他の音楽言語を持ち込み、自在に伸縮(ストレッチ)させている。
2017年にスコットが制作している『Ruler Revel』『Diaspora』、そして10月20日にリリース予定の『The Emancipation Procrastination』はセンテニアル・トリロジー(100年間の3部作)と名づけられ、政治性、メッセージ性が非常に強い内容となっている。食糧不安、外国人嫌悪、ジェンダー、移民問題、気候変動、ファシズム……と、かなりものものしいテーマが掲げられており、3部作のダークなアートワークはそれを反映しているのだろう。
『Ruler Revel』と『Diaspora』において、スコットはラップ・ミュージック、とりわけトラップを自身の音楽に取り込んでいる。それゆえ機械的にループするフレーズや無機的なサンプリング・パッドの打音が目立つ楽曲が増えているが、それらもストレートなトラップの模倣ではなく、IDMやポスト・ロックのような複雑なビートに接近してしまっているのがスコットらしさと言えるだろう。ライヴではこういったリズム面における知的な複雑性と、生演奏ならではのダイナミックなインタープレイとが絶妙に絡み合ったものが期待できそうだ。
3部作ではまたスコットのプレイもミュートやノイジーなエフェクトがかけられたものが目立ち、作品のシリアスさを伝えている。エフェクターを多用するなど音色へ強い関心を寄せるスコットだが、トレードマークとなっているベルが上向きになったトランペットも独自の音色を探究した結果生まれたという。フリューゲルホルンやコルネットの特徴を備えたサイレン、それを小型化したサイレネット、フリューゲルホルンを改造したリヴァース・フリューゲルホルンなど、スコットが操る一風変わったオリジナル楽器の音色はライヴでどのように聴こえるのか。最新作である3部作のモードとなっているであろうクリスチャン・スコットの演奏を、世界標準のクラブであるBillboard Liveで心ゆくまで堪能したい。
LIVE INFORMATION
クリスチャン・スコット
2017年10月30日(月)Billboard Live OSAKA
1stステージ 開場17:30/開演18:30
2ndステージ 開場20:30/開演21:30
サービスエリア 7,900円/カジュアルエリア 6,900円
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2017年10月31日(火)Billboard Live TOKYO
1stステージ 開場17:30/開演19:00
2ndステージ 開場20:45/開演21:30
サービスエリア 7,800円/カジュアルエリア 6,300円
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