輝かしい旋律、四半世紀後のお色直し――傑作「FFVII」異色の小編成アレンジアルバム
ファイナルファンタジー、第1作が1987年に発売されて35年の歴史を有する日本が誇るRPG……と説明するのも野暮ではあるが、その中でも一つだけ大きな転換点に着目したい。
1997年、「ファイナルファンタジーVII」の発売。シリーズで初めて3Dグラフィックを採用し、美麗で立体的に表現された映像にプレイヤーは度肝を抜かれたことだろう。故に四半世紀経た今でもファンの心を掴み続け、近年ではリメイクも制作されるほどの人気ぶりを誇る。まさに〈ビデオゲーム界、稀代の傑作〉〈RPGの金字塔〉にふさわしいタイトルである。
植松伸夫が手がけるFFシリーズの音楽は、改めて説明するまでもなく、歴史に残る素晴らしい作品が目白押しなわけだが、もちろんこの「VII」も名曲に溢れている。そんな「VII」にフォーカスを当てた新たなアレンジアルバムがリリースされた。ヴァイオリン・ギターなどの弦楽器アンサンブルとパーカッションというシンプルな編成で構築された『Radiant Melodies – FINAL FANTASY VII』。名曲・人気曲を多数擁するが故、FFシリーズの音楽は数多のアレンジアルバムが発表されてきた。ピアノ、オーケストラ、ジャズ、エレクトロニカからサンプリングリミックスまで挙げればキリがないが、クラシカルというわけでもない小規模編成のこのようなアレンジは過去に例はなかったのではないだろうか。
音楽ユニット〈SNAKE〉でも知られるヴァイオリニスト:真部裕。エレキベース・コントラバス双方を操るベーシスト:木村将之。エレキ・アコースティックからガットまでマルチにこなすギタリスト:黒田晃年。本盤でもドラム・ティンパニなど数多の打楽器を聞かせてくれるドラマー:工藤明の4名が参加。楽曲アレンジは真部裕、木村将之の両名が手がける。紹介の通りエレキ・アンプラグド共にマルチに楽器を奏でるプレイヤー達なので楽曲ごとに使用する楽器は異なる。然るにアルバムを通して音像・色彩が非常に豊かなのである。
本盤では10曲が採用されている。
Tr.1 “爆破ミッション”。サントラでもオープニングとなる楽曲だが、ストリングスが印象的な導入もソロ・ヴァイオリンが怪しく魅せハードなアレンジにつながっていく。冒頭から期待値を上げてくれるのが非常に憎い。
Tr.2 “ティファのテーマ”。ラテンな雰囲気かと思えばどこかボサノヴァも感じなくもない異国情緒が印象的だ。オリジナルでは穏やかなメロディが、スピード感ある変形が施され清々しさと爽やかさ溢れるアレンジに仕上がっている。この時点でこのアルバムの語法の豊かさに感服する。
Tr.3 “闘う者達”。〈RPGといえば〉ともいうべき戦闘曲BGM。エレキギターが壮絶なイントロを奏でた後、原曲の勢いをそのまま拡張させたハードなアレンジである。
Tr.4 “教会に咲く花”。原曲が少しミスティックで静かな楽曲だったが、こちらは朗らかで思わず体揺らしてしまう楽しげなアレンジ。ただ中盤ではすこしセンチメンタルになり曲内で多面的に楽曲を捉えている。アレンジアルバムの醍醐味をここで感じられる。
Tr.5 “更に闘う者達”。シリーズを通しても人気の高いボス戦闘曲。冒頭はいきなり無伴奏ヴァイオリンが激しく奏で主要メロディの提示部を担う。アルバム中盤のクライマックスとしては申し分ない良アレンジを堪能できる。
Tr.6 “ゴールドソーサー”。煌びやかで華やかな原曲のイメージと異なり、ほのかなカントリーの香りを感じて実に味わい深い。
Tr.7 “星降る峡谷”。こちらは原曲のフォルクローレ風な雰囲気を踏襲している。朗々と歌うヴァイオリンが非常にフォーキーで耳に残りやすい。
Tr.8 “忍びの末裔”。ゆったりとしたラグタイムのような原曲よりも少しテンポを上げおしゃれでジャジーな様相を呈する。非常に気分が明るくなり心地いいアレンジだ。
Tr.9 “完全なるジェノヴァ”。アルバムもいよいよクライマックス。ジェノバ戦BGMが期待を裏切らないハードサウンドで奏でられる。エレキベースの持つ推進力が楽曲全体を統制しこの上ないクールさを演出している。
Tr.10 “片翼の天使”。最終トラックはやはりこの曲。最終ボス:セフィロス戦BGM。FFファンのみならず人気のある楽曲である。本アレンジはオーケストラの派手さとは一線を画す、艶かしい妖しさに溢れているが、コーダではストレッタの如く畳みかけ圧倒的なフィナーレを築き全曲を締める。
小編成からは想像できない豊かな音像が既に非常に楽しいのだが、原曲と比較するとより音楽の奥行きを見出せる。発売26年目に突入した「ファイナルファンタジーVII」。まだまだ熱いこの名作をもっと味わえる絶好のアルバム誕生である。