殊に90年代以降の、全世界的な〈ドキュメンタリー〉(これは括弧にくくらなければならないものだが)志向の強いフィクション映画が現れ始めるのは、89年にカサヴェテスが死に90年代初頭にパリで大規模なカサヴェテスのレトロスペクティヴが行われたことに端を発する。それは日本でも同様で、数作は紹介はされていたとはいえ、93年に今はなきセゾン系の映画館で『カサヴェテス・コレクション』という本BOX収録作品+『ラヴ・ストリームス』の6本特集が組まれたことが決定的であった。実はこの時映画館では閑古鳥が鳴いていた。しかし、その特集を見た者がカサヴェテスのような映画を撮り始める。特集作品は名画座で繰り返しかけられる。結果、2012年に93年と同じ6本の作品が特集上映され、渋谷の映画館は連日満席立ち見状態となった。
世界的に拡がる“カサヴェテス症候群”映画を前にして思うのは、当のカサヴェテス映画とは似て非なる点だ。
インディペンデントの父といった称号を含め、カサヴェテス映画の生々しさを、“ドキュメンタリー性”“即興性”を基に追い求めてしまいたくなる。しかし、そこが罠なのではないか? 処女作『アメリカの影』を除けば、カサヴェテスはまず脚本ありきの製作スタイルであったことを見逃してはならない。
その点で、先日刊行された『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』という本をオススメしたい。映画監督塩田明彦による講演集なのだが、1章を割いてカサヴェテスと他の映画との作法の違いを具体的に解説していて目から鱗なこと請け合いである。
本BOXは、先述のレトロスペクティヴのうち 『ラヴ・ストリームス』を除く5作品が2014年HDリマスター版&リニアPCMの高音質のブルーレイで蘇った。最新技術で蘇る、進歩しない人類の感情の記録。人類が感情を失うまでカサヴェテスは永遠に蘇り続けるだろう。