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福島県で最初にmini KORG 700Sを買ったのは僕だった

Quarta 330「中潟さんの音楽では『ブライファイター(無頼戦士)』(90年)が好きなんです。あの音楽はブラスバンドっぽいと思っていました」

中潟「懐かしいですね(笑)。『ブライファイター』のシャッフルのリズムは『サンダーセプター』から来ています。

僕は中学時代はブラスバンドでトランペットやホルンを担当していて、高校ではオーケストラをやっていたんです。その頃の名残が知らず知らずに出ているのかもしれないですね」

「ブライファイター(無頼戦士)」プレイ動画

Quarta 330「中潟さんはナムコ入社前からAQUA POLISというプログレッシヴ・ロック・バンドで活動されていたそうですね」

中潟「ええ。僕はイエスやピンク・フロイドなど、プログレを聴いて育った世代なので。70年代のミュージック・シーンは非常に混沌としていておもしろかった。当時、僕は中高生だったので直接的に大きな影響を受けました」

hally「プログレではさまざまな楽器が使われますが、なかでもシンセに心を奪われたんですか?」

中潟「ピアノをやっていて、冨田勲先生の音楽が小さい頃から大好きだったんです。冨田先生がシンセサイザーにいち早く注目していたので〈シンセサイザーという楽器はすごいんだ〉と思って。

時をおなじくしてプログレ・バンドがこぞってシンセをロックに取り入れるようになったので、〈じゃあシンセ買わなきゃ!〉と(笑)。親をだまくらかしてお金を出してもらって、ほぼ国産1号機と言えるmini KORG 700Sを高校3年のときに購入しました。KORGがまだ京王技研と呼ばれていた時代です。福島県で最初に700Sを買ったのは僕だったはずで、〈シンセのモニターになりませんか?〉というハガキが届いたこともありました(笑)」

Quarta 330「当時、シンセは新しいことをはじめるためのキー・アイテム的な存在だったわけですね」

中潟「ええ。〈シンセがなきゃ、はじまらない〉みたいな感じでしたね。その後はPolysixやDELTA、MS-20を使っていた時期があって、〈KORG一択〉になりましたね(笑)。ナムコに入社してからプロフェット5を……」

Quarta 330「いきなり値段が上がりましたね(笑)

日本での標準価格は170万円だった。シーケンシャル・サーキット社が78年に発売したプロフェット5はアナログ・シンセの名機とされている
 

中潟「もともとプロフェット5の音に憧れがあったんです。どうせ会社の機材申請で買ってもらうなら高いほうがいいだろうと(笑)。後には200万円を超えるEmulator IIも購入しますが」

hally「初期のゲーム音楽作曲家には、中潟さんのようにプログレからやって来た方も少なからずいらっしゃいます」

中潟スクウェアエニックスにいた菊田裕樹くんとかもそうだね」

※作曲家。代表作に「聖剣伝説2」「聖剣伝説3」「クーデルカ」など

hally「プログレやシンセが好きだったミュージシャンの血をゲーム音楽は色濃く受け継いでいるんですよね。僕らの8ビット直撃世代はそういったゲーム音楽を知らずに吸収して〈ここにしかない音がある〉と目覚めた。そこから今度は、ゲームボーイなどを楽器として用いるQuarta 330くんのような新しい世代のアーティストに繋がっていく。世代を超えた連鎖のなかで、おもしろい音楽が生まれ続けています」

中潟「なるほど。8ビット、16ビットでしかできない音やビート感っていうのは確かにあるんですよね」

 

ゲームボーイには楽器として魅力がある

中潟「Quarta 330さんがチップチューンを作るようになったきっかけをお聞きしたいのですが、もともと8ビットの音楽が好きだったんですか?」

Quarta 330「ゲームは兄に奪われていて(笑)、兄がやっているのを後ろから見ていることが多かったんです。音楽制作に関しては、ノートPCなんて買えなかったので、音楽の制作環境を外に持ち出そうと思っても出来なかった。

そんなとき、当時入り浸っていたシンセサイザー関連のBBSの管理人だったChesterfieldさんやその周辺の人に〈ゲームボーイで音楽を作れる〉と教わったんです。その後、おなじBBSで当時から仲の良かったSaitoneさんが大学入学祝いとして〈LSDj(Little Sound Dj)〉という音楽を作ることに特化したスウェーデン製のソフトをプレゼントしてくれました」

※ChesterfieldやQuarta 330とともに、ゲームボーイを使用した日本のチップチューン・シーンで黎明期から活動するプロデューサー

hally「いまで言う〈インディー・ソフト〉ですね。ゲームボーイで音楽を作れるソフトが、ちょうど出はじめた時期に、日本でいち早く触ったうちの1人がQuarta 330くんでした」

中潟「それは何年ごろ?」

Quarta 330「2003年ごろですね」

中潟「ゲームボーイの画面のなかで音楽を作っていくの?」

Quarta 330「そうです」

hally「〈LSDj〉は画面がすごく合理的に作られているんです。最初はみんな、たどたどしい作り方だったんですけど、あっというまにプロ顔負けの曲を作る人が登場して、ゲームボーイの音楽は一気に賑やかになりました」

中潟「あの小さい液晶画面のなかでシーケンスも組めるの?」

hally「かなり細かいものが組めます。Quarta 330くんの世代のアーティストはファミコンやゲームボーイが出している音そのものが好きで、ゲームの思い出はそこまで音楽に影響していないんです」

Quarta 330「もちろん思い出はありますが……」

hally「それはそれとして、音楽は別物。だから、チップチューンのアーティストは〈ゲーム音楽だったらアウトだろう〉と思うような音を出すんです(笑)。例えば、Quarta 330くんはいち早く〈チップチューンでは低音がどこまで出せるか〉ということにトライしていました」

中潟「でも、ゲームボーイで低音を出すってなかなか難しいよね」

Quarta 330「そうですね。でも、ゲームボーイの最低音はC0――周波数で言うとだいたい33Hzなので、クラブでも再生できないような超低音が出せるんです。低音といえば、昔のゲーム音楽はベースラインがすごく高くて、歌うような動きをしますよね」

中潟「ゲーム機のスピーカーで聴こえるようにしないといけないから、そうなっちゃうんだよね。そういう制約を取っ払って、ちゃんとしたオーディオ・システムで流すことが前提であれば、もっとおもしろいことがいっぱいできそうですよね」

Quarta 330「こういう感じの音楽です(Quarta 330の曲をかける)」

Quarta 330の2007年の楽曲“Sunset Dub”

中潟「なるほど。完全にゲームボーイを楽器として使っているんだね! 素晴らしい!!」

Quarta 330「ええ。ゲームボーイにしか出せないような音量や音程の変化の仕方があるので、楽器として魅力があると思っています」