Photo by Matthew Pandolfe

 

ジャズ・シーンをアップデートする、いま注目すべき女性ジャズ・シンガー

 グレッチェン・パーラトやベッカ・スティーヴンスに続き、ジャズ・シーンをアップデートしていく女性シンガーとして注目されるサラ・エリザベス・チャールズ。彼女が自身のバンド、SCOPEを率いて制作した最新アルバム『Free Of Form』が届けられた。ディープなエフェクトが施された緻密なサウンドの奥から聴こえてくる歌声は、宗教的ともいえるほど深遠で美しい世界が宿っている。2年前の前作『Inner Dialogue』も深みを感じさせる傑作であったが、本作ではさらにスケールが大きくなった。

SARAH ELIZABETH CHARLES Free Of Form コアポート(2017)

 「前作は自身の内面を素直に表現したのですが、今作ではこれまで躊躇していたテーマを取り上げました。例えば、人種問題、暴力、戦争、依存症などです」

 と本人が語る通り、社会派という一面も大きいが、そういったテーマをバランスよく形にしているのは、前作に引き続き共同プロデューサーとしてクレジットされているクリスチャン・スコットの力も大きいだろう。彼はトランペット奏者としてはもちろんだが、ヴォーカルを引き立てるサウンドを見事に構築している。

 「クリスチャンとは絶妙に一致している反面、多くの違いもあります。ただ、彼が後押ししてくれたおかげで、今までやりたくてもできなかったアイデアを実行に移すことが出来ました」

 そして、そのバンド・サウンドは、長年タッグを組んできたSCOPEとの信頼関係とともに生じる緊張感の成せる技ともいえる。ジェシ・エルダー、バーニス・アール・トラヴィス2世、ジョン・デイヴィスという3人によるサウンドは、ポスト・ロックやエレクトロニカを通過したエフェクティヴな音響空間を作り上げており、もはやジャズという言葉に閉じ込めておくことに違和感を感じてしまうほど斬新で刺激的なのだ。

 「メンバーはクリエイティヴなファミリー的存在です。ジェシはこれまでに共演したなかで最も想像力のあるピアニスト。バーニスはバンド・サウンドを確固たるものに仕上げてくれるベーシスト。ジョンは一緒にプレイしている相手が誰であろうとその曲のストーリーをひとつにまとめ上げるようなプレイをするドラマー。彼らは音楽制作に欠かせない存在であるし、私のすべてといってもいいかもしれません」

 サラ・ヴォーンやニーナ・シモンへのリスペクトを表明するだけあってジャズ・ヴォーカリストとしてのスキルは十分だが、それ以上にラジカルな音楽を追求する姿勢こそ彼女の根幹といえる。ロバート・グラスパーやケンドリック・ラマーの動きも横目で睨みつつ創作を続けるサラ・エリザベス・チャールズは、しばらくジャズ・シーンを揺さぶり続けてくれるはずだ。