ラッパーの気分がわかった
アルバムの導入は、40年後の年老いたPUNPEEが昔語りを始める“2057”。そこから……いきなり嘔吐して2017年、子どもたちのユルい歌声もファニーな“Lovely Man”へ流れ込む。
「トイレで吐いてるダメなシーンは、けっこう前にHARLEMで遊んでたら酔っ払って記憶なくなっちゃって、全然知らない工場の踊り場みたいな場所で目を覚ました時があって、〈アルバムの始まりに使えるな〉って思ったことがあったんすよ。それを組み合わせて自分の中でバッチリになってからは早かったです。おじいさんは昔話で綺麗に語ってるけど、実際はこんな感じ、みたいな(笑)」。
テーマや方向が定まる前から存在していた曲は、ミックスCDの『Movie On The Sunday』(2012年)に収録されていた“Renaissance”と、2年前にラジオで披露していた“Hero”、さらにはISSUGIとマイクを交わして「とにかくカッコ良いヒップホップのビートでヒップホップについて歌った」骨太な“Pride”の3曲。その“Pride”は90年代後半からUSの一線級で活躍しする重鎮ノッツ(バスタ・ライムズ、スヌープ・ドッグ、ラプソディ他)のビート提供を受けたものだが、モロにPUNPEE節な先述の“Lovely Man”も意外やノッツのトラックとなる。
「そう(笑)。何かこう、PUNPEEワールドなんすけどノッツなんです。それ、クレジット見た時に俺だったらアガると思ったんすよ。たまにあるじゃないですか、ジェイZのクレジット見て〈え、これノーIDなの?〉みたいな。あと、バックワイルドがいきなりやってたりとか。ノッツは昔からスゲエ普遍的なビートを作ってて、太いんですけど、しかもちょっとポップなんすよね。ノッツもまさか日本の子どもたちにフックを乗っけられると思わなかったと思います」。
他には、前から絡みのあるBudaMunk、LEF!!! CREW!!!のDJ MAYAKU、ドイツのジャカルタからリリースのあるラスカルもトラックを提供。全曲を自身のビートで固めなかったのも主役のこだわりゆえだ。
「例えばゼロからトラックを作ったとして、クォリティー的には高いけど〈何も起こってないトラック〉だとおもしろくなくて。ヒップホップってちょっとした不協和音とか、ヘンなのを入れちゃったらカッコ良くなるじゃないですか? でも、そういうのって5曲に1曲ぐらいしか自分では出来なくて、やっぱそういう、何か乗せる意味があるトラックを全部ひとりでは作れないかな、っていうところがあって、うん。人によって奇跡で出来ちゃったトラックってあると思うので、今回は〈何か起こってるトラック〉だけを集めた感じです」。
一方で、声のキャスティングは最小限。もともとフロウのユニークさやフック作りには定評のあるPUNPEEだが、今作ではSugbabeも交えていつも以上にメロディアスな領域にも踏み込みつつ、スクリプトに応じたヴァリエーションのある名演で楽しませてくれる。
「ビートが集まって、ラップはわりとラフにやれると思ったんですけど、全然そうでもなくて。書きはじめたら大変で、ラッパーの気分が初めてわかった(笑)。フロウがやっぱ一緒になっちゃうし、使う言葉もそうだし、単調になると飽きちゃうじゃないですか。何だろうな、ラップでバチッとくる歌詞と、メロディーでグッとくる歌詞ってあって、フックは自然にメロディーになりましたね、うん。んで、こだわるとやっぱ長くなっちゃって、トピックスに沿った映画を3本観なきゃ書けないとか……大変でしたね、リリックも。でも、いま思うとおもしろかったっすよ」。