©Nobuo Mikawa

新発見の歌を含む、本当に多彩な武満世界の集大成

 1996年に亡くなった武満徹は今の音楽好きな若者たちに、どんな風に認識され、その音楽はどう感じられているのだろうか。かなり気になるのだが、そんな時、あまり武満さんのことを知らないという若者がもし居たら、この鈴木大介の新しいアルバムをそっと手渡してあげたい気分なのだ、私はいま。鈴木大介はクラシックのギタリストであり、ギター曲を比較的たくさん遺した武満のよき再現者、理解者、研究者である。今回の没後30年を記念したアルバムでは、これまでに何度か録音して来た作品も収録されているけれど、新しい発見による作品も収録されていて、鈴木の武満への没頭ぶりを感じることが出来るアルバムになっているからだ。

鈴木大介, 岩佐和弘 『海へ』 ART INFINI(2026)

 「実は2021年に武満さんの作品を編曲した楽譜を出版(ショットミュージックより)しているのですね。そこに今回の録音に収録した“今朝の秋”や“燃える秋”なんかも入っていた訳ですが、そうしたものを含めて、今の時点で自分が取り組んで来たギターによる武満作品の集大成というか、まとめみたいな作品集を作りたいという想いがありました。同時に、フルートの岩佐和弘さんからのどうしても武満さんの“海へ”をもう一度録音したいという強い願いもあって、じゃあ、それも入れて、さらには2016年のラ・フォル・ジュルネの時に“島へ”という作品を編曲していたので、それもアンコールピース的な感じで入れてしまおうとか、たくさんのアイディアが出て来たので、それが様々なルートで今回のアルバムに繋がったという感じですね」

 と、鈴木はいつものようにあっさりと言うのだが、実はその中に、偶然の発見やら、海外からの質問に答えるために探索した結果で発見された作品とか、本当にドラマのようなエピソードも詰まっているので、ますます、武満徹という人に興味が沸くというステップを私は踏んでいるのだ。

 「今回の録音で大きな発見だったのは〈ラジオ・ドラマ〉の音楽だったと言えるかもしれません。実はフラメンコの世界的人気ギタリスト、カニサレスと共演する機会があって、奥さんは日本人の小倉真理子さんなのですが、彼女も実はフラメン コの研究者となっていて、スペインでとても顔が広い。知り合いにスペインでの武満徹研究の権威みたいな先生が居るので、その先生の学術誌に武満さんのことを書いてくれないかと依頼が来て、そこで僕が1万5000字ぐらいの文章を書いて、それを小倉さんが翻訳してくれた。その過程で、武満さんのエッセイをもう一度読み返したり、昔の音源を聴く機会があって、そこでひとつ発見があったのですよね。『瘋ふうてん癲老人日記』というラジオ・ドラマがあったのですが、それは武満さんが音楽を担当していて、そこにアルト・フルートとギターの曲があったのです。それがどうも『サクリファイス』に転用されたようで、実際には楽器の編成がちょっと変わるのですが、そのオリジナルのような形の音楽がラジオ・ドラマに使われていたと。これはびっくりでした」

武満徹が使用していたピアノ
撮影:鈴木大介

 それだけではない。最近までは“小さな空”がその主題歌と言われていたのだが、実際は今回のアルバムに収録された“おはよう! テキサス”という曲が、実は主題歌だったというとても良いお話!

 「実はアキレスという会社の一社提供で放送された『ガン・キング』という番組があって、その主題歌が“小さな空”と言われていました。しかし、アキレスの社史編纂室に配属になった寺岡伸明さんが会社の広報誌を全部最初から最後まで調べたら、その中に武満さんの“おはよう! テキサス”を発見して、これが『ガン・キング』の主題歌だということが分かったのです。ジェリー・藤尾さんが歌っていて、この曲をなんとかしてくれないか、と広島県・三原市芸術文化センター・ポポロの館長でもある片山杜秀さんと朝日新聞の吉田純子さんから依頼されたという経緯があり、そこで僕がメロディだけの譜面にギターの編曲を入れて、今回収録することになった、という長いお話があります。寺岡さんという方の想像を超える努力と根気がなかったら、発見されないままだった訳で、本当に調べれば調べるほど、武満さんの仕事の幅広さが分かる、身にしみて来る、そんな感じです」