夏の始まりから新秋にかけて、ジャズ/ソウル/ファンク界のレジェンドたちがビルボードライブのステージに相次いで登場する。2025年7月上旬にはザ・ブラックバーズとパトリース・ラッシェンが、9月初旬にはジョージ・クリントン&パーラメント・ファンカデリックが来日公演を行う。

いずれも長いキャリアを誇り、音楽史に名を刻む存在でありながら、現在も精力的に活動する現役のアーティストである。それぞれの歩みと魅力をひもときながら、各公演の見どころに迫る。

 

ザ・ブラックバーズ

ザ・ブラックバーズがジャズファンクのグルーヴを生で伝える!

ザ・ブラックバーズは1973年、米ワシントンD.C.で伝説的ジャズトランペッターのドナルド・バードの門下生たちによって結成された。グループ名はバードが残したジャズファンクの名盤『Black Byrd』(1973年)に由来している。その名が示す通り、ジャズを出発点にファンク/ソウルへと飛翔したバンドだ。

当時はロイ・エアーズやハービー・ハンコックらがバンド形態でファンクに乗り出す動きが盛んな時代でもあった。そんな時代のトレンドと足並みを揃えるかのように、ザ・ブラックバーズもジャズにルーツを持ちながらファンクへと舵を切っていく。代表曲の1つ“Walking In Rhythm”は1975年に全米シングルチャートで最高位6位を記録、そのほか爽快な“Happy Music”やディスコ調の“Dancin’ Dancin’”なども人気を博した。

そうした上質な楽曲群のなかでも、特に“Rock Creek Park”はヒップホップ世代に再発見され、ビッグ・ダディ・ケインやデ・ラ・ソウル、エリック・B & ラキムといったアーティストらにサンプリングソースとして重宝されるなど、レアグルーヴの定番曲として知られるようになっていった。サンプリングでも失われない、硬派なファンクグルーヴと清涼感あふれるメロディを併せ持つ音楽性も彼らの大きな魅力だ。

現在はオリジナルメンバーであるキース・キルゴーやジョー・ホールらがバンドを率いており、結成50周年を機に本格的なワールドツアーを展開するなど精力的に活動中である。半世紀を経ても色褪せないどころか進化を続けるグルーヴを生で体感できる貴重な機会となるだろう。

 

パトリース・ラッシェン

熟練のプレイヤーたちを率いてパトリース・ラッシェンが久々の来日!

ザ・ブラックバーズの公演直後にはパトリース・ラッシェンが来日する。パトリースはジャズとR&Bの双方で才能を発揮してきたピアニスト/シンガーだ。幼少期よりクラシック音楽を学びながら、ハービー・ハンコックらに代表されるジャズピアニストたちの演奏に触れ、自らのスタイルを確立していった。

パトリースは1974年にアルバムデビューを果たし、当初は地元ロサンゼルスの名匠レジー・アンドリュースのプロデュースの下、プレスティッジ・レーベルからジャズ、フュージョン色の濃い作品をリリースしていた。しかし次第にブラックコンテンポラリーの流れを志向し始め、透明感のある伸びやかな歌声を武器にソウル/ディスコ路線の曲にも挑戦するようになっていった。

エレクトラ・レコード在籍時には“Forget Me Nots”を全米と全英の両チャートの上位に送り込み、同曲を収録したアルバム『Straight From The Heart』とともに大きな成功を収めた。

ちなみに“Forget Me Nots”は1997年にリリースされたウィル・スミス“Men In Black”の元ネタとして引用されたことでも注目を集め、『Straight From The Heart』収録のミディアムファンク“Remind Me”も数多くのヒップホップ/R&Bアーティストにサンプリングされるなど、90年代にはパトリース再評価の機運を生んだ。

パトリースはジャズからポップスまで幅広い音楽家との共演・制作を行い、ジャネット・ジャクソンのツアーで音楽監督を務めたり、映画やテレビの音楽を手掛けたりと、その活躍ぶりは実に華麗である。今回のビルボードライブ公演では、熟練のセッションミュージシャンたちを従えてステージに上がる。その卓越した演奏技術と甘美なボーカルで私たちを驚かせてくれるに違いない。