©James Matthew Danie

開園150年の上野公園に生まれた、音を介した新感覚パブリックアート!

 アメリカ人アーティスト、エレン・リードによるSOUNDWALKは、個々人がスマートフォン片手に公園内を移動しながらGPS(現在位置情報)によって音の変化が楽しめるアート作品だ。東京・春・音楽祭によるクラウドファンディングが成功し、上野公園での開催が決定した。制作のため来日中の彼女を訪ねた。


 

――まず、あなたの生い立ちについて教えてください。

「テネシー州東部のグレートスモーキーマウンテン(注:ノースカロライナとテネシーの間のアパラチア山脈の一部)近くに育ち、虫の音をはじめ、自然音に恵まれた環境で育ちました。幼少期から教会の聖歌隊で歌い、モータウン好きの両親に育てられ、アメリカの伝統とも言えるマーチングバンドもやりました。そのあとコロンビア大学のあるニューヨークに行き、地下鉄やクラクションなど、今までと異なる都市の環境音に驚きました。ジャズやクラシックの演奏に触れる一方、電球を付けた際のピッチを作品に用いたコンサートに行ったのを覚えています。大学卒業後は、タイに2年半滞在し、武術と舞踏と打楽器が渾然一体となった古典音楽の世界を経験しました。今まで習った音楽とは全く違うので混乱しましたが、大きな自由を感じ、影響を受けました。それからカリフォルニア芸術大学へ進学し、いま、この世界にいます」

――SOUNDWALKはどんな作品と言えるのでしょう?

「これは音楽をメディアとして用いた、パブリックアートの作品なんです。万華鏡のように毎回無限のパターンを作り出します。リスナーはどのように聞いてもらっても構いません。作品の入り方も自由。公園に来てどの方向に向かうかも、作品とどう過ごすかも自由なんです。

音楽面では、さまざまなジャンルから成り立っています。一流のアメリカ人演奏家たち、一部ロンドンの演奏家たちによる作品です。室内楽的な楽曲や、シンセサイザーの私自身の演奏、そしてクロノス・クァルテットとのコラボレーション楽曲がありますね。(クロノス・クァルテット代表の)デヴィッド・ハリントンは、強い磁力のような魅力のある素晴らしい人ですね。クロノスからとても大きな刺激を受けました」

――すでにNYのセントラルパークや、サンフランシスコのゴールデンゲートパーク、LAのグリフィスパークなどで開催されています。上野公園との違いなどあれば。

「複数の場所で同時に存在する作品の構想があって、音楽はモジュラー(注:交換可能な構成要素)です。私自身、もともと公園が大好きでルートのたどり方にも興味があったのですが、作品の全ては公園に関係しています。人々が公園をどう利用するか、そこにインスパイアされました。各々の公園の作品には、共通の要素はありますが、それぞれ個性があるんです。

上野公園のかたちや、緑や日差しや街灯などの光、また噴水にインスパイアされ、四季を想像しながら作曲しました。例えば、不忍池はとても好きな場所です。蓮は今は黄色ですが、緑色になったり、花が咲くときを想像しました。古い墓地や寺社、動物園が近くにあったり、人々が行き来する職場が近くにあることが、作品の可能性を拡張してくれますね」

――環境音なども聞こえる配慮があったという、SOUNDWALKの狙いとは?

「通常の作曲とは違い、この作品は実際に歩いてみて確かめながら作りました。すると、水面を反射する光、日光、鳥の鳴き声などに気づきました。音としては、鳥の鳴き声、人々の会話、風の音などが聞こえる余白を作ろうと思いました。その瞬間へと、世界へと入り込めるような、生き生きとした作品を目指し、曲作りでは少しスペースを作り、遅くして余白感を大事にしています。それは今のわたしの作曲にも影響を与えているんです。

SOUNDWALKは、リスナーもコラボレーターです。いる場所によっても、時間帯によっても、同じ場所でも全く違う環境になるので、音楽の受け取り方は大きく変わります。是非作品に触れてみてください。上野公園の新たな側面を知るきっかけになれば」

 


エレン・リード
同世代で最も革新的なアーティストの一人であり、オペラ、サウンドデザイン、映画音楽、アンサンブル、合唱等、幅広い作品を手がける作曲家、サウンドアーティストである。オペラ「プリズム」は、2019年のピューリッツァー賞・音楽部門を受賞した。
作曲家のミッシー・マッツォーリとともに、ルーナ・コンポジション・ラボを共同設立。これは若い女性やノンバイナリー、ジェンダー規範に抗する作曲家のための指導プログラムである。19年からは、ロサンゼルス室内管弦楽団のクリエイティブ・アドバイザー及びコンポーザー・イン・レジデンスを務めている。
コロンビア大学で学士(美術)、カリフォルニア芸術大学で修士を取得。世界各地の音楽からインスピレーションを受けており、お気に入りの2都市、ロサンゼルスとニューヨークで暮らす。作品はデッカ・ゴールドからリリースされている。
ロサンゼルス・タイムズ紙いわく、〈一言でいえば、リード到来〉。

▼SOUNDWALK東京春祭ページ
https://www.tokyo-harusai.com/sound-walk/

▼SOUNDWALKエレン・リード側ページ
https://www.ellenreidsoundwalk.com/tokyo

 


INFORMATION

東京・春・音楽祭2023
2023年3月16日(土)~2023年4月18日(日)
https://www.tokyo-harusai.com/

Ellen Reid SOUNDWALK 開催概要
2023年3月6日 (月)~(約1年間)東京・上野恩賜公園
作曲・音響デザイン:エレン・リード
演奏:クロノス・クァルテット(弦楽四重奏)/シャバカ・ハッチングス(尺八/クラリネット/サクソフォン)/ナディア・シロタ(ヴィオラ)/SOUNDWALKアンサンブル
プログラム:エレン・リード作曲作品、クロノス・クァルテット「50 For The Future」より